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リノベが生み出す、未来。
シーンデザイン一級建築士事務所 vol.06

リノベのススメ
vol.062

posted:2015.2.28   from:長野県長野市  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer's profile

KEI MIYAMOTO

宮本 圭

1970年長野県生まれ。工学院大学工学研究科建築学修了後、宮本忠長建築設計事務所勤務を経て、シーンデザイン一級建築士事務所を設立。ツリーハウスプロジェクト絵馬プロジェクトなど建築とその周辺にあるものを面白く結びつけていくためのプロジェクトに多数携わる。2009年に有限責任事業組合ボンクラを立ち上げ、善光寺門前にある古い建物で、建築家・編集者・デザイナーが集まり、単なる建築の再生だけでなく、地域やコミュニティの再生も視野に入れた「プロジェクトカネマツ」を実践中。2013年からは、リノベーションカンパニー「CAMP不動産」のメンバーとして活動中。

シーンデザイン一級建築士事務所 vol.06

“リノベーションをサポートする「リノベ基地」をつくりたい”
そんなマイルームの倉石さんの妄想から始まった、長野市善光寺門前、東町の
倉庫群の再生プロジェクト「SHINKOJIプロジェクト」は、
文具卸売会社の事務所ビルを含む倉庫群、
計4棟を対象としたリノベーションプロジェクトで、
まちなかで増えつつある空き家再生の拠点になる、
「リノベ基地」となることがコンセプトです。

2014年4月に、北棟、西棟、南棟、東棟の4棟ある建物のうち、
まずは北棟がオープンしました。(前回vol.05参照)

使われなくなった古い事務所ビルをリノベしてできた北棟は門前界隈でも話題となり、
それまでほとんど人通りがなかった新小路(SHINKOJI)に、
少しずつ賑わいが戻ってきました。

シーンデザイン一級建築士事務所の連載が最終回となる今回は、
北棟に続くSHINKOJIプロジェクトの現在と、
今後の展開についてお話ししようと思います。

長野リノベーションシンポジウム

2014年7月、北棟のOPENに続き、西棟に【SHINKOJIアトリエ】が完成し、
アート作品の制作や教室、事務所として利用できる、
ものづくりをする人のためのシェアアトリエが運営を開始しました。
2014年10月には、北棟と西棟をメイン会場とした
アートイベント「SHINKOJI ARTS」と、
リノベ工事が途中の南棟で「長野リノベーションシンポジウム」が同時開催されました。

ご近所の松葉屋家具店のイベント「マルクトプラッツ」も同じ日に行われたため、
周辺のエリア全体で大変賑やかなイベントとなりました。
長野リノベーションシンポジウムは、リノベ工事途中の“現場”を会場にしたことで、
わかりやすく、その一端を垣間見せることができたのではないかと思います。

リノベ工事途中の南棟で行われた「長野リノベーションシンポジウム」。

その後、南棟がオープンしたのは2014年12月のこと。
南棟は、4棟のなかでも中心的な役割を担う建物として計画され、
「東町ベース」という呼び名も決まりました。
東町ベースは、2階にCAMP不動産のメンバーがオフィスを構え、
3階の倉庫にストックした廃材や建具など使い、
1階の作業場で職人たちが加工するという、新しいリノベーション基地を目指しています。

東町ベース3階の倉庫にストックされている古家具や建具。

東町ベースの1階の作業場。

CAMP不動産メンバーで最初にできた南棟のmanz-desginのオフィス。

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長野リノベーションシンポジウムの会場だった場所は、
マイルームとシーンデザインのオフィスとして使用しています。

不動産事務所と設計事務所が入居するフロア。

まだ、明確に用途が決まっていない共用スペース。

2015年1月の時点の南棟1階の店舗スペース。

続々と開店するお店

SHINKOJIプロジェクトでは、コアメンバーの入居は決まっていたものの、
建物が稼働を始める時点では、その他の入居者すべて決まってはいませんでした。
だから、使われていない余剰スペースがたくさんあります。
でも、この場所を利用したいという人が現れれば、
その人なりのカスタマイズに、すぐにでも改修し、貸し出すことができます。

なんてったって、リノベーションをサポートする“リノベ基地”なんですから。

2015年2月には、西棟「SHINKOJIアトリエ」の一角に、
なんと一坪足らずの面積をリノベしたお店、
「Atelier Anielica」(アトリエ アニョリカ)がオープン。
ハンドメイドの帽子、ヘッドアクセサリー、コサージュなどを
小さなアトリエから、世界へお届けする素敵なお店です。

Atelier Anielica (アトリエ アニョリカ)。

2015年3月には、南棟【東町ベース】1階に、
植物をキーワードに空間をプロデュースする「wanderlust」(ワンダラスト)が入居予定。

2月15日にwanderlustのプレオープンイベントが開かれました。

また、北棟1階の倉庫だった部分は、ケータリングの「ロジェ・ア・ターブル」さんの、
セントラルキッチンとして生まれ変わりました。

北棟1階に入居したロジェ・ア・ターブルさんのセントラルキッチン。

こちらは、CAMP不動産が設計に携わっていませんが、
大きな倉庫に入れ子状に厨房が入る大胆な空間構成の楽しいキッチンです。
食卓という空間、そして食事の時間を大切にすることを大事にしているロジェさん。
まちなかのさまざまなイベントで、ロジェさんのお料理は大人気です。

そのほかにも、東棟には、古家具を扱うお店などが出店予定。

訪れるたびに、進化しているSHINKOJIは、まちが動いている実感を見る人に与え、
それが、何かを始める動機づけになるという好循環を生み出しているようです。

エリアのリノベーション

SHINKOJIプロジェクトが、これまで携わってきたリノベと明確に違う点は、
複数の建物(若しくはそこに入居している企業や個人)同士が、
お互いに機能を補完しあいながら、エリアのブランディングをすることに対して、
意識的に取り組んでいる点です。

「リノベ基地」には、カフェ、作業場、倉庫、談話室、キッチン、事務所、
住居、アトリエ、ギャラリー、ホール、ショップ等を計画していましたが、
ひとつの建物ですべての機能を満足させようとはせず、
対象となる4棟の建物および周辺の既存施設との関係を見直し、役割分担をしています。

建物をひとつも壊さず、必要とされる機能を、今ある複数の建物の機能を再編して、
エリア全体をリノベーションしていくこと。
これも、ひとつの市街地再開発のかたちと言えるのではないでしょうか。

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まちの変化を実感させる

長い間、使われなくなった事務所ビルや倉庫群。
まちなかの空き家が、リノベによって変わっていく様子は面白いものです。

リノベ前の倉庫内部の様子。

その面白さは、まちで暮らす人々や訪れる人にとっても同じだと思います。
仮囲いで囲って、こっそり手早く工事をしてしまうのではもったいない。
あけっぴろげで、ゆっくりと、じらしながら進める工事があってもいい。

とかく、スピードと経済性が優先される世の中で、
なんてのんびり構えているのかと思われそうですが、
正直なところ「工事中」の状態が楽しかったりします。
毎日が文化祭前日のような気分。

私が善光寺門前という比較的狭いエリアで、数多くのリノベ物件を手がけてきて思うこと。
それは、リノベという行為が、まちに対するパフォーマンスとして
最も即興性を帯びた躍動感あふれる場面だということでした。

特に、CAMP不動産が行うリノベーションのように、
最初のマスタープランに基づいて、その通りに工事が行われていくことをせず、
その都度、状況の変化に柔軟に対応しながら、
変更することを恐れずに工事が進められていくスタイルは、なおさらそう思います。
リノベ途中で、多くの人と、その楽しさを共有することができれば、
そのリノベは必ず成功するのだと思います。

シーンデザインの「リノベのススメ」

“建築する”という行為には、たくさんの人の思惑や予期せぬ出来事などがつきものです。
なかには、割り切れない思いや、非合理的だと思う事もたくさんあります。
でも、そこを乗り越えた先にある建物の方が、まちの中でいきいきとしていると感じます。
さまざまなトラブルや人間模様もひっくるめて、
愛おしく思えてくる時が来るのだと思います。

リノベ前の南棟【東町ベース】にて。CAMP不動産の面々とその仲間たち(と、まちのひと)。

社会から放置された“空き家”は、最初からさまざまな問題を抱えています。
だから、正直、リノベは面倒なのです。

それでも、リノベに魅力を感じるのは、
建物に完璧ではない人間味を見出してしまうところにあるのだと思います。
面倒くさい部分も含めて、その建物やまちやひとが“好き”だと思えるのなら、
ぜひ、リノベに挑戦してみてください。

もちろん、いろんなことを無かったことにして、
更地にしたところからスタートし、計画通りに進めるプロジェクトも時には必要です。

それでも、誰にも予定調和的に予測できない、
リノベが生み出すもうひとつの未来を見てみたい。

リノベを通じて、問題だらけの現状を、次のステージへと昇華させることも、
きっと、これからのまちには必要なことなのだと信じています。

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