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動物の命をいただくということ。
移住前の洗礼にも感じられた
出来事について|Page 3

暮らしを考える旅 わが家の移住について
vol.007

Page 3

印象的な映画のシーンのように、
命をいただく

このとき、僕はある映画の印象的なシーンを思い出していました。
半年ほど前に観た、新潟の雪深い村に移り住んだ人々と
地元の人々の暮らしを描いたドキュメンタリー映画
『風の波紋』でのこんなシーンです。

みんなで育てた山羊をしめ、捌き、その山羊との思い出話をしながら、
おいしさに感謝しながら、涙しながら、その肉をいただく。

映画『風の波紋』。暮らしとそれを成り立たせる命について考えさせてくれる映画です。

まさに『風の波紋』のそのシーンのように
みんなでチャチャの思い出話をしながらおいしくいただきました。
半年前にそのシーンに感銘を受けていたときには、
同じような体験を半年後の自分がするとは思ってもいませんでした。
人生はなかなかに味わい深い。

田んぼの草取りに、ユウとの散歩に、よく動き回っていたチャチャのお肉はしまっていてとてもおいしかったです。一生忘れることのできない味です。沓沢家のみんなと僕と娘の血となり肉となりました。

「亡骸を食べ物に変えたとき、料理する人はすごいなあ、といままでに感じことのない次元で思った」と奥さまの佐知子さん。

東京で暮らしてきたいままでの人生では、
肉はどこかの誰かがしめて捌いたモノをスーパーで買う「商品」でした。

でも、田舎で暮らそうと決めた僕は、そこから脱していかないと
いけないんだと、チャチャの肉を味わいながら考えていました。

娘にとって、そして自分にとっても、
それまで名前で呼んでいた動物を食べるのは初めてのことです。
チャチャに近づいて名前を呼ぶのが精一杯で
怖がって触ることすらできなかった娘でしたが、
この命の営みを目の当たりにして何を感じたのでしょうか。

「敬ちゃんと毛をむしりながらいろいろな思い出が浮んできたよ。一番きれいな青緑の飾り羽を1枚もらい、工房に飾っています。首は土にそっと埋めました」と佐知子さん。(撮影:沓沢佐知子)

このように都会では感じることが少なくなった、
命の営みが間近にあるのが田舎で暮らすということなのかもしれません。

今回の出来事を通し、あらためて沓沢家の生きる強さを感じました。震災を機に東北より移り住んできたときには荒れ放題だったというこの土地や古民家を、自分たちの手でここまでの空間にしたことからもその強さは感じていたつもりでしたが……。自分ももっと強くなりたい、沓沢家にはそんな刺激を毎度もらっています。

そんな田舎で暮らし始めよう、そして、その暮らしの舞台となる物件を
借り始めようという前夜にこのような出来事があったことに、
少なからず必然性を感じてしまいます。

この出来事は、僕に田舎で暮らすことの奥深さを教えてくれました。
人として生きていくうえでの大切なことを考えさせてくれました。

次の朝、沓沢家の住む地域の山の神様にお参りしました。ユウは何を言ったわけでもないのですが、鳥居の手前でぴったりと止まって待っていました。人間と暮らす動物と自然の動物の境界がそこにあるのかもしれません。

父と娘のはじめてのふたり旅、深いところからのスタートとなりました。

次回はいよいよ、仮住まい物件の確認、家主さんとの顔合わせです。

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日本料理 朔

住所:三重県津市美杉町八知3541

営業時間:11:30~16:00(11:30~と13:15~の2回)

定休日:水曜・木曜・金曜

*各回6名まで、完全予約制、4300円(税込)のおまかせコース

Web:http://saku.jp.net/

写真・文 津留崎鎮生