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私が撮影をさせていただいているのは、下田の須崎地区での天草漁です。
漁には口開けという解禁の時期があり、
天草漁は例年5月から6月にかけて数回ほど行われます。
漁の仕方はいろいろで、磯で箱メガネを使い潜らずに採る方法
(岡磯と呼ばれる)もあれば、潜って採る方法もあり、
そのほか沖に船を出して素潜りで採るなどさまざまです。
須崎の天草はほかの海藻の漁とは少し違う点があります。
例えばわかめやひじきの場合は個人で採取して加工するのですが、
天草は共同作業で行われるのです。
まず採取した天草を港近くの溜池に集めて、真水で塩を洗い流します。
そこで自分が採った天草の量が計測され、
その後は共同の干場で一斉に天日干しにします。
天気によって2、3時間ほど干した天草を
裏返してさらに乾かすのですが、
集合時間を決めてみんなで作業するのです。
天日干しのあとは、天草納屋という作業小屋で
ゴミや余計な海藻を取り除きます。
さらに、草の種類によっておよそ6つくらいに
分類されます(良質な種類とそうでないものと、
値段や使い道が異なるのだそうです)。
この一連の作業を「砂ふり」というのですが、
真夏の暑いさなかにひとつずつ手先で選り分けていくのは
容易ではありません。
砂ふりが終わると、今後は機械で圧縮して
25キロの俵(ポンと呼ばれています)に成形します。
ポンになったところでようやく漁協に出荷されるのです。
出荷された天草は、年に数回行われる競りにかけられ、
全国の業者さんに買い取られていきます。
その後ところてんや寒天として加工されたり、和菓子の材料になったり。
須崎地区の天草は粘り気がよく出るため、
全国的に見てもとても良質なものなのだそうです。
都内のある有名和菓子店の羊羹に使われているという話も聞きます。
子どもの頃、よく母と姉が食べていたところてん。
実はこんな道をたどってきているだなんて、
下田に住むまで考えてみたこともありませんでした。
そして苦手だったところてんを、この歳になって
せっせとつくるようになるなんて、まったく想像していなかった。
目の前で漁師さんや海女さんがとってきた天草を煮てつくった
ところてんは、ひと味もふた味も違って感じらます。
まだまだところてん初心者。
地元の方につくり方をうかがいながら、
あれこれ試してみようと思います。
わが家のところてんを導き出せるまで。