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そして、魚をさばく話からはずれるのですが、
今年の秋はちょっと変わった経験をさせてもらいました。
下田近郊の川に生息する「モクズガニ」をたくさんいただいたのです。
わが家は下田に来るまでモクズガニを知らなかったのですが、
上海蟹のチュウゴクモクズガニと近縁だそうで、
それを目当てに伊豆に来る観光客もいるほどの人気食材。
友人が毎年漁をしているというので、
夫がお願いして手伝わせてもらいました。
仕掛けのカゴをひと晩川に放置して、翌日引き上げます。
引きあげたカゴの中では、ゴッソゴッソと
たくさんのモクズガニがうごめいていて驚愕。
娘も初めて目にするカニの大群が怖いけど、
手でつかんでみたいという本能が湧き上がるようです。
逃げ惑うモクズガニをおそるおそる素手でつかみ、
軽トラのカゴに無事捕獲。
その日にとれたモクズガニはおよそ30匹、
「全部持ってっていいよ!」なんて友人の言葉にまた驚愕したのですが、
ありがたく全部自宅に持ち帰らせていただきました。
モクズガニのスタンダードな食べ方は、
茹でて味噌や身を楽しむということ。
けれど地元の方が好きな食べ方はほかにあるのだと、
漁をしてくれた友人から教えてもらいました。
生きたままのモクズガニの甲をはがして解体し、
やわらかい殻と身を一緒にミキサーにかける。
その汁を醤油やみりんなどで調味して温め、
うどんを入れて食べるというもの。
「すっごいおいしいよ!」と聞いたのものだから、
それはぜひやってみたいとモクズガニをまな板にのせたものの、
生きたままはぐというのは私には難儀で……。
冷凍庫で数分放置して仮死させたのちに、その調理法を試してみました。
そうして食べたうどん、たしかにおいしい。
そしてただ茹でたモクズガニも味噌がとてもおいしくて、
いろんなモクズガニ料理を堪能させていただいたのですが、
実はこの続きがまだあります。
モクズガニを食べ終えたあとの数日間、
台所や風呂場、さらには寝室で夜中に
「ゴソゴソ、ゴソゴソ」という音がするのです。
暗闇の中、じーっと様子を見ていると、
モクズガニがどこからともなく出てくる出てくる。
合計12匹ほどのモクズガニが知らぬうちに脱走していたようで、
およそ10日間かかってすべて捕獲。
寝てるときに顔を横断されることもなかったのでよかった……。
という、笑ってしまうような珍しい経験をさせてもらいました。
下田で暮らし初めて3年半。
これまでいろんな食材を地元の方々にいただき、
そのたびに調理法や食べ方を教えてもらいました。
そのおかげで初めての経験をたくさんさせてもらい、
いままでできなかったことが少しずつできるようになりました。
そんな下田での暮らしがとてもありがたく、楽しいと感じています。