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アナグマをさばいて食べてみた。
伊豆下田で感じる自然の恩恵|Page 5

暮らしを考える旅 わが家の移住について
vol.084

Page 5

食べるものは「買うもの」から
「自然の恵み」へ

自分の話を少しすると、若い頃には都内で飲食店を経営していました。
それこそこのコロナ禍において
リスクが取り沙汰された業態のひとつの「バー」でした。

売り上げが芳しくない日が何日か続くと
暗澹たる気持ちになっていたことを思い出します。
「今月の家賃や光熱費は払えるだろうか?」
「家賃光熱費を払ったら残りはどれくらい? 
来月、食っていけるのか?」

その頃の自分には、米をつくったり、獣をさばいたり……
そんな発想はありませんでした。
肉と魚の物々交換なんて、遠い昔の話だと思っていました。
食材は自然の恵みなんて感じることもなかったですし、
その食材を買うための金は稼ぐしかない。
生きるために必要な食材は「買うもの」だったのです。

当時の自分にはそれしか選択肢がありませんでした。
収入が下がれば生活の質が下がる。
当たり前にそう思っていました。

そんな自分でしたが、東日本大震災のときに
スーパーの棚が空っぽになっているのを目の当たりにして、
「稼いでも食べられないことがあるのだ」
と、価値観が大きく変わったのです。

山で育つタケノコ

春の味覚を代表するタケノコ。今年はたくさん掘って食べたので、旬が終わってしまうのがさみしいくらいでした。東京ではタケノコは高級食材の印象でしたが、地方では放置竹林が問題になっていて、せっせと掘って食べなきゃいけいない食材でもあります。来年もせっせと掘ろう!

5月25日、この原稿を書いている日、全国の緊急事態宣言が解けました。
これから徐々に経済活動が再開されることになるのでしょう。
長かったこの不便な暮らしが
一刻も早く終わることを心より願っています。

ただ、しばらく満足に動いていなかった経済活動の影響が
これから本格的に出てくるかもしれません。
多くの失業者が出るとも言われています。
獣をさばくとか、物々交換とか書きましたが、
もちろん稼がなければ生きていけません。
光熱費、通信費に日々の消耗品、税金などなどでそれなりにかかります。
そして、食材は普通にスーパーでも買います。

でも、すべての食材は「買うもの」ではなくなりました。
多くの食材を「自然の恵み」と感じるようになりました。
東京にいた頃より収入は下がりましたが、
新鮮でおいしいものをいただくことが多くなったのは確かです。

羽釜でタケノコを煮る

タケノコは地主さんと知り合うことができれば掘り放題といってもいいくらいなのですが「米ぬかをいれて40分ほど煮てアクを抜く」という処理がなかなか手間がかかる。わが家では、庭木の整理も兼ねて羽釜で煮ました。ぬかは自家製米を精米して出てきたもの。あるもので賄うのがまた楽しい。

そんな暮らしになったことで、
「すべてを稼がなければいけない」というプレッシャーから
解放された気がします。

それは、東京で生まれ育った自分が移住し、この地で暮らし始めて、
大きく変わったことのひとつなのかもしれません。

アナグマ肉の煮込み

アナグマ肉、焼いただけだとクセがあり食べづらかったので、煮込みにしてみました。こんなにおいしくいただけるのだと感動しました。感謝。