連載
posted:2016.8.3 from:熊本県熊本市 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer profile
SHOTARO NAKAGAWA
中川正太郎
ASTER代表。1977年熊本市生まれ。20代前半から建築現場や家具店など内装に関わる職を経て、
2003年よりASTERで活動開始。ASTERは、熊本県内を拠点に個人住宅、店舗、賃貸物件などデザイン・設計・施工を一貫して行うリノベーション集団。ほかに、運営する“街のよろず屋”KUHONJI GENERAL STOREや、熊本のマニアックな物件を紹介するサイト「あんぐら不動産」なども企画運営している。
みなさんこんにちは。ASTERの中川です。
いよいよ最終回になりました。
最後にご紹介するのは、築140年の元酒蔵で、現在さまざまなイベントが開催され、
大勢の人々が訪れる場所となっている現代の熊本の文化発信基地。
〈早川倉庫〉をご紹介したいと思います。
早川倉庫は熊本市の中心市街地から車で10分、
熊本駅から市電で5分ほどの古町エリアにあります。
古町エリアは加藤清正が熊本城築城の際につくった町人のまち。
400年以上の歴史があります。
早川倉庫がある万町のほか、紺屋町、魚屋町、中唐人町など
碁盤の目のような町割りが特徴で正方形の区画ごとにお寺が必ずひとつあり、
その廻りを町屋が囲んでいます。
明治から大正時代には、多くの商店やデパート、娯楽施設などが建ち並ぶ
熊本の商業、経済の中心地として栄えたそうです。
その名残りで現在もまだ多くの古い町屋が残っています。最近ではこの魅力ある町屋を
改装したカフェやレストランなどもあり人気のエリアになっています。
早川倉庫は明治10年に建てられた今年で築140年の大型木造建築。
もとは〈岡崎酒類醸造場〉として、にごり酒の醸造所だったそうです。
1877年の西南戦争で一度焼失し、同年に再建された建物が今残っている建物になります。
聞いた話では、当時の明治政府が西南戦争後に焼け残った熊本城を解体し、
町人に払い下げを行った時期なので、
早川倉庫には熊本城の廃材が再利用されている可能性が極めて高いとのコト。
たしかにほかでは見たことのない、ものすごい梁などが使用してあります。
のちに履物問屋へ変わり、昭和29年に現在の貸し倉庫業、早川倉庫となります。
貸し倉庫業のかたわら、5年ほど前からマルシェ、演劇、展示会、ライブなど、
この空間の魅力に魅了された人々がさまざまなイベントを開催するようになりました。
この代々守り継いできた早川倉庫を今、新しく利活用しているのが、
写真の早川祐三さん。早川倉庫の倉庫番であり、ミュージシャンでもあります。
今の形態になる以前、
祐三さんはまず、当時まだ使われていなかった2階スペースの掃除から始めました。
ひとりで数週間、毎日床の雑巾がけをしたそうです。
それから建物の老朽化しているところを直したり、壁の補強をしたり、
ひとつひとつ、少しずつ時間をかけて全部自分で直していきました。
フルDIYです。こんな大型の木造建築をひとりで手を加えていくなんて
想像もできないですが、祐三さんはひとりでできるところから
コツコツとやっていきました。
いつかこの倉庫で何かしたいと漠然と思っていたそうです。
そんなとき、東日本大震災が起きます。
祐三さんは何かできないかと熊本でのチャリティーイベントを企画し、
早川倉庫のそれまで使われていなかったスペースで音楽イベントを開催。
それをきっかけに徐々にイベントスペースとして使われ始めます。
依頼が増え始めたのは、2011年12月に開催された、
岡田利規さん主宰の演劇カンパニー〈チェルフィッチュ〉の公演があってからだそうです。
世界的に活躍する劇団の公演を見た人たちが口コミやSNSで拡散しはじめ、
今ではクラムボンなど有名ミュージシャンのライブや
大規模な展示会なども行われるようになりました。
早川倉庫は建物が持つ圧倒的な存在感と空気感に祐三さんの感性が混ざり合い、
多くの人たちを惹きつける魅力となっているのだと思います。
早川倉庫では年間を通しさまざまなイベントが開催されていますが、
リノベーションのイベントも年に一度行われています。
〈リノベーションEXPO JAPAN〉です。
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一般社団法人リノベーション住宅推進協議会が主催する、
全国7エリア13会場で毎年開催されるリノベーションの最大級イベント。
現在、九州では福岡、北九州、熊本と3会場で開催され、
熊本会場はこの早川倉庫で行われています。
早川倉庫でリノベEXPOを行うようになったのは、
暮らしかた冒険家のふたりと出会ったコトがきっかけでした。
“暮らしかた冒険家”は
ウェブデベロッパーの池田秀紀さんと写真家の伊藤菜衣子さんの夫婦ユニット。
高品質低空飛行な生活をモットーに暮らし方を模索し、
東京から熊本へ移住して来たふたり。
2013年。熊本で最初のリノベEXPOを開催するにあたり、
トークイベントのゲストを探しているときでした。早川倉庫の祐三さんに
「古町エリアの築100年以上の町屋を自分たちでDIYしながら
暮らしている東京から来たすごい夫婦がいる」
とふたりを紹介してもらいさっそく会いに行きました。
訪れた“弊町屋”と名づけられた町屋は絶妙なセンスでリノベーションされていて、
DIYでつくったとは思えないほどの空間で驚きました。
さらに、施工前のあまりの廃墟な写真をみて二度驚きました(笑)。
そして熊本での初リノベ–ションEXPOに池田さんに登壇してもらい、
その打ち上げの席で、
「来年は早川倉庫で開催しよう」とみんなで話しました。
現在ふたりは札幌国際芸術祭への参加を機に札幌へ移り住み、
生き方やエネルギーのオフグリッドを目指して、日々暮らしを冒険しているそうです。
そうして翌年2014年、
早川倉庫で初開催したリノベEXPO熊本はとても多くの来場者でにぎわいました。
大きな特徴として、僕らのようなリノベーション事業をやっている
建築関係や不動産会社が主体のリノベーションブースに加え、
カフェ、コーヒーショップ、雑貨、アパレル、日用品など
熊本中のお店が一堂に集うマーケット、
〈Life Style Market KUMAMOTO〉を同時開催しました。
まずは受付で行われたのは、いきなり電動インパクトドライバーによるビス打ち体験。
来場者全員に、コンパネ板に描かれた地図に、
自分が住んでいるポイントへビスを打ちこんでもらいます。
“チェックインビス”と名づけた受付方法は、来場者の数、
性別と住んでいるところまでリサーチできるという体験型住居リサーチ集計システム。
あと、よかったのが、ビス打ち後はみなさん緊張がほぐれ笑顔で会場へ入っていきます。
会場に入ると早川倉庫の中庭スペースに飲食店とテーブルが並びます。
熊本の人気のカフェやコーヒースタンドの人気メニューが並ぶ、
このときだけのスペシャルなフードコートです。
DJがセレクトした音楽を聞きながらおいしいスペシャルティコーヒーと
ベーグルなんかを食べてると、ゆるくて上質な雰囲気に一瞬ここは日本か?とも感じます。
次に建物内に入ると、雑貨、アンティーク家具、眼鏡、洋服や
熊本で活躍する作家さんのアクセサリーなど物販コーナーが並びます。
どのお店もいい商品ばかりで感度の高いお客さんが集まります。
建物内では物販のほか、熊本のリノベーション会社が手がけた
リノベ事例のパネルなども展示されています。
来場者は飲食、物販からリノベーション事例へと自然な流れで見学できます。
イベントスペースではリノベセミナーも行われます。
リノベーションEXPOではリノベ業界のトップランナーが、全国から熊本に来られるので、
一般客だけでなく、建築や不動産など専門業者の方にも人気です。
そのほか、ワークショップや音楽ライブなども行われ
友だちや家族で楽しみながらリノベーションを知るイベントとなっています。
年々来場者も増えているリノベEXPO×Life Style Market。
2016年の今年も熊本は10月22日〜23日に早川倉庫で開催予定です。
よければぜひ遊びに来てください。
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つい先日、早川倉庫で、
“仕立屋のサーカス”というイベントを見てきました。
物語音楽家 × 裁縫師 × 照明作家 による、
音と光に合わせその場で服を仕立てていくという見たコトのない演出。
すごい世界観でした。
その場所でそのときしか体験できないライブ。
その夜、僕の知っている早川倉庫はまったく違う空間になっていました。
古い建物の魅力のひとつは長い年月を経てでき上がった
ほかにはない空気感です。
その場所でその建物しか出せない空気感。
それはどんなにお金をかけてつくろうとしてもつくりだせないモノです。
そんな場所にそこでしか体験できないコンテンツを組み合わせるコトで
唯一無二の価値ある空間になる。
建物と中身がキレイにリンクしたときに想像を超えた体験ができる。
リノベーションとはそれをつくり出す手法だと思っています。
これからも全国各地にある空き家や古い建物が、
いろんな人たちによってさまざまな価値ある空間へ変わっていくと思うと、
行くべき場所と体感するコトが増え、とても楽しみです。
さて、最後になりましたがこれまで連載を読んでいただきましたみなさま
半年間ありがとうございました。
そして僕のような素人をサポートしてくれたコロカル編集部の塚原さんはじめ
編集部のみなさん本当にお世話になりました。
みなさんいつでも熊本に来てくださいね。
ありがとうございました。
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