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地域に愛される、
伊豆下田〈高橋養蜂〉との出会い。
“ミツバチの楽園”という夢が
つなげてくれた里山の縁。|Page 4

暮らしを考える旅 わが家の移住について
vol.021

Page 4

まちから里山へ。
農的暮らしをする人たちとの縁

後日、高橋さんから連絡が。
先日の畑とは別の、自宅近くのブルーベリー畑が
鹿に荒らされてしまったというのです。
その獣害対策のため、柵をつくるのを手伝ってくれないかとのことでした。

ブルーベリーは蜜源植物でもあり、
作物としても出荷している高橋養蜂にとって大切な果樹です。
獣害対策の柵……、田舎暮らし初心者の僕は
もちろんつくったことがありません。
そんな僕が行って力になれるのだろうか? 
一瞬ひるんでしまいましたが、先日の高橋さんの言葉を思い出し、
ありがたく引き受けました。

そして、「高橋養蜂は俺が守る!」くらいの気持ちで
獣害対策の柵づくりに向かいました(単純なのです)。

ワイヤーメッシュ柵の上に電気柵を組みます。このメッシュだけだと鹿は飛び越えてしまうのだと。なんという瞬発力……。

こうして対策を講じながらも、昨年は出なかった被害が
今年は出るようになったことが気になってしまいます。
森の生態系に何か変化が起きているのでしょう。
問題は根深いのかもしれません。

高橋さんを応援する農家さんが続々とやってきては声をかけていきます。

今回の柵のつくり方は下田の隣、南伊豆町で
野生動物の食肉処理を通して森を守る活動を行っている
株式会社〈森守(もりもり)〉の黒田利貴男社長、直伝の方法です。

当初、高橋さんは柵の見積もりを一般的な方法でとったところ、
想像以上に高くなってしまったそう。
そこでいつもサポートしてくれる黒田社長に相談を持ちかけました。
そして、安い材料でできる確実な方法を
教えていただけることになったといいます。

黒田社長は「この方法が獣害に悩む農家さんに浸透していってほしい」と
おっしゃっていました(詳細を知りたい方は僕まで連絡ください)。

世代間でこうして知恵が伝わり地域が守られるというのは、
本来あるべき姿といえます。

黒田社長自ら電柵を。山について、獣たちの行動についてのひとつひとつの言葉が深く、とても勉強になります。ちなみに森守の鹿と猪のソーセージは絶品! わが家の来客時の定番メニュー。伊豆の味を楽しんでもらっています。

やはり高橋さんを応援する稲作農家の中村大軌さん。若い方ですが、南伊豆で最大の耕作面積をもつ〈南伊豆米店〉(株式会社アグリビジネスリーディング)の代表を務められています。休耕田を再生し景観と環境に配慮した米づくりと樹木の伐採などの林業。多角的に伊豆の里山に関わっています。だからこそミツバチの重要性を感じているのでしょう。

2日間でブルーベリー畑の獣害対策の柵は完成しました。
この方法でミツバチの楽園の獣害対策もしていくのです。
楽園づくりのため、何ができるのだろうと尻込みしていた自分ですが、
この経験を通してできることが増えたわけです。
こうしてひとつひとつできることを増やしてこつこつと積み重ねていけば、
楽園は夢ではない、そんな実感が涌いてます。

そして、この2日間、下田や南伊豆の農家さんや山に関わる人たちが、
入れ替わりたちかわり訪れてきました。
それほどに高橋さんの養蜂が地域に受け入れられ、
愛されているということでしょう。

ありがたいことに僕も高橋さんの人望にあやかって
多くの方との縁ができました。
さらっと紹介しましたが、それぞれの方が深く魅力的な活動をしていて、
じっくりとお話をうかがってこの連載であらためて
取り上げたいと思える方たちばかりです。

南伊豆米店のスタッフ佐藤兄弟、弟の行さん(左)と 兄の流さん(右)とともに柵づくりをしました。彼らは高橋さんに「人間じゃない……」と言わせるほどの身体能力とタフさを持っています。米づくりから山仕事、大工仕事までできる彼らを見ていると「最近の若者は……」なんて言葉が引っ込んでしまうほど「生きる力」を感じます。

やはり高橋さんを応援する下田の農家〈ひらたけのクレソン〉のおふたり(平山武三さん、小泉則幸さん)も様子を見にいらっしゃいました。栄養価が高いことで知られるクレソンを専門につくられています。下田の飲食店でひっぱりだこの注目の農家さんです。高橋さんのお母さまは手伝いに来る人を常に気かけてくれる高橋養蜂のムードメーカー。うかがうたびにおいしく温かい昼ごはんをごちそうになってます。

それまでも縁が広がっている実感はありましたが、
暮らし始めた場所が下田のまちの中心に近い立地ということもあり、
知り合う人はまちの飲食店や自営業者の方が多かったのです。

vol.19『思いもしなかった心地よさ。移住した伊豆下田、小さなまちでの小さな暮らし』で書いた通り、
まちでの暮らしを楽しんではいたものの、
当初思い描いていた移住のイメージ「里山での農的暮らし」から
離れていることに焦る気持ちはありました。

そんななか、こうして農的暮らしを実践する人たちとの縁が
でき始めたのです。
いまのところは、そんな暮らしをする人たちと出会っただけで、
自分は何も実践できていません。まだまだです。
でも、少なからず道が開けてきたように感じています。

現在、あまり効果的に活用できていない倉庫をリノベーションして使いやすくしようという話になり、僕が陣頭指揮をとることに! ここでは過去の経験が生きてます。

さあ、これからどのような展開が待っているのでしょうか。
下田暮らしは始まったばかりです。

身軽でいたからこそのこの展開。
しばらくはこんな感じでいこうと思っています。

information

map

高橋養蜂

住所:静岡県下田市箕作787-1

TEL:0558-28-0225

Web:http://takahashihoney.net/

文 津留崎鎮生