連載
posted:2024.11.15 from:全国 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
山や海、自然が身近にある暮らし、古い建物を改修しながら住まう人、
都市と地域での多拠点生活など、コロナ禍を経て、住まいを選ぶ自由度は高まっている。
「非日常的な旅」と「日常の暮らし」の境目はなくなりつつあり、
たくさんの選択肢があるからこそ考える、これからの暮らしと、住まい。
writer profile
Saori Nozaki
野崎さおり
のざき・さおり●富山県生まれ、転勤族育ち。非正規雇用の会社員などを経てライターになり、人見知りを克服。とにかくよく食べる。趣味の現代アート鑑賞のため各地を旅するうちに、郷土料理好きに。
好きなとき、好きな場所で、自由に生活を楽しむ。
暮らし、住まい、働き方が多様化しているいま、
ライフステージの変化に合わせて、
軽やかに多拠点を実現できる、暮らしのサブスクや、
自然と共生しながら過ごす滞在型施設を、
利用する人やコミュニティは年々広がっている。
こうして選択肢が広がっているからこそ、自由でおもしろい。
自分らしい理想を叶えてくれる、4つの事例とともに、
「これからの暮らしと、住まい」を考える。
すでに何度かコロカルでもその動向を取り上げてきた
メンバーシップ制セカンドホームサービス
〈SANU 2nd Home(サヌ セカンドホーム)〉。
現在28ある拠点はどれも自然豊かな場所にあり、
ほとんどが都心から片道1時間30分~3時間程度でアクセスできる。
2021年にスタートし、現在サービスプランは3種類。
1つ目は、福利厚生の一環となる法人向けのプラン。
2つ目は、個人向けのサブスクリプションサービス。
2024年には、新たに共同オーナー型別荘
「SANU 2nd Home Co-Owners」が加わった。
個人向けの場合は、月額5万5000円で、
1か月に7泊まででき、平均2〜3泊利用が多いそう。
気軽に自然のなかで、暮らしをはじめてみたい人にもおすすめだ。
SANU 2nd Homeは、あくまでライフスタイルブランド。
一時的に訪れて観光として滞在するよりも、
生活者として「暮らし」を体験することを重視している。
たとえ場所が違っても、利用者が帰ってきた気分になれることを意識して
SANU 2nd Homeとしてつくるキャビンは4種類に限定。
キャビンに置かれる備品は、プロジェクターや焚き火台、
調理器具やカトラリー、調味料に至るまで同じものを揃えている。
こうして通っているうちに、近くにあるお店の人と顔なじみになり、
地域の新たな魅力を発見した、という声も聞こえてくる。
さらに気に入った地域との2拠点生活を実行する人や、
真剣に移住を考えている人、実際にすでに移住した人もいるのだとか。
「都市と自然を軽やかに行き来して、生活を営む。」という、
ライフスタイルを、しっかりと自分のものにしている会員も増加中だ。
SANU 2nd Homeが一般的な宿泊施設とは
大きく違う点が、もうひとつある。
それはSANU 2nd Homeが増えるほどに、
日本の森が豊かになる仕組みがあることだ。
キャビンに使う木材は、岩手県釜石をはじめ日本中から原木を調達。
土壌環境に配慮して基礎は高床式になっている。
そして、建築に釘を使わないため、キャビンの解体後には
木材を資源として再利用することで、自然環境へ適応していく。
そして建築に使った以上に、日本の森に木の苗を植える活動
「FORESTS FOR FUTURE」も実行中。
事業で排出されるCO2の量よりも、植林などによる吸収量が上回る
状態を保ち、環境負荷をかけない「カーボンネガティブ」を目指している。
来年には北はにニセコ、南は奄美大島まで、
その数は30拠点へと拡大していく見込みだという。
全国に広がるSANU 2nd Homeに、繰り返し通いながら、
日本中の自然に、もうひとつの家を持つ。
そんな自然共生を叶える暮らしを、
まずは軽やかに、始めてみるのもよさそうだ。
information
SANU 2nd Home
サブスクリプション会費:月額55000円(1か月7泊まで)
共同所有型の購入金額:330万円〜(年12泊〜・30年権利)
※上記の月会費に加え、利用ごとに宿泊費がかかる場合あり
Web:SANU 2nd Home
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〈Earthboat(アースボート)〉はトレーラーハウスを利用した
サウナ付き宿泊施設を企画・運営している。
現在長野・野尻湖、黒姫、白馬、戸隠(長野)、
北軽井沢、みなみ藤原(群馬)の6か所に全国展開を予定。
都心からアクセスしやすい自然のなかで、
家族や友人、ペットも一緒に、誰もが快適にアウトドアを楽しめる。
トレーラーハウスは24平方メートルの室内に
大人3人が宿泊できるようにつくられている。
キッチン、トイレ、シャワー、ふかふかのベッドがあるのも自慢だ。
最大の特徴は、トレーラーハウスに専用のサウナが必ず付いていること。
〈株式会社アースボート〉代表の吉原ゴウさんは、
長野県でアウトドアスクールを経営する家庭に生まれ、
いろいろなアウトドアアクティビティをしながら育った。
大人になってからは東京でIT企業を経営した後、地元にUターン。
デジタルの世界よりも、日本中に広がるようなビジネスとして
自然やサウナ、宿や建築、土地の活用を行う事業を始めた。
Earthboatが開いた最初の拠点のひとつで、
吉原さんの地元でもある野尻湖は、夏と冬に来訪者が集中するエリアだ。
以前はサウナが自慢の宿〈LAMP〉を運営に携わり、
サウナブームも手伝って、季節を問わずたくさんの人が訪れ、
“サウナの聖地”と呼ばれるまでに。
「厳冬期の1月、2月に雪景色のなかで、サウナに入っては屋外に出る。
それってすごいことだなと思います」と吉原さん。
滞在中には自分でおこした火を囲んで
景色を眺めながら会話を楽しんだり、
風を感じながら満点の星を眺めたりと、
屋外での時間を充実させてほしいというのが、コンセプトのひとつ。
四季がはっきりしていて、湿度が高い時期もある日本で
屋外で快適に過ごすきっかけとなるのがサウナだ。体が冷えたらサウナに入り、
夏の暑い日には、水風呂で体を冷やしてから日向ぼっこもできる。
「宿業は10年、20年、30年と続けていくのが前提のビジネス」と、
吉原さんは話す。Earthboatのトレーラーハウスづくりには
CLTという厚さ120ミリの分厚い建材を使用するなど
長く使い続け、時間と共に価値が出ることも想定している。
そもそもトレーラーハウスは、車輪が付いていて
トレーラーでけん引して移動が可能である。
設置の手間が少なく、いつか敷地を引っ越すことになっても、
大がかりな解体工事をせず、土地を元の姿に戻すことができる。
「自然に対してローインパクトであること」も重視されている。
Earthboatの理念は「自然に飛び込むきっかけをつくる」。
トレーラーハウス型の宿泊施設として、
その飛び込む先の自然や地域への負荷を最小限にしたいと
実践していることも、気分よくEarthboatに滞在できる理由のひとつだ。
information
Earthboat
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車中泊で旅をする人や、車の荷台を有効活用して移動しながら生活する
バンライフが注目されるなかで、
2020年6月に生まれたのが、シェアリングサービスの〈Carstay〉。
キャンピングカーのレンタル・カーシェアと
車中泊スポット・キャンプ場のスペースシェアを組み合わせている。
利用者は新幹線や飛行機での移動や、
宿泊施設を利用するより安価に旅ができ、
キャンピングカーや車中泊スポットのオーナーは
シェアすることで収入が得られて、利用者、提供者、どちらにもメリットがある。
また、昨今、地域での宿泊施設の不足や二次交通にも課題があるため、
宿や移動手段にもなるキャンピングカーの活用が注目されている。
現在約500台の車両が登録され、登録会員数は6万人以上と増加中だ。
Carstayでは、仲介のプラットフォームとしてだけでなく、
「Local Vanlife Project(ローカル・バンライフ・プロジェクト)」
と名づけた地域観光モデルも行っている。
バンライフとは荷台スペースが広い車“バン”を家やオフィスのようにつくり変え、
車を働く・遊ぶ・暮らしの拠点とする新たな“ライフ”スタイルのこと。
これまで舞台となったのは石川県白山市、埼玉県川島町、
広島県三原市、長野県松川町など。
さらに「金刀比羅宮(ことひらぐう)」で有名な香川県琴平町では、
地元のバス会社の〈琴平バス〉、〈琴平町観光活性化協議会〉と共同で
「ペット参拝×車中泊」にまつわるイベントも開始。
このプロジェクトの舞台である琴平町には、
江戸時代、金刀比羅宮には飼い主に代わって
旅費と賽銭を託された「こんぴら狗(いぬ)」が参拝する風習があり、
キャンピングカー所有者の多くがペットと旅をする人が多いから。
古くからペットにとって旅の目的地だったというわけだ。
全国に広がるCarstayのサービスで、キャンピングカーの機動力や
自由度を実際に体験すると、大切な仲間や、ペットを含む家族と一緒に、
“自然と生きる時間”の意味を楽しめそうだ。
information
Carstay
料金:キャンピングカーレンタル24時間3500円〜(保険料・システム利用料別途)、車中泊スポット利用料1泊500円〜
Web:Carstay
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「住まい」のサブスクリプションサービス
〈ADDress(アドレス)〉が提案するのは多拠点居住で、
日本各地にある空き家を有効活用している点も特徴だ。
月額9800円から、国内・海外に
約300か所(2024年8月末時点)以上ある家、
シェアハウス、ホテルなどを利用できる。
サービスがスタートしたのは2019年4月のこと。
ADDressを立ち上げた佐別当隆志(さべっとうたかし)さんは、
子ども時代を大阪、大学時代を京都で過ごし東京のIT企業で働くように。
都会暮らしを長く経験して、次第に地方への憧れが生まれ
田舎からリモートワークするような暮らし方ができないかと考えていたが、
地域の人たちと一から関係を築くのは難しそうだとも感じていたそうだ。
そんなときある地域に友人ができ、
おかげでそのまちのイメージがガラリと変化するという経験をしたことが
ADDressの特徴につながっている。
その特徴とは、どの家にも生活をサポートする
コミュニティマネージャー「家守(やもり)」がいること。
家守は物件の維持管理を行うだけでなく、
地域と会員をつなぐ「橋渡し役」となり、
初めて訪れる地域でも快適に滞在できるように、地域の魅力を発信している。
しかもADDressでは、複数の利用者が居住空間をシェアしながら滞在する。
だから自然と家守や利用者との交流が生まれていく。
利用者の8割以上が、ADDressを通して友人ができたと、
アンケートに回答したほどで、ある場所で出会った人と、
どこか別の場所で再会することを楽しみにしている人も多い。
ADDressでは教育からも地域に関わる体制づくりを試みている。
熊本県多良木町と秋田県五城目町ではデュアルスクール、
教育留学ができるよう公立の小学校、中学校と連携。
もともと通う学校を転校することなく、
どちらの学校にも通える体験プログラムを計画している。
期間は数日から1カ月の予定だ。
デュアルスクールが可能になると、子どものいる家族も
2拠点生活を充実できるうえに、地元の人たちからも関係人口や
つながりをつくる新たな取り組みとして期待されている。
学校に通う年齢の子どもたちにこそ、自然豊かな地域の暮らしを
経験させたいと考える、家族の可能性も今後ますます広がっていく。
information
ADDress
サブスクリプション会費:月額9800円〜 (予約チケット2枚/月)
Web:ADDress
こうして地域や自然を軽やかに行き来きしたり、
暮らしにまつわるサブスクを利用し、もうひとつ拠点をつくってみたり。
これから、どんなふうに暮らしていきたいか?
何が自分にとって心地よいか? その選択肢はさまざまで、もっと自由でいい。
まずは、日々の暮らしに寄り添ってみることで、その答えが見えてくるはずだ。
*価格はすべて税込です。
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