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このとき、僕はある映画の印象的なシーンを思い出していました。
半年ほど前に観た、新潟の雪深い村に移り住んだ人々と
地元の人々の暮らしを描いたドキュメンタリー映画
『風の波紋』でのこんなシーンです。
みんなで育てた山羊をしめ、捌き、その山羊との思い出話をしながら、
おいしさに感謝しながら、涙しながら、その肉をいただく。
まさに『風の波紋』のそのシーンのように
みんなでチャチャの思い出話をしながらおいしくいただきました。
半年前にそのシーンに感銘を受けていたときには、
同じような体験を半年後の自分がするとは思ってもいませんでした。
人生はなかなかに味わい深い。
東京で暮らしてきたいままでの人生では、
肉はどこかの誰かがしめて捌いたモノをスーパーで買う「商品」でした。
でも、田舎で暮らそうと決めた僕は、そこから脱していかないと
いけないんだと、チャチャの肉を味わいながら考えていました。
娘にとって、そして自分にとっても、
それまで名前で呼んでいた動物を食べるのは初めてのことです。
チャチャに近づいて名前を呼ぶのが精一杯で
怖がって触ることすらできなかった娘でしたが、
この命の営みを目の当たりにして何を感じたのでしょうか。
このように都会では感じることが少なくなった、
命の営みが間近にあるのが田舎で暮らすということなのかもしれません。
そんな田舎で暮らし始めよう、そして、その暮らしの舞台となる物件を
借り始めようという前夜にこのような出来事があったことに、
少なからず必然性を感じてしまいます。
この出来事は、僕に田舎で暮らすことの奥深さを教えてくれました。
人として生きていくうえでの大切なことを考えさせてくれました。
父と娘のはじめてのふたり旅、深いところからのスタートとなりました。
次回はいよいよ、仮住まい物件の確認、家主さんとの顔合わせです。
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日本料理 朔
住所:三重県津市美杉町八知3541
営業時間:11:30~16:00(11:30~と13:15~の2回)
定休日:水曜・木曜・金曜
*各回6名まで、完全予約制、4300円(税込)のおまかせコース