Page 4
松川さんによると、F1種は形や大きさ、成長のスピードが
均一になるように、人工的な交配で品種改良がなされた作物とのこと。
農家が大量に効率的に育てる、流通に乗せる、そしてスーパーに並ぶ。
そのためにはとても都合のいい、生産性が高い作物といえます。
ただ、もうひとつ大きな特性があり、
F1種の作物から採取したタネから栽培しようとしても、
その特徴が安定して引き継がれないというのです。
つまり、農家は種苗メーカーから
タネなり苗なりを買い続けなければならないという、
市場経済の観点から考えて都合のいい種ともいえます。
対して、在来種、固定種は各地域でタネからタネへと
受け継がれてきた作物とのことです(在来種、固定種はほぼ同意義)。
作物からタネを採り育てることができるのですが、F1種とは違い、
形や大きさ、成長のスピードが揃っておらず、流通にも乗せにくい。
そして、各農家で自家採種してしまうと、
種苗メーカーの利益にはならない。
つまり、生産性や市場経済の観点から考えると
価値の低い作物ともいえます。
いま、農業をナリワイとして成り立たせようとするならば、
生産性の高いF1種を育てるのが一般的のようです
(有機か否か? 遺伝子組み換えか否か? とはまた別の話です)。
でも、その流れが加速すると、各地に伝わる種が失われてしまいます。
つまり、種の多様性が失われることになるのです。
さらには、本来は自然のモノであるはずのタネが
企業に支配されてしまうことになり、それにも違和感を感じます。
そんな状況のなか、松川さんは在来種の作物を育て、
そのタネを採り、タネからまた作物を育てています。
形も大きさも成長速度も不揃い。
無農薬なので虫や雑草も元気。
そして、伊豆は山間地域なので、畑や田んぼも一面一面が小さくて
それぞれに段差があったりもします。
スーパーで売っている作物をつくるような大規模農業、
つまり農薬や化学肥料を使ってF1種の作物を育てる農業と比べると、
モリノヒトは大変な手間のかかる農業を目指しているのです。
農業にかかわらず、この社会は、手間をかけずに
「生産性を上げること、効率化」を目指しているといえます。
もちろん、生産性が上がることにより、
多くの人が恩恵を受けることも多くあるのでしょう。
タネの話で言えば、いまの人口をまかなう食糧の安定供給のためには
生産性の高いF1種が必要、ともいわれています。
でも、生産性を上げることで失ってしまうものがあり、
その中には失ってはいけないものもある。
そして、手間をかけることでしか生み出せない価値がある。
彼らの暮らしや農業に対する姿勢を見ていて、そんなことを感じました。
松川さんはまだモリノヒトとしての歩みを始めたばかりです。
彼らが手間をかけて育てた作物が、
どれほどの多様なタネを継いでいくのか?
楽しみでなりません。
information
モリノヒト
Web:モリノヒトFacebook