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信子「そしたら、食べようか」
はい!
さつまいもご飯に芋づるの佃煮、そしてお父さん特製のお味噌汁。
信子「お父さんのお味噌汁、すっごくおいしいんよ」
という信子さんの言葉を受けて、
お父さんが照れくさそうに台所を右往左往している。
みんな揃って、「いただきまーす」
まずはご飯をひと口頬張る。これぞ秋の味覚。
少し肌寒くなった秋に身も心も温めてくれるのは、そう、さつまいもご飯なのだ。お父さんのお味噌汁を口に流し込むと、完全に心がほどけていく。
「おいしいです!」
ふふふ、と、また照れながら席を立ってしまった、お父さん。
このシャイな感じと、タオル鉢巻きのバランスがとてもいい。
信子「写真も苦手なんよ、お父さん」
(ということで、お父さんの写真はございません)
芋づるの佃煮に箸を伸ばす。
こってりと煮つけられて黒々とした芋づる、見た目はきゃらぶきのよう。
食べてみると、しゃくしゃくとした歯ごたえが小気味よく、つい箸が進んでしまう。この味わいは、日本酒が進むに違いない。
信子「今度は泊まって、お酒でね」
はい!
信子「ご飯、おかわりは?」
はい、お願いします。あの、お味噌汁もまだありますか? とリクエスト。
ご飯2膳とお味噌汁を2杯いただき、ごちそうさまでした。
信子「デザートの芋ようかん、テラスで食べようか」
はい。
信子さんとふたりでテラスに出る。目の前に広がる緑を眺めていると、
自分の中の邪気がすっと吸い取られていくような気がする。
いろんなことが、ま、いっか、と流れていくような。
信子「これもあるよ、食べる?」
と差し出してくれたのは、昨日収穫したプチカ農園さんのブルーベリーを使ったジュースと、お手製のイチジクのコンポート。
信子「このイチジク農家さんも、すっごくすてきな人なんよ~」
お腹ははち切れそうだけれども、目の前に並んだスイーツ群にはそれにもまさる吸引力がある。ちびりちびりと手を出しながら、信子さんとお茶飲み話。
信子さんは以前、
兵庫県の稲美町で学校給食の栄養教諭をされていた。
学校給食でいかに子どもを支え育てるか、長い時間をかけて取り組んできた。
食育には特に力を注ぎ、子どもたちを積極的に
生産者さんに会わせていたそう。
信子「つくり手さんがこんなに苦労してつくってくれてるねん、
ちゅうのを、子どもたちに伝えなきゃならんよね。
つくり手さんに会ってどういうものなのか知ることで、
給食残さなくなるんよ、子どもたち」
なるほど、それはすごく大事なことですね。
芋ようかんをひと口食べた信子さん、
「おいしいー、田中さんのつくるさつまいも、ほっんまおいしいよね!」
と目を開く。食べ物を口にしたとき、信子さんの体にパッと電気がついたように明るくなる。
私も芋ようかんをひと口、おいしいー。買ってきたものにはない
ごろっと感が、いかにも手づくりで温かみがある。
「このお芋もブルーベリーも、ほんまおいしいやろ。
つくり手さんの顔が見えるっちゅううのが、一番の食の豊かさやね」
そう言って、信子さんはうれしそうにもうひと切れ、
芋ようかんを口に運んだ。
information
あわじ花の歳時記園
住所:兵庫県淡路市長沢247-1
TEL:0799-64-0847
営業時間:9 : 00 ~ 18 : 00
定休日:通年不定休(12月30日 ~ 翌1月3日休)
入園料:開花期以外/無料 アジサイ開花期/高校生以上500円、小中生400円