連載
posted:2020.7.17 from:岐阜県美濃加茂市 genre:活性化と創生
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer profile
Miki Suenaga
末永三樹
すえなが・みき●1977年岐阜生まれ。一級建築士。明治大学理工学部建築設計卒業。設計事務所勤務を経て2012年に〈ミユキデザイン〉を設立。2016年に〈柳ヶ瀬を楽しいまちにする株式会社〉を共同設立、クリエイティブディレクターを務める。「あるものはいかそう、ないものはつくろう」を理念に、建築的な視点を持って「まちをアップデートし、次世代へ手渡す」ことを目指し、建築にとどまらずデザイン、企画・プロモーションなど包括的に考え実践する。一児の母。
http://miyukidesign.com
岐阜を拠点に建築、まちづくり、シェアアトリエの運営などの活動をする
〈ミユキデザイン〉末永三樹さんによる連載。
今回は、岐阜県美濃加茂市が舞台です。
新庁舎整備基本構想のプロポーザルを皮切りに、
川沿いの公園のプロデュース、里山にある施設のリノベーションなど、
自治体と一緒にチャレンジを重ねていく一連の動きを紹介します。
いよいよ最終回。ここまでを読み返してみると、
たくさんの出会いと試行錯誤があった8年間に目頭が熱くなります。
私たちが行政と仕事をするうえで、“いい感じ”の状態を言語化すると
「互いにチャレンジしている」です。
これを感じていないと、自分たちは空回りで、結果も出ない。
小さなことでもいいので、チャレンジを意識して仕事を組み立てています。
美濃加茂市に関わるきっかけは、2016年の新庁舎整備基本構想のプロポーザルでした。
事務所の実績や規模面から、対個人の仕事が多いなか、
「やっぱり公共建築にも関わりたいなあ」と
定期的にプロポーザルまとめサイトを眺めて、見つけた情報でした。
岐阜市から近いので土地勘もあったし、
「まちづくりに庁舎を生かす」というプロポーザルの仕様がユニークで、
提案できる幅が大きいこと、そしてなにより参加資格実績のハードルが低く、
自分たちも手を挙げられることが参加を後押ししました。
当時の市長は同世代で、まちの課題設定や政策など共感する部分が多く、
そんな首長がいる自治体なら、自分たちでも勝てるかもしれない、
そんな淡い期待を持ちながら真剣に取り組みました。
会社員時代から、建築系プロポーザルには何度もチャレンジしてきましたが、
このプレゼンテーションはいまでも鮮明な記憶として残っています。
私たちはまちの見立てを強いメッセージで伝え、
審査側も「なぜ?」「それは本当にできるの?」と鋭い質問を投げかけてくる。
委託業者じゃなくて、「人」を見て、一緒にプロジェクトを進める
チームメンバーになれそうかを判断しているのだと感じました。
そして結果的に、名もない私たちがパートナーとして選定され、
自分たちも本当にびっくりしました。
公共事業において、コンサルティング業務は、設計業務の上流にあります。
物事の考え方や方向性を決めるいわば根幹に近い部分です。
そこに踏み込むことは私たちが目指していたことであり、
とても大きな意味を持つことでした。
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さて、美濃加茂市は名古屋から電車で1時間ほどのところにあり、
古くから交通の要衝として中山道の宿場町で栄え、明るくオープンな人たちが多く、
雄大な木曽川や緑のあふれる豊かな自然に恵まれたまちです。
仕事が始まると、担当者の方が
「まずはまちの人に会おう!」と言って、まちなかに連れ出し、
歴史や政策を話しながら、庁舎建設の課題の大きさを共有し、
出会う人や店を私たちに紹介してくれました。
私たちは、「これから始まる庁舎づくりとまちのあり方は市民と共に考えたい」
という思いに応えるため、プロセスデザインにこだわりました。
移転先候補地を複数選定して比較し、従来の建て替え案だけでなく
民間活用の手法であるPFIなど、テクニカルな内容に加え、
まちの未来をどうつくっていくかのビジョンを含んだ選択肢を提示。
言葉の使い方から情報発信まで、子どもからお年寄りまでにわかりやすく
丁寧に行い続けました。
みんなで知恵を出すことも大切にし、委員会とよばれる有識者会議においても、
報告・承認の会議ではなく、ワークショップ形式とし、
その都度委員の方々とディスカッションを繰り返し、構想を組み立てていきました。
その集大成としてリリースしたものが『みのかもみらいのコンセプトブック』です。
できあがった構想は発表会と題して、委員会の参加者であり、
まちで活躍する若手市民の代表2名が発表。
公共空間活用のトークセッションを同時開催し、
夜の会場には150人以上の市民や関係者が集まり、
誰もが自分ごととして耳を傾けている姿が印象的でした。
人口規模にも関わることかもしれませんが、このまちでは、市役所職員=市民であり、
知り合いもしくは友だちのように語り合えるオープンな雰囲気、
居心地の良さなどがあり、すっかり美濃加茂市のファンになっていきました。
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そんななか、2017年の暮れに、私たちが兄貴として慕う
〈アースシップ〉の水口晶さんから連絡をもらいました。
アースシップは、楽しみながら自然を維持、再生するモデルを実践しており、
「(美濃加茂市の)木曽川沿いにある中之島公園の運営をやるから、
空間デザインをプロデュースできないか」とのこと。
ちょうど美濃加茂市のまちの状況がインプットされていて、
実際に場がつくれる! というので、ふたつ返事でチームに関わることに。
これが、〈リバーポートパーク美濃加茂〉(以下リバポ)です。
とりあえず、チームでコンセプトワークしよう! と水口さんの声がけで、
現場担当の石田巌根さん、飯田聡史さん、デザイナー堀義人くん、大工の佐口達也さん、
市役所の大塚雅之さんといった個性的なメンバーが集まり話し合うことに。
そこでみんなが目指しているのは、夏に訪れたニューヨークの
ブルックリン・ブリッジパークなんじゃないか? と話題にあがり、
公園のあり方、デザインイメージなどが共有されて、プロジェクトは一気に加速します。
建物は制度上、行政主導ですでに建築中だったので、
BBQサイトとその周辺をデザインの力でなんとかしないといけない。
床をキャンパスに見立てて、グラフィックを展開、
小屋や塀など工作物をコントロールして、行政色を感じさせにくく、
少し都会的であり、とはいえつくり込み過ぎず、
美濃加茂らしさもある世界観をつくっていきました。
みんなの思いは、イラストレーターのMACOちゃんが可視化し、
行政マンでありながら、運営側、利用者の目線で
長期にわたって関わってきた大塚さんのパフォーマンスがすばらしく、
最終的にみんなが目指す世界観を実現するため、常にバックアップしてくれていました。
隣接する森の手入れを行い、世話好きで何でもつくってしまう
藤井秀男さんの存在も忘れてはいけません。
リバポは美濃加茂市における官民連携プロジェクトの
草分けと言っても過言ではないプロジェクトだと思います。
本当にすばらしいチームで関われたことが誇らしいです。
ふらっと立ち寄るとついつい長居したくなる、そんな場所になりました。
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川といえば、山。
2018年には、美濃加茂市が力を入れている
「里山千年構想(里山の整備・活用)」の拠点でもある
〈自然環境保全林 みのかも健康の森〉の
小さなリノベーションにも関わることになりました。
目指すのは、子育て世代の利用の増加と拠点としての整備。
もともとは老朽化したトイレの改修がプロジェクト参加の入り口でしたが、
利便性の向上だけを目的にしないために、
ソフト(仕組み)を含めた管理棟のリニューアルとして、
里山を愛する市職員の山田夕紀さんが運営を担う森林組合や
地元のまちづくり協議会、マルシェなど精力的に活動しているお母さんたちに声がけ、
協力してもらい場づくりを行いました。
どんな場所にしていきたいか話し合うワークショップ、
里山の木を使ったグリーンウッドワークの体験とその什器の活用、
拠点の床貼りなどDIYイベント、オープンイベントとしてものづくりマルシェ、
トークセッションなど、里山をキーワードにさまざまな人が関わりました。
管理棟の改修では、子育て世代が利用したくなる仕掛けとして、
子どもの居場所やお世話しやすい環境、
ちょっとおしゃれでホッとする内装デザインを行い、
重厚な無垢材でつくられた既存の家具は、
手を加え使いやすくデザイン性の高いものにアップデートしました。
ハード整備とソフト事業を同時に動かし、地域の人同士が関わるきっかけを生み出し、
つなげていくことがポイントです。
SNSなどいままで使われていなかった広報ツールを立ち上げ、
1年運用したあと、現場の施設運営スタッフにバトンを渡し、
現在は、リニューアルとともに森林組合のメンバーに加わった山路今日子さんが
自らイベントや講習などを企画、施設に新しい魅力を加えながら、
里山を守る活動をしています。
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ほかにも、女性が気軽に集まったり相談にのれる場所を
ショッピングセンター内に設置したいというリクエストに応え、
市の女性若手職員さんと同世代のミユキデザインスタッフの
大澤佳絵さんが一緒になって相談カウンターをデザインしたり、
美濃加茂市立図書館から図書カードを新しくする相談を受けたり、
政策を市民に伝えるための絵本の企画・制作などのお手伝いをしてきました。
可能な限り当事者として、「空間+まち+未来」の視点を持って関わることで、
プロジェクトの種類や大小にかかわらず、
何かしら次へつながる答えを一緒に導き出せる。
そして、小さなプロジェクトの積み上げが、
まちの雰囲気をつくり出すこともあると信じています。
地方で設計事務所としてやっていくこと。
その職域や役割を考え始めたところから振り返ると、
本当にいろんなことに手を出していますね。
結果として、グラフィックデザイナーやコピーライター、
不動産オーナー、コンサルタントなど他業種の人たちとチームを組み、
共有できる価値観を持って仕事をつくっていくことは、いいやり方だと感じています。
建築はもちろん好きですが、建築の周りにある事象や物事を組み立てること。
それもやりたいことだったと発見することができ、
協働するパートナーとの役割分担が明確になったことで、仕事の質が上がりました。
仕事は暮らし。地方では、それを強く感じながら毎日を過ごせる。
私にはいい感じにフィットする生き方です。
最近では、仕事で出会った人たちとのつながりから、
スタッフがプロジェクトを立ち上げ、個人の活動を始めており、
そうした動きを応援しています。
自分が経験してきた設計事務所の働き方は、良くも悪くも
ほとんどの時間をプロジェクトに捧げるやり方で、それが染みついていました。
社会が変わり、働き方や場所の持ち方が多様になるなか、
会社の組織づくりも重要なテーマです。
さーて、全6回の連載はこれで終わり。
読んでくださった方、ありがとうございます。本当に難しかったです、毎回!
でも、おかげで自分たちのやってきたことを整理できました。また頑張れます。
編集をおつき合いくださった中島彩さん、本当にありがとうございました。
この文章が誰かの役に立てば幸いです。
そして、私たちのまちに遊びに来てください。
岐阜より愛をこめて。
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