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つくり手の顔が見える、
豊かな食卓。
淡路島のさつまいも料理から
感じた大事なこと。|Page 4

美味しいアルバム
vol.020

Page 4

翌朝。おはようございます、昨日に引き続きお宅におじゃまする。

信子「うち泊まればよかったのに、ほんま」

前日、信子さんから泊まっていってはどうかと、ありがたいお誘いをいただいた。けれども、すでに予約していた旅館があったのでそちらに宿泊したのだ。

信子「今度は泊まって、いくらでも泊まってええよ~」

初対面なのにこんなに温かく迎え入れてくれるなんて、これだからまた淡路島を好きになってしまう。

父「泊まってったらお酒も飲めるし、ね」

はい、次回はぜひ一緒に晩酌させてください。

さて、いよいよ調理開始。

まずは芋づるの下処理から。昨日畑で収穫した芋づる、元気な姿でわさわさと籠に盛られている。葉っぱを取り、食べやすい長さにポキポキと折る。これだけ量があると、けっこう手間のかかる作業だ。

テラスの椅子に腰掛け、信子さんと一緒に下処理。世間話をしながらの手仕事は、なかなか心地がよい。女性同士でしか通じ合えない、そんな少しの空気を感じとると、ふとうれしくなるのだ。

そういえば、『キルトに綴る愛』という映画で、あばあちゃんたちが昔話をしながら1枚のキルトを刺していくシーンがある。その空気感に、昔からなぜか強く惹かれた。

それに近い、テーブルを囲んでする野菜の下処理。

いい時間だな。

さて、下処理を終えた芋づるを、塩と重曹を少々入れたお湯でさっとゆでる。
それをザルに上げ、水につけて灰汁抜きをする。
その後、砂糖、醤油、酒、みりんを入れた煮汁で煮詰めていく。

信子「じゃあ、これはそのまま煮ておいて、次は芋ようかんつくろうか」

待ってました!

芋ようかんといえば、東京駅にあるお店で買うのが常。
自分でつくろうなんて、いままで考えたことがなかった。

テツ「芋ようかんて自分でつくれるんですね」

信子「えー、簡単よー」

ということで調理スタート。

まず皮を厚めにむいた芋を、2センチくらいの輪切りにする。それを鍋に入れ、ひたひたの水を入れ火にかけ、やわらかくなったらザルに上げる。お風呂上がりの赤ちゃんのように、ほわほわ湯気の立つお芋を見ていたら、生唾が。

テツ「あの、これ、ひと口、かけらだけ食べてもいいですか?」

熱々のお芋を手に乗せてくれた。口に含むと上品な甘みが広がる。
うーん、シンプルながら格別のおいしさ。信子さんも口に頬張る。

あふっ、あふっ。

「おいしいねー! 田中さんのお芋はほんとおいしいんよ~。
お父さん!お父さん! ちょっとこれ食べて、栗みたいやから」

少々興奮気味の信子さん。

お父さんも味見して、ふむふむと頷く。たしかに、上質な栗きんとんのような味わい。これは完成が楽しみだ。

ほくほくのさつまいもを、熱いうちにすり鉢でつぶしていく。

「ざっくりしたのと上品なの、どっちがええ?」

通常買って食べる芋ようかんは滑らか。
なので、あえてざっくりなのが食べてみたい。
信子さんによると、つぶしたままだと、粒感が残った仕上がりになり、つぶしたあとさらに裏ごしすると、滑らかで上品な仕上がりになるのだそう。

水と粉寒天を入れた鍋を中火にかけ、かき混ぜながら煮とかす。
1分半沸騰させたら、砂糖と塩、牛乳を入れて混ぜ、火を止める。
そこへ、先ほどのつぶした芋を入れ、まんべんなく混ぜる。
流し缶に入れ、冷蔵庫で冷やして固めたらできあがり。

「ね、簡単でしょー」

はい、確かに。

自分ではつくれない、そう勝手に思い込んでいた自分に気づかされた。
本当は簡単につくれるものも、買うものと思い込んで生活している。
この取材をしていると時折そうしたことに気づかされ、自分に被さっている思い込みの鎧を1枚ずつ削ぎ落とされるような、そんな感覚になる。

いつか、抜けのよいすてきなおばあさんになりたい。

信子「そろそろ炊きあがるかな?」

さつまいもご飯も、前もって準備してくれていた。
炊飯器のふたを開けると、もわ~っとした蒸気とともに、お米とさつまいもの甘い香りが一気に立ち上る。秋の恵みの香り、幸せだ~。