menu
記事のカテゴリー

下田の移住農家〈モリノヒト〉。
在来種のタネで作物を栽培する夫婦|Page 4

暮らしを考える旅 わが家の移住について
vol.075

Page 4

モリノヒトが目指す、
手間のかかる農業

松川さんによると、F1種は形や大きさ、成長のスピードが
均一になるように、人工的な交配で品種改良がなされた作物とのこと。

農家が大量に効率的に育てる、流通に乗せる、そしてスーパーに並ぶ。
そのためにはとても都合のいい、生産性が高い作物といえます。
ただ、もうひとつ大きな特性があり、
F1種の作物から採取したタネから栽培しようとしても、
その特徴が安定して引き継がれないというのです。

つまり、農家は種苗メーカーから
タネなり苗なりを買い続けなければならないという、
市場経済の観点から考えて都合のいい種ともいえます。

対して、在来種、固定種は各地域でタネからタネへと
受け継がれてきた作物とのことです(在来種、固定種はほぼ同意義)。

作物からタネを採り育てることができるのですが、F1種とは違い、
形や大きさ、成長のスピードが揃っておらず、流通にも乗せにくい。
そして、各農家で自家採種してしまうと、
種苗メーカーの利益にはならない。

つまり、生産性や市場経済の観点から考えると
価値の低い作物ともいえます。

種類豊富なカブ

カブだけでもこんなにいろいろあります。左から日野菜蕪、天王寺蕪、パープルトップ、ゴールデングローブ、ゆるぎ赤かぶ、津田蕪。すべて在来種。(写真提供:モリノヒト)

いま、農業をナリワイとして成り立たせようとするならば、
生産性の高いF1種を育てるのが一般的のようです
(有機か否か? 遺伝子組み換えか否か? とはまた別の話です)。

でも、その流れが加速すると、各地に伝わる種が失われてしまいます。
つまり、種の多様性が失われることになるのです。
さらには、本来は自然のモノであるはずのタネが
企業に支配されてしまうことになり、それにも違和感を感じます。

モリノヒトの商品

配送のほかにイベントに出店することもあるそうです。出店情報はモリノヒトFacebookにてご確認ください。(写真提供:モリノヒト)

そんな状況のなか、松川さんは在来種の作物を育て、
そのタネを採り、タネからまた作物を育てています。

形も大きさも成長速度も不揃い。
無農薬なので虫や雑草も元気。
そして、伊豆は山間地域なので、畑や田んぼも一面一面が小さくて
それぞれに段差があったりもします。

スーパーで売っている作物をつくるような大規模農業、
つまり農薬や化学肥料を使ってF1種の作物を育てる農業と比べると、
モリノヒトは大変な手間のかかる農業を目指しているのです。

自家採種作業を手伝う子ども

お子さんも自家採種作業を手伝う。タネを継ぐことの大切さをあらためて感じました。(写真提供:モリノヒト)

農業にかかわらず、この社会は、手間をかけずに
「生産性を上げること、効率化」を目指しているといえます。
もちろん、生産性が上がることにより、
多くの人が恩恵を受けることも多くあるのでしょう。
タネの話で言えば、いまの人口をまかなう食糧の安定供給のためには
生産性の高いF1種が必要、ともいわれています。

でも、生産性を上げることで失ってしまうものがあり、
その中には失ってはいけないものもある。
そして、手間をかけることでしか生み出せない価値がある。
彼らの暮らしや農業に対する姿勢を見ていて、そんなことを感じました。

果樹の前の松川さんご一家

松川さんはまだモリノヒトとしての歩みを始めたばかりです。
彼らが手間をかけて育てた作物が、
どれほどの多様なタネを継いでいくのか?
楽しみでなりません。

松川さん宅で餅つき

年末には餅つきにもお誘いいただきました。娘さん、猫ちゃん、ワンちゃんも勢揃いでとても賑やか。森に響く餅をつく音。なんとも豊かな時間です。

もちを成形中

つき終わるとみんなで成形。いろんな形のお餅ができあがりました。それでいいのですよね。

information

モリノヒト

文 津留崎鎮生