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「田んぼの引っ越し」に必要なことは?
5年目の米づくりは
あらたな地域で始める|Page 3

暮らしを考える旅 わが家の移住について
vol.127

Page 3

自分では変えようのない
「田んぼに入る水」について

話を少し戻します。
移住して間もなく、この大賀茂の田んぼを借りるときに
驚いたことがありました。
田んぼに流れる水の話です。
先にも書きましたが、自分たちで米づくりをするのであれば無農薬で、
と考えていたのですが、
田んぼに流れる水に関してはあまり意識がいっていませんでした。
それで、借りることになった大賀茂の田んぼに流れる水路について
あらためて調べると、上流に別荘地や住宅があり、
その排水が流れ込んでいるということがわかったのです。

都市部であれば住宅の排水は、下水処理場で処理されますが、
地方の多くは下水が未整備で
それぞれの家や施設にある浄化槽で汚水を処理し水路や川に流します。
新規に設置される浄化槽は家庭の全ての排水をつないでいますが、
古いつくりの家の場合は、トイレの排水のみ浄化槽につなぎ、
キッチンや風呂、洗濯は未処理のまま流すのです。
(下水未設備地域で浄化槽を新設する場合には、
すべての排水を浄化槽につなげなければいけないことになっています)

下水道整備状況図(汚水)

下田市上下水道課資料より。

え? 家庭の排水が田んぼに?? しかも未処理の排水も??
そんなことを知って少なからず驚き、
正直に言うと少なからずの抵抗感を抱いてしまいました。
でも、聞いたり調べたりすると、このように田んぼに
排水が流れこむことは「普通のこと」であるとも知ったのです。

これまで食べてきた米だって
そうした田んぼで育てられた米だったわけで、
そこに驚いたのは自分が世間知らずなだけだったのかもしれません。
さらには、自分の田んぼがたとえ無農薬だろうとも、
上流の田んぼで農薬を使えば
少なからずその農薬は入り込んでしまう。そんな現実も知りました。

借りることになった大賀茂の田んぼの上流にはいくつかの田んぼがあり、
普通に農薬を使って米づくりをしています。
そうすると、無農薬とは厳密にはいえないのか……
と感じたりもしましたが、
「こだわりすぎてもしょうがない、とにかく米づくりを始めてみたい!」
と、現実を受け入れて、大賀茂の田んぼをありがたくお借りして、
米づくりを始めたのでした。
そうしてできた米は、手前みそにはなりますが、
十分すぎるほどにおいしくでき上がったのです。

みんなで食卓を囲んだ「新米お披露目会」の様子

米づくり1年目のとき、無事に収穫が終わって手伝ってもらった人たちを招いての「新米お披露目会」。このとき感じた「米のおいしさ」は今でも忘れられません。人間の味覚なんて、思い込みによって左右されるものですから、それも含めて「おいしい」のですよね。

ということで、おいしさにも大満足だったので、
田んぼに流れ込む水路の排水やら農薬やらは
ほとんど気にならなくなっていきました。
ただ、「もっとピュアな水で米づくりをしたら、
どんな味の米ができ上がるのだろう? 
もっとおいしくできるのだろうか?」
そんな思いが少なからずはあったことは事実です。