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Uターン、Iターンの移住夫婦が営む
下田の温泉民宿〈勝五郎〉。
「武器」を持って暮らしをつくる|Page 3

暮らしを考える旅 わが家の移住について
vol.053

Page 3

かつての雰囲気も残しつつ
リノベーション!

勝五郎を営むのは土屋尊司さん、昌代さんご夫婦。
尊司さんは下田で生まれ育ったUターン移住者、
昌代さんは愛知県出身の移住者です。

尊司さんの生まれ育ったのはこの民宿、勝五郎。
高校までをこの地で過ごし、大学卒業後は
大手の店舗・空間デザイン会社に就職。
デザイナーとして数々の物件を手がけてきました。

昌代さんは愛知県に生まれ、大学卒業後、地元の会社に就職。
学生時代に知り合っていた尊司さんと結婚後は、
尊司さんの勤務先である福岡、大阪へ共に移り住み、
それぞれの地で勤務先を変えながら忙しく過ごしていたそうです。

移住前に住んでいたのは大阪。
同じ屋根の下に暮らしていても
顔を合わせないほどの忙しい時期もあったとか。
お互いの仕事にやり甲斐は感じていたものの、
こんな暮らしをいつまで続けていくのか? という疑問を持ち始め、
「いつかは夫婦ふたりで何かをやりたい」
と人生の目標を話すことが多くなっていったそうです。

その頃、尊司さんの実家の勝五郎は担い手がおらず休業中でした。

リニューアル前の温泉民宿勝五郎

尊司さんのお祖父さんとお祖母さんが始めた温泉民宿勝五郎。

これは「いつか」と考えていた
夫婦ふたりで何かをやるタイミングなのでは? と、
民宿を継ぐことを考え始めたそうです。
このことを尊司さんのお父さんに告げたとき、こう反対されました。

「一部上場企業勤務という地位を捨て、
先の見えない民宿経営という道をとることはリスクが大きすぎる」

でも、尊司さん、昌代さんにとって大切なことは
一部上場企業に勤めることではなく、ふたりで暮らしをつくりあげること。

お父さんを説得して、10年ほど勤めた会社を退職。
尊司さんの生まれ故郷の下田に夫婦で移住しました。

そして、尊司さんのデザイナーとしての経験を生かし、
いわゆる「昔ながらの普通の民宿」だった勝五郎を
リノベーションし生まれ変わらせたのです。

こちらがビフォー……

リノベーション前の建物

この雰囲気、個人的には好きなのですが、どの観光地にもあると言えなくもない。(写真提供:土屋尊司)

そして、アフター!

リノベーション後の温泉民宿勝五郎

オンリーワンな民宿にリノベーション。
デザイナーだった尊司さんと元リノベ屋の僕、
ついつい話はマニアックなほうへ。

手書きのスケッチや図面

なんと図面やスケッチはすべて手描き! 
見ているだけでワクワクしてしまいます。
僕は長い間、建築業界にいますが、
なかなかこうした図面やスケッチには出会えません。
この図面をもとに地元の大工さんに施工をしてもらったそうです。

こうした図面のワクワク感はつくり手にも伝わるもの。
図面もプレゼンもCADやCGで行うことがあたり前のいま、
こうしたスケッチや味のある図面を描ける人は本当に希少な存在です
(あとで述べますが、これは彼の「武器」でもあります)。

そして、上映会を開催した広間がこちら。

上映会を開催した広間

開業準備中に行った上映会ではまだスクリーンがなくシーツで代用。それも手づくり感あってよさそうです。上映したのは昌代さんが地域の人にも見てもらいたいというドキュメンタリー映画『うまれる』

日当たりの良い広間

居心地のよさにすっかりくつろぐわが家のふたり。

別々にやってきた宿泊客の交流の場になることもあるそうです。
居心地のよさが自然と人を集めるのでしょう。

そして、こちらが宿泊部屋。

宿泊部屋

「昔ながらの普通の民宿」の雰囲気を残しつつリノベーション。懐かしくも新しい、そんな空間です。

窓からは下田の、いや伊豆のビーチを代表する白浜の海が見えます。
勝五郎は白浜大浜海岸まで徒歩3分という立地です。

窓から見える白浜の海

宿泊部屋は3部屋のみ。
尊司さん昌代さんご夫婦が引き継ぐ前はもっと多くあったそうですが、
自分たちの手が届く範囲で商売をしたいという思いから
3部屋のみにしたそうです。

また、お客さんとのコミュニケーションの時間を大切に考えた結果、
夕食の提供はしないことにしました。
下田は多くの飲食店があるのでそちらを利用してもらうか、
持ち込み食材を広間で食べてもらうかというスタイルをとっています。

3部屋のみで、夕食の提供もなし。
いまのところ宿泊サイトへの登録もしていないので、
口コミのお客さんがほとんど。
随分あっさりとした経営に思えます。

「まだ始めたばかり。焦ってもしょうがない」と尊司さんは言います。
「子どもも手がかかりますし」と昌代さん。

それはその通りですが、ある程度はお金を稼がなければ
暮らしていけません。
移住して収入が激減した自分が言うのもおかしな話ですが、
心配になってしまいます。

広間は子どもの遊び場にも

2017年春に移住して間もない頃に第一子誕生。広間が遊び場です。

でも、土屋夫妻に焦る様子は見えません。
どうしてこんな余裕があるのか? その答えは
僕も試みている働き方「二足のわらじ」(vol.30参照)にありました。