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こうしてつくられた高橋養蜂のはちみつは、いまのところ
下田、遠くても伊豆半島内の店舗での販売がほとんどです。
むやみに販路を増やすことや売り上げを伸ばすことを目標にしてはいません。
東京に数店舗もあるはちみつの専門店からの
打診を受けたこともあるそうですが、お断りしたそうです。
受けていればいまより売り上げは安定したかもしれません。
でも、受けなかった。
というのも、いまでこそ通年販売する商品が
確保できるほどの生産量になったのですが、
数年前まではまだ生産量が安定していなかったのです。
「そんな頃から支えてくれたお客さまや販売店、
地域の人たちがいるからこそ、いまでもこうして養蜂を続けられている。
その感謝を忘れることはできない。
とにかくまずは下田で、伊豆でしっかりやりたい」と鉄兵さん。
最後にもうひとつ伝えたいエピソードがあります。
採蜜のため、巣枠を作業場へ持っていくときのことです。
そのとき、ミツバチたちはとても怒ります。
考えてみれば……そりゃそうです。
必死になって集めた蜜を持っていかれてしまうのですから。
ミツバチは普段は温厚で人に攻撃するようなことはありません。
でも、このときばかりは違います。
一生に一度しか使えないという攻撃のための針を
ここぞとばかりに使ってきます。それほどに怒っているのです。
でも、こうした過程があってはちみつができます。
はちみつだけではありません。肉や魚はもっと直接的ですが、
はちみつと似たスタンスの食品だと卵や牛乳があります。
見方を変えれば野菜だって同じかもしれません
(植物に感情があるとする説もあるそうです)。
何らかのかたちでの「搾取」があって、食品が、命が成り立っている。
そんな当たり前のことを、ミツバチの怒る姿を見てあらためて感じました。
1匹のミツバチが生涯をかけて集める蜜の量はたったの小さじ1杯。
心をこめてつくり、おいしくいただきます。
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高橋養蜂