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「Farm to Table」 
小豆島の農家〈HOMEMAKERS〉が
少量多品種の野菜栽培を続ける理由

小豆島日記
vol.342

posted:2025.2.24   from:香川県小豆郡土庄町  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  海と山の美しい自然に恵まれた、瀬戸内海で2番目に大きな島、小豆島。
この島での暮らしを選び、家族とともに移住した三村ひかりが綴る、日々の出来事、地域やアートのこと。

writer profile

Hikari Mimura

三村ひかり

みむら・ひかり●愛知県生まれ。2012年瀬戸内海の小豆島へ家族で移住。島のなかでもコアな場所、地元の結束力が強く、昔ながらの伝統が残り続けている「肥土山(ひとやま)」という里山の集落で暮らす。移住後に夫と共同で「HOMEMAKERS」を立ちあげ、畑で野菜や果樹を育てながら、築120年の農村民家(自宅)を改装したカフェを週2日営業中。
https://homemakers.jp/

HOMEMAKERSの農業のスタイル

多くの農家にとって冬という季節は、体を休め、
次のシーズンとその先に続くこれからのことを考え、準備する大切な期間。
小豆島で農業を営む私たち〈HOMEMAKERS〉も、
1月下旬〜2月中旬にかけてカフェの営業を冬季休業し、
昨年の状況を振り返ったり、作業場のメンテナンスをしたり、
普段やりたくてもできないことに向き合いながら、あれやこれやと考えています。

1月の畑の様子。小豆島は積雪することはほとんどないので、1年を通して野菜を栽培できます。氷点下に下がることはよくあるので、野菜の種類によってはビニールトンネルをかけて栽培することもあります。

1月の畑の様子。小豆島は積雪することはほとんどないので、1年を通して野菜を栽培できます。氷点下に下がることはよくあるので、野菜の種類によってはビニールトンネルをかけて栽培することもあります。

昨年秋に収穫して貯蔵しておいた「紅はるか」。薪ストーブの上でじっくり蒸した「ふかし芋」。農家の冬のおやつ。

昨年秋に収穫して貯蔵しておいた「紅はるか」。薪ストーブの上でじっくり蒸した「ふかし芋」。農家の冬のおやつ。

売上や利益など前年の状況を振り返るこの時期、毎年思うことがあります。
「今の農業のやり方を続けていていいんだろうか……?」

HOMEMAKERSの農業のスタイルは、

・平地が少ない離島の山間地域で、車で3分ほどの移動範囲に
約0.3反〜1反の小さな畑が17か所、合計約8.8反(8800平米)。

・年間通して100種類ほどの野菜と数種類の果樹を露地栽培。
基本的に季節にあわせて栽培、冬場も積雪はほぼなく野菜栽培が可能。

・農薬および化学肥料は使わない。有機肥料は使う。

・周辺の山から木、竹、落ち葉、草などの有機物を集めてきて、畑に入れている。
できる限り肥料を使わずに、周辺にある有機物を使って畑の土づくりをする。

・週1〜4日勤務のバイトが8人で野菜栽培と出荷を行う。
換算すると3人がフルタイム(週5日勤務)で働いている規模。

・収穫した野菜は、個人および飲食店に直接販売。
生姜と柑橘はシロップや調味料などの加工品にして販売。

オンラインストアで販売しているHOMEMAKERSの野菜セット。そのときにとれる7〜9品の野菜を出荷当日に収穫して発送しています。

オンラインストアで販売しているHOMEMAKERSの野菜セット。そのときにとれる7〜9品の野菜を出荷当日に収穫して発送しています。

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どうやって利益を上げている?

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それでも少量多品目の栽培を続ける理由

農業をしている人であれば、私たちの農業がどんな規模感なのか
すぐにわかると思いますが、利益をあげるのがとても難しいやり方です。
農地が狭く手間がかかるし、常に複数の種類の野菜を育てているので
栽培も出荷も手間がかかるし、とにかくありとあらゆるところで手間がかかっている。

10年以上農業を続けてきてわかったことは、野菜を少量多品目栽培し、
加工せずに野菜という生鮮状態で販売するかたちで
利益をあげていくのはとても難しいということ。
もちろん地理的な条件や働き方など、さまざまな条件によって
変わるとは思いますが、少なくとも私たちの今のスタイルでは、
野菜の売り上げだけで経営を成り立たせることはできないというのが結論。

ではどうしているかというと、

・シロップや調味料などの加工品を製造して販売

・飲食店(カフェ)を経営し、野菜を使った料理の提供、加工品の販売
を組み合わせて事業を運営しています。

昨年、カフェを移転し営業日が増えたことで、
野菜:加工品:カフェの売上はおおよそ1:1:1になりました。
売上から原価を除いた粗利益でみると、
野菜:加工品:カフェ=1:4:2で、野菜は最も少ないです。
この粗利益に、さらにその他の経費がのってくるので、
野菜販売による純利益はほぼゼロという状況。

2024年6月に廃校になった小学校をリノベして、移転オープンした〈HOMEMAKERS CAFE〉。広くなったのでイベントを開催することも増えました。

2024年6月に廃校になった小学校をリノベして、移転オープンした〈HOMEMAKERS CAFE〉。広くなったのでイベントを開催することも増えました。

栽培した生姜、柑橘を使ってつくっているジンジャーシロップ、ダイダイレモンシロップ。小豆島の旅のおみやげに買っていかれる方も多いです。

栽培した生姜、柑橘を使ってつくっているジンジャーシロップ、ダイダイレモンシロップ。小豆島の旅のおみやげに買っていかれる方も多いです。

そんな状況でも、私たちが少量多品目の栽培を続ける理由はとてもシンプルで、
家族や仲間とみんなでおいしいごはんを食べることが好きだから。

色とりどりの野菜料理が並び、季節を感じることができる食卓は、
日々の暮らしを豊かにしてくれる。
みんなで食卓を共に囲むことで、より仲良くなれる。

この冬のHOMEMAKERSのまかないごはん風景。みんな腹ペコで、早く食べたい一心で自分のお皿に料理を盛る。

この冬のHOMEMAKERSのまかないごはん風景。みんな腹ペコで、早く食べたい一心で自分のお皿に料理を盛る。

白菜のおひたし、レタスとチコリのサラダ、じゃがいも、にんじん、ラディッシュのロースト、紅はるかのローストなどなど。ビーツのスープも。

白菜のおひたし、レタスとチコリのサラダ、じゃがいも、にんじん、ラディッシュのロースト、紅はるかのローストなどなど。ビーツのスープも。

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新しいイベントを開催

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「Farm to Table」を、これからも

この冬、同じ瀬戸内海にある豊島、男木島の友人たちと
瀬戸内メリーゴーランド』というイベントを開催しました。
瀬戸内の島にはおもしろい人たちがたくさんいて、その人たちのことも、
初めて共同で開催した瀬戸内メリーゴーランドというイベントのことも
お伝えしたいのですが、説明がとても長くなってしまいそうなので、
詳細はwebサイトをご覧ください。
HOMEMAKERSは、男木島の〈ダモンテ商会〉チームとタッグを組んで、
台所チームとして参加し、イベント参加者のごはんを用意しました。

『瀬戸内メリーゴーランド』のイベントコンセプトは、「まわる! まわす!」。この日は節分だったので、子どもたちと一緒に巻き簾をまわして恵方巻づくり。

『瀬戸内メリーゴーランド』のイベントコンセプトは、「まわる! まわす!」。この日は節分だったので、子どもたちと一緒に巻き簾をまわして恵方巻づくり。

ダモンテくんが男木島で捕獲したイノシシを丸焼きに。くるくるまわして炭火でじっくり5時間以上焼きました。

ダモンテくんが男木島で捕獲したイノシシを丸焼きに。くるくるまわして炭火でじっくり5時間以上焼きました。

自分たちのホームじゃないキッチンで、
いつもと違う誰かと一緒に料理をするのはとても刺激的でおもしろかったです。
イノシシを丸焼きしたり、恵方巻きをつくったり、バームクーヘンを焼いたり、
みんなとても楽しそうで、おいしそうで、“食”というのはやっぱり
なくてはならないもので、人をつなげ、幸せにしてくれるものだなと感じました。

第1回となる瀬戸内メリーゴーランドは、豊島〈ShinAiKan〉で開催されました。ともにこのイベントをつくりあげ、ともに楽しんだみなさんと。

第1回となる瀬戸内メリーゴーランドは、豊島〈ShinAiKan〉で開催されました。ともにこのイベントをつくりあげ、ともに楽しんだみなさんと。

「Farm to Table 農場から食卓へ」という言葉があります。
アメリカ西海岸のバークレーにあるレストラン〈シェ・パニース〉のオーナーである
アリス・ウォータースさんが中心となって、ローカルの生産者が育てた
新鮮でオーガニックな野菜や果物をメインに料理し、食べる人に届けるという
考え方を世界中に広めてきました。

私たちの憧れのアリス・ウォータースさんと一緒に。2023年10月徳島県の神山にて。

私たちの憧れのアリス・ウォータースさんと一緒に。2023年10月徳島県の神山にて。

私たちが大切にしたいのは、やっぱりその「Farm to Table」という考え方で、
つくることと食べること、生きることがすぐ近くにある。
ただつくるだけじゃなくて、食べることも自分たち自身が楽しむ。

Farm, Cook, Eat together.
おいしい野菜のある食卓をみんなで囲もう。

HOMEMAKERSがかかげている言葉。
挑戦と失敗はまだまだ続きそうですが、とにかく野菜を育て続けようと思います。

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