連載
posted:2014.2.14 from:千葉県松戸市 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
profile
MAD City
マッドシティ
千葉県・松戸駅周辺エリアにて、まちづくりプロジェクト「MADCityプロジェクト」を推進中。クリエイターなどを誘致する不動産サービス事業「MAD City不動産」、新旧住民のコミュニティを創出するまちづくり事業に取り組み、創造的なエリアづくりを目指しています。
築年数が古く、最上階だけれどエレベーターも無い。
僻地的な立地にあり、中は未リフォームというマンション。
一般的にはかなり厳しい条件の不動産ですが、
そんな物件もオーナーさんのバイタリティで生まれ変わらせることができる。
それを教えてくれたのが「ロッコーハイツ」です。
出会いはちょうど1年前。弊社スタッフ庄子渉からの紹介がきっかけでした。
「昔のバイト仲間が、
お父さんが持つ不動産について相談があるらしいんだよね」
そう言われて出会った「ロッコーハイツ」のオーナーのトシくんは、
元ダンサーで現在は家業の農園を手伝いながら
イベントオーガナイザーやDJとしても活動しているイイ感じのお兄さん。
トシくんは南房総に住んでいたけど、
つい最近、お父さんが営む梨農園を手伝いに松戸に戻ってきて、
今はロッコーハイツの管理人をしているとのこと。
トシくんの相談はロッコーハイツを改装可能な物件として
貸し出しできないかというものでした。
ロッコーハイツは昭和40年代に建てられた5階建てのエレベーター無しの
マンション、というよりもハイツ。
一応2路線利用が可能ですが、最寄り駅は東武野田線の六実駅か、
新京成線の元山駅といういずれもローカル線。
どちらの駅までも歩くと15分〜20分くらいで、
松戸駅からは車で20〜30分程度かかる場所にあります。
さらに、空き室が目立つ5階は、和室のみに旧式の風呂釜という
昭和の設備と内装のまま。
現代のライフスタイルに合うべく、リフォームしなくてはいけないけど、
そんなに大胆にかける費用は無い。
かと言って前から住んでいる人も居る手前、そんなに簡単に賃料も下げられない。
そうこうしているうちに空き室は増えるばかり。
そんな手詰まり感がある物件は残念ながら地方に散見していますが、
正直に言えば、ロッコーハイツもそのひとつで、
ご多分にもれず5階はすべて空室でした。
満室にするのは、もちろん簡単ではない。
ですが、不思議となんとかなりそうな気がしていました。
それは何よりもトシくんの存在。
トシくんはもともと「シラハマアパートメント」という、
南房総で多くの若者を惹きつける場所に滞在していました。
シラハマアパートメントはもともと企業の社員寮として使われていた、
築40年以上経っている建物をオーナー自らが改装して、
カフェやレンタルルームとして運営している場所。
トシくんはここに住んだことでリノベーションというものを知り、その時から
「親父が持っている古い物件で似たようなことできないかなあ」
と考え始めたそうです。
地元に戻ることが決まったトシくんは、
すぐにロッコーハイツの管理人になりました。
そして、最も状態の良くない部屋を自らリノベすることに。
「まだ未完成だから完成したら見に来てね」
最初の出会いの日にそう言われてから2か月後、
トシくんのリノベがある程度できたというので、ロッコーハイツを訪れました。
「壁は壊して白く塗ればいい」
シラハマアパートメントで習ったという、
シンプルなコンセプトに基づき、素人だけで開始されたリノベーション。
その結果、もともとちょっと怖い感じの和室だった部屋が、
トシくんや友人の手によって徐々に生まれ変わり
こんなにキレイになりました。
改装のお手伝いをしたことがあるとはいえ、
ここまでのリノベーションはトシくんも初めて。
「スマホを片手にググりながらやり方を調べたよ〜」
失敗してもその都度やり直しながら
約3か月をかけて部屋を完成させていきました。
こちらのお部屋は、現在はトシくんが使う管理人室ですが、
ゆくゆくはみんなのシェアスペースとして運営していくそうです。
さあ、ようやくこれで住人を募集ができる。本番はここからです。
募集にあたって僕らも考えました。
この物件のどこが一番の魅力なんだろう。
大胆に改装できる自由度も、もちろん魅力ですが、
考えた末に出た答えは何よりもトシくんの存在。
隣人に面白くてしかもリノベについていろいろ教えてくれそうな人がいるなら、
なんか安心だし楽しそう。
「共感してくれる人がきっといるはずだ」と思い、
募集を開始しましたが、問い合わせは芳しくない状態が約2か月続きました。
「まあ3年計画でいこう」
そう言ってくれていたトシくんも、だんだん、いてもたってもいられなくなり、なんと2番目に状態の悪い部屋のリノベーションに乗り出します。
その様子はトシくんがつくったロッコーハイツのホームページや、
Facebookページでもどんどん発信されていきました。
それでも問い合わせは増えない。
そんな状態に、光が差します。
MAD City不動産をTVで取材してもらうことになり、
その際に魅力的な物件としてロッコーハイツが紹介されることになったのです。
するとさっそく反響が。
TVを見て、見学に来てくれた松本さんという女性は、
海外では一般的に見られる部屋のDIYにずっと興味があったけど
日本では諦めていたそう。
ですが、ロッコーハイツからの景観、リノベの自由度、
そして隣にリノベ経験者のトシくんがいるという安心感が決め手になり、
ロッコーハイツの最初に入居者になってくれました。
人が入り始めると連鎖するのは不動産の不思議なところ。
松本さんの入居が決まった直後に、
工業高校で建築を学んでいた同級生同士の加藤くんと飯名くん、
続いてWEBデザイナーさんが入居し部屋は満室になりました。
そして、それぞれ自分のペースでリノベーションを始めていきます。
例えば、松本さんは週末に徹底したリノベ。
松本さんのリノベーションはもはやDIYのレベルを超えていて、
床はネダを組むところからやり直してフローリングに変更。
玄関は1枚1枚丁寧にタイル張り。
「何かあった時に周りに頼れる人がいるのは安心ですね」
その言葉通り、松本さんの友人はじめ、トシくん、
ロッコーハイツの入居者のみなさん、そしてMAD Cityで出会った人からも
一部協力を得ながら1年計画で現在もリノベ進行中です。
もう1組、高校で建築を学んでいた加藤くんと飯名くんはなんとも大胆な改装。
「とにかく自由にいじれるところに惹かれました」
というふたりは、一旦部屋をスケルトンに解体。
そして、エントランスの床は剥がしたままコンクリートむき出しにし、
バーカウンター風に。
室内は、ラウンジ風にアレンジ。
実は改装中、階下の方から騒音で注意されていたというふたり。
しかしいつのまにか、作業する度に挨拶に行くことで、
むしろ仲良くなっていき、今では部屋の見学にも来てくれるそう。
ふたりが改装中の部屋は友人たちにとっても居心地が良いみたいで、
今やこのあたりで、最も若者が集まる場所のひとつになっています。
既にロッコーハイツで生活を始めたふたりは、
少しずつ生活環境にも馴染み始めていて、
飯名くんはトシくんの友人が経営する地元のカフェでバイトも始めるなど、
地域コミュニティに溶け込み始めています。
ゆるやかに少しずつ進化をしているロッコーハイツですが、
トシくんは現状をどう思っているのでしょうか?
「最初は自分が部屋をつくるのに必死だったね〜」
というトシくんですが、自らの改装が終わり入居者が入ってくると
一抹の不安もあったそうです。
「何もないエリアだし、改装の自由度と、
その楽しさで人に来てもらうしかないと思って人を募集してきたけど、
いざ入居が始まると、部屋がどうなるかわからないし、心配もあったよね」
しかし、実際に入居者の方とコミュニケーションをとり、
時間を過ごしていくうちにお互いに信頼関係が生まれてきて、
「今は、本当に感謝の気持ちでいっぱいだよ」
と言うトシくん。今後についてもこう話します。
「住んでくれた人の意見によって変化し続けるアパートにしたい。
例えば、今5階の玄関の扉を塗り替えようと思っているんだけど、
何色がいいかは入居者のみなさんと相談しています」
改めてロッコーハイツ全体の構想を考え、
ゴミ置き場を整理したり、照明をやわらかい色のものに替えたり、
共有ルームをカフェテラスにできないか検討しているそうです。
実は、窓から一面に見渡せる景色が気持ちよくて、
近所には桜並木もあります。
松戸の僻地にあったはずの物件は、
都会に近いローカルとして魅力的と言ってもらえるようになり、
いつの間にかMAD City不動産にも
「ロッコーハイツのような場所はありませんか」
と問い合わせをいただくようにもなりました。
「今は空き部屋がなくてなんだか申し訳ないよ」
そう言うトシくんは現在改装中のお部屋もすぐに募集ができるよう、
ピッチをあげてリノベーションをしています。
管理人がきっかけとなり、それに共鳴するように
それぞれの入居者のみなさんが適度に助け合いながら、
少しずつ進化を続けているロッコーハイツ。
半年後、1年後、そしてその後も。
焦らずゆっくりと化学変化が起き続けるロッコーハイツを
MAD Cityは陰ながら見守っていきます。
information
MAD City(株式会社まちづクリエイティブ)
住所 千葉県松戸市本町6-8
電話 047-710-5861
http://madcity.jp/
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