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宿題も、映画も、結婚式もここで。
ガレージをリノベーションした、
まちの憩いの場所とは。
ISHINOMAKI2.0 vol.1

リノベのススメ
vol.115

posted:2016.6.28  from:宮城県石巻市  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

profile

ISHINOMAKI 2.0

東日本大震災を契機にジャンルに縛られない多種多様なプロジェクトを実現。地域のリソースを丁寧に拾い上げ、全国のありとあらゆる才能と結びつけて今までになかった新しいコミュニケーションを生み出しています。石巻のバージョンアップが、日本のバージョンアップのモデルになることを目指しています。

writer profile

Kuniyoshi Katsu

勝 邦義

ISHINOMAKI2.0理事/設計事務所主宰。1982年名古屋生まれ。2007年東京工業大学卒業。2009年ベルラーへ・インスティチュート修了。山本理顕設計工場、オンデザインを経て、2016年自身の設計事務所を設立。   

ISHINOMAKI2.0 vol.1

みなさま。はじめまして。
ISHINOMAKI2.0(以下石巻2.0)の勝です。
今月から宮城県石巻市で行われている
さまざまなリノベーションプロジェクトを紹介していきます。

石巻は宮城県のなかでも仙台に次ぐ人口を有する県下第二の都市。
平成の大合併でその市域を拡大した石巻は、
山も海も広大な田園風景も有する豊かなまちです。
東日本大震災によりその市域は広域的に被災し、
多大なダメージを負ったまちでもあります。

私も活動に加わる石巻2.0はそんななかから生まれた活動です。
震災後のまちを元に戻すのではなくもっとよいまちにしていきたい。
そして、ここから疲弊した全国のまちづくりのロールモデルをつくりだそうと
さまざまなプロフェッショナルや地元商店主が集まったオープンエンドな活動です。

石巻2.0の立ち上げから関わる、
横浜の建築設計事務所〈オンデザイン〉のスタッフだった私は、
2012年から活動に加わりました。
そこから横浜と石巻の2拠点で生活を始めて5年目を迎えました。
横浜と石巻を往復するなかで見えてきたものがあります。
それは建築とまちとの距離の近さ、そして退屈だと思っていたまちも自分が動けば、
かなりおもしろい人がたくさんいるということ。

建築の専門家として実際に場をつくるところからその後の運営まで、
建築の上流からその先に広がっていくまちへの影響まで、
実感して関われる石巻はとても貴重なフィールドだと思いました。

そんな石巻に可能性を感じた5年間を過ごし、
そして2016年に石巻を拠点のひとつにして、自身の建築事務所を開設。
これから全6回の連載でそんな石巻のおもしろさを皆さんに伝えていきます。

初回の今回は石巻2.0の活動の原点でもあり私自身も設計と
その運営に関わるオープンシェアオフィス〈IRORI石巻〉を紹介したいと思います。

石巻の様子。

かつてはにぎわいの中心だった石巻のまちなかの商店街は、
2000年に入ったころからからシャッター商店街と揶揄されるように、
高齢化や担い手不足で寂しい状態でした。
そこに追い打ちをかけるように震災が大きなダメージを与えました。
街路に面した商店は閉じ、閑散とした風景が広がっていましたが、
実は一見使われていないように見えても、建物のオーナーたちは上階に住んでいる場合も多く、
シャッターが閉まったお店も交渉次第では貴重なまちなかの資源になります。

2011年の暮れ、まちづくりのためあらゆる人が集う拠点を探していた石巻2.0は、
震災による津波で被災しガレージになっていた場所を、
駐車場2台分の手頃な賃料で借りることになりました。

被災した直後の泥かきの様子。かつてはコンビニだったこともある場所でした。

とはいえ津波が突き抜けたこの場所は壁も扉も窓も何もない状態。
そして復興事業で大忙しの地元工務店には修復を依頼できるわけもなく、
手づくりで場所をつくることから始めました。
今や世界にも進出する家具工房である〈石巻工房〉と、
世界的な家具メーカー〈ハーマンミラー社〉のボランティアとともに
わずか2週間でつくり上げたのが初代IRORIの始まりです。

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中東の若者も石巻にやってきた?

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「まちが復興するにはものをつくることよりも、
ものづくりをひろく誰もができるように
インパクトドライバーや丸のこぎりの使い方を教える場所があったほうが
復興が早いのではないか?」

石巻2.0の創立メンバーのひとりである建築家芦沢啓治氏の言葉です。
DIYという言葉の原点は第二次世界大戦後に破壊されたロンドンのまちを
自分たちの手で復興させようという運動から生まれたと言います。
まさにこの言葉が切実に実感されるほど、IRORI石巻という小さな場所がDIYで完成しました。
極寒のなかで限られた道具を駆使しながらつくりあげた拠点です。

壁や建具も自分たちでつくり上げた。

IRORI石巻オープン。

かくして2011年の暮れにオープンした初代IRORI。
名前の由来は日本の古来から人の集まる場所=囲炉裏と、
もうひとつ「Interaction Room Of Revitalization and Innovation」。
直訳すると、創造と革新の部屋。なんだそりゃ? と、名前に負けないくらいにこの場所では、
創造的な人の集いが開設当初から現在まで数えきれないくらい生まれました。

「震災復興について学びたい」と中東の数カ国から若者が石巻を訪れ、ディスカッションしている様子。

地元出身の劇作家が主宰する音楽と演劇のイベント『R』の公演。

地元高校生による課題解決と実践のための教育プログラム「いしのまき学校」。

世界中から訪れる人たちとディスカッションする場になったり、
音楽や演劇の舞台となったり、地元の高校生たちのまちの課題について考える場になったり。

オープンでフレキシブルな場にはたくさんの人が集い、
地元の人、そうではない人関係なく、石巻の未来について誰もが考える場になりました。
私自身もここIRORIで幾度となく石巻のことを訪れる人たちに説明してきました。
そしてときにはこっそり泊まったりして、幾度となく夜を過ごしたことか(笑)。

そんなこんなで4年間が経過し、オフィスとして機能している場面や
訪れる人を受け入れる場面の混在がなかなかうまくいかなかったり、
イベントや大人数を受け入れるのにあたり、手狭になってきたりしている状態でもありました。
そんな矢先、まだガレージとして使用されていた横の駐車場も借りることができ、
その面積を拡張しリニューアルすることになりました。

三菱商事復興支援財団の協力を得ることもでき、会員制のシェアオフィスとカフェ、
そして貸しスペースを軸とする事業計画を備えた
「まちのロビー」としてリニューアルすることになりました。

設計は前述のオンデザイン、担当者は私でした。予算も限られているなかで、
大工さんや各専門家にも工事に入ってもらいましたが、仕上げに関わる部分で
自分たちでできるところは極力2.0メンバーや有志の方たちで行いました。

内装のペンキを塗っているところ。

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大人も子どももみんなが集まる場所へ

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リニューアルが完了したIRORI。

2016年2月、かくして無事にリニューアルを遂げたIRORIは、
カフェやショップ、そして3つのキューブと呼ばれるスペースを加えた
約150平米に及ぶ、1室の空間です。仕事に没頭する人も、多人数で打ち合わせする人も、
石巻のことを知りたくて訪れる人も、ほっとした休憩の時間を過ごす人もゆるやかにつながり、
共存できるような場所です。

通りに面する場所にはカフェが位置し、道行く人が気軽に訪れることができる雰囲気をつくり、
イベントの際にはドリンクバーとして活躍します。

カフェスタンドのとなりにはキューブと呼ばれるスペースが並び、
個人のオフィスや会議スペースとしての機能をもち、40名の場所をゆるやかに区切ります。
通りに近い場所には普段はカフェの客席、
休日はイベントホールとして貸し出せる大きなスペースがあり、
一番奥は石巻で新規事業を始める事業者のためのワーキングスペースがあります。

学校帰りに宿題する子どもたち。

平日には学校帰りの仮設住宅までのバスを待つ子どもたちが、
宿題をやっていたり、月に1回は1日だけの映画館に変わります。

まちなかで映画を上映するプログラム「金曜映画館」。

先日はここで結婚式をあげるカップルもいました。
それをプロデュースしたのは地元の若者。

石巻の美容師や花屋さん、カメラマンなどがチームを組みつくりあげた「石巻ウエディング」。

新しいIRORIは石巻で活動を始める人たちが作戦会議を行う場所でもあります。
まちのロビーとして、地域の才能や、訪れる人と人をつないでいる
IRORIはまちの歩みに合わせて今後も進化していくような場です。

さて、本日より始まったこの連載では石巻のリノベ事情をその当事者、
関係者とともにお伝えしていこうと思います。
東日本大震災後に社会的な課題や地域の問題に直面することになった石巻には、
多くの人が集い、そうした問題に取り組んでいます。
その石巻でリノベーションという手法を使ってどんな解決が試みられているのか。
みなさまにお伝えできればと思います。

次回はまちなかであらゆる人たちが立場を超えてつながる〈復興バー〉と、
古本市から生まれた本のスペース〈石巻まちの本棚〉を紹介します。

infomation

map

IRORI石巻

住所:宮城県石巻市中央2-10-2 新田屋ビル1階

TEL:0225-25-4953

営業時間:カフェ10:00-22:00(日曜のみ〜19:00)、年中無休

※カフェメニューは、コーヒー350円・チャイ400円・オレンジジュース300円など

http://irori.ishinomaki2.com/

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