連載
posted:2015.9.15 from:東京都目黒区 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer's profile
Nobuyuki Fukui
福井信行
1975年神奈川県生まれ。大学中退後3年半のニート生活を経て木工所勤務。1996年よりACME FURNITUREにてアメリカ中古家具のメンテナンスと仕入れを担当。不動産会社勤務を経て、2005年に株式会社ルーヴィスを設立。2013年より木賃ディベロップメント共同主宰。2015年より費用負担型サブリースを行う「カリアゲ」をスタート。古家や再建築不可物件など流通しにくい建物の再生を試みながら活動中。
皆さま、こんにちは。
ルーヴィスの福井です。
最終回は2015年から新たに始めた「カリアゲ」というサービスについてお話します。
僕がこの仕事を始めた理由は以前お話ししましたが、
「家具は直せば価値が上がるのに、不動産はなんでだめなんだろう?」
という疑問があったからで、賃貸物件の空室をどうやって減らしていくかが、
自分の中で最も興味のあることのひとつでした。
この10年間いくつもの賃貸物件にたずさわる機会を得て、
リノベーションは空室改善に効果的な手法であることを確信しましたが、
空き家は統計調査ごとに増え続けており、
現在は東京都でも約81.3万戸の空き家があります。
空き家が社会問題化している昨今でも、
オーナーの不安である「こんなに古い物件を直して本当に入居者がいるかの?」とか
「数百万もかけて、資金は回収できるのか?」という疑問は拭い去ることはできず、
建物の老朽化や費用負担がオーナーの大きな不安となっているならば、
そのリスクをこちらで負うことにして、空き家を活用していこうと思い、
始めたのが「カリアゲ」というサービスです。
まず、このサービスは「築30年以上で1年以上空いている空き家」を対象にしたもので、
リノベーション後の想定賃料の42か月分(3年半)まで、
リノベーション費用を弊社で全額負担します。
その条件のもと、オーナーから借り上げ、入居者に転貸する取り組みです。
1年以上空いている空き家を対象としているのは
「1年以上空いている=打つ手がなく放置されてしまっている」と定義したためです。
現在の対象エリアは空き家が最も多い東京都内を対象としていますが、
少しずつ対象エリアは広げていこうと考えています。
第一号の「カリアゲ」についてお話ししていきます。
この物件は目黒区下目黒にある2階建ての空き家です。
何年空いていたかもわかりませんが築年数は不明で、
この建物は元水路に面し、公道には面していないため、
建て替えることのできない、再建築不可の物件です。
建物は傾いていて、基礎と土台は白アリ被害や経年劣化で腐食し溶け落ちており、
建物自体が壁で支えられているような状態でした。
再建築不可物件が多くあるような住宅密集地において、
このような建物を放置し続けることは、建物倒壊のリスクがあり、
放置したまま空き家にしておくことは、放火による延焼など、
建物単体のリスクではなく地域全体のリスクとなっており、
第一号案件としては難易度が高いけれど、
モデルケースとしてはちょうどよく、チャレンジすることにしました。
モデルケースとしては、ちょうどいいのですが、
実際のところ、放置された空き家の改修は結構大変です。
流通している不動産は古くても商品ですので、多少の劣化があったとしても管理されています。
空き家の場合は、ほぼ放置されてしまっているので、
建物に気を払う人が誰もいない状態のまま年数が経っていった結果、
見えないところからボロボロになり、内部へも影響が出てきます。
改修プロセスは以下の写真のとおりです。
請負の場合は、クライアントの意向もあり、仕上げなど見栄えする所に
コストをかけることも多いのですが、今回は耐震や断熱など、
建物の基本性能をアップすることに重点を置いた結果、
仕上げにかけるコストが少なくなってしまったため、
本来見せ場になる部分は入居者に委ねることにしました。
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リノベーション後は、このような仕上がりとなり、
仕上がりと言えども、下地仕上げのような状態です。
内装の仕上げは入居者に委ねて、
「DIY可能・原状回復義務無し」という条件で募集をかけました。
2階は断熱材表し仕上げで、1階は事務所使用も想定していたために
モルタル仕上げのままの募集だったのですが、
募集から3週間で2部屋とも決まりました。
現在は、入居者が棚をつけたり、床を張ったり、少しずつDIYをしている途中です。
カリアゲの仕組みは、リノベーション費用を全額ルーヴィスで負担し、
入居者に転貸し、賃料の10%をオーナーに支払う仕組みになっています。
この仕組みは、去年まで進めてきた事業とは、
少し異なり、リノベーションの設計・施工にファイナンスの概念を足したサービスです。
内装代を全額負担するということは、内装代を築古物件に投資し、
入居者を募り、賃料から投下資金を回収していかなくてはならず、
施工知識に加え、借りたいと思ってもらえる物件に仕立てる、
物件の見立てが非常に重要な要素となっています。
オーナーへの賃料保証が10%と聞くとそれだけか?
と思われる人も多いかもしれないのですが、
新築のサブリースの場合、建築を請け負い、
その中にある程度の空室を見越した金額も入っているので、
80%〜90%の家賃保証が可能ですが、
カリアゲの場合、最初からこちらで費用を負担するので、
入居者に借りたいと思ってもらえるようなリノベーションができなければ、
初月から赤字になってしまうので、6年間は毎月10%でご容赦いただいています。
とはいえ、世の中にまだあまりない取り組みなだけに胡散臭く思われて、
あまり問い合せもないだろうからしばらくゆっくりやっていこうと思っていたのですが、
運よく、経済番組に取り上げていただき、
困っている空き家所有者から問い合せが殺到してしまいました。
1か月間に20軒ほどの空き家を見て回り、
僕らがカリアゲで再生できる案件を進め始めている途中です。
現在は、9月末の竣工を目指して、
東京メトロ丸ノ内線「中野新橋駅」徒歩3分の場所にある、
築年数不詳、RC造の長屋をリノベーションしています。
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僕は、豊かな社会というのは、
選択肢が多い社会だと思っており、
リノベーションという行為を通じて、選択肢を広げていきたいと考えています。
戦後から日本は人口が増加していましたが、近年、人口が減少に転じました。
これからの日本は緩やかに縮退していきます。
時代の価値観が今までとは真逆に変化していくなかで、
リノベーションという行為を通じて、
既存ストックをどのように活用していくか、
縮退を受け入れたうえでどのように効果的にアプローチをしていくかは、
これからますます求められるものとなっていきます。
まだまだ道半ばではありますが、
ルーヴィスを設立してからいつの間にか丸10年が経ってしまいました。
仕事がなく、3週間も会社の電話が鳴らないので電話が壊れているんじゃないかと思って、
知り合いに「会社に電話してみてもらっていいですか?」と電話をしたのが
まだ数年前にも感じられるほどあっという間に過ぎた10年でした。
これからもさまざまなアプローチを試しながら、
選択肢を広げていきたいと考えています。
連載完。
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