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つくり手の顔が見える、
豊かな食卓。
淡路島のさつまいも料理から
感じた大事なこと。|Page 3

美味しいアルバム
vol.020

Page 3

翌月。

イベントが終わった翌朝、あわじ花の歳時記園へと向かった。

国道添いの看板を目印に、さらに奥へと進んで行く。携帯の電波が途切れ始めた頃、駐車場へと到着した。車を停め、目の前の急な階段をえんやこらと上って行く。頂上に着いてあたりを見渡すと、眼下には青々とした緑が広がり、遠くには海が見える。なんて気持ちがよいんだろう。

ふーっと、深呼吸をひとつ。

緒方さんご夫妻が営むこの園は、6月のあじさいの時期になると、3000坪の敷地内に3500株の花が咲き乱れるのだそう。
テラスカフェも併設されているので、ゆっくりと散策を楽しめる。

「おじゃまします」

建物の中へ入ると、緒方さんご夫婦が出迎えてくれた。

「よう来たね~」

信子さんのビビッドなピンク色のTシャツが目に飛び込んでくる。
もんぺとの意外な取り合わせがお洒落。
台所の奥にはキュッと鉢巻きをしたお父さんの姿、緒方明さん。

「どうも」と小声で挨拶してくれたものの、
照れくさそうに視線をそらすお父さん。

一枚板のどっしりとしたテーブルの上には、地元で採れた野菜や果物が鎮座している。それを目にしただけで、わくわくしてくる。

熟れて弾けてしまったイチジクがいかにもおいしそう、ごっくん。

「これね、淡路島のイチジクでね、すごくおいしいんよー。食べる?」

はい、食べたいです!

「皮むかないで、このまま手づかみでええよ」

東京では皮をむいて切って食べているが、このわしずかみスタイルは初めて。

「うん、おいしい、おいしい」と信子さん、丸ごとひとつをペロリとたいらげ、ふたつ目に手を伸ばしている。

私もそれを真似、大口を開けて食べてみる。水分をたっぷり含んだ食感と芳醇な熟れた香り、たまらない~。「もっと食べて、どんどん食べて」と誘われるがままに、丸ふたつをお腹におさめてしまった。

「じゃあ、そろそろ行こうか」と、信子さん。

今回つくってくださるのは、地元のさつまいもを使った料理。
そして、その材料となるさつまいもをいただきに、近所の農家さんを訪ねることになっていた。

信子さんの車に乗せてもらい10分ほど走ると、緑色の大きな葉っぱがわらわらと見えてきた。湿気を含んだ土の匂いがおいしくて、大きく吸い込む。土の匂いを嗅ぐと落ち着くのは、やはり農耕民族の潜在的な記憶なのだろうか。

信子さんいわく、この農家さんのさつまいもは絶品なのだそう。その絶品のお芋をつくっているのが田中さんご家族。「掘ってみる?」という田中さんの言葉に誘われて、自分たちで収穫することに。

まず、さつまいもが埋まっている周りのうねを崩していく。すると、赤い色のさつまいもの断面が見え始めた。スコップを差し込み、てこの原理でぐいと持ち上げる。すると、ずるずるっと連なった芋が表にお目見えする。

土の上に転がっているぷっくりとした芋を見ていたら、幼稚園のときに行った芋掘り遠足をふと思い出した。どうにもこうにもワクワクしてやまなかった気持ちが、心の隅にうっすらと染みついている。

温かい記憶に触れて、なんだかとってもうれしかった。

さつまいも農家の田中さん。

遠くのほうでは、信子さんが芋づるを収穫している。

この芋づるを煮つけにするとおいしいのだそう。

さつまいもが入ったビニール袋を両手に、農家さんをあとにする。そのまま帰宅と思いきや、「ブルーベリー好き?」という信子さんからの問いかけ。

もちろん大好きです、ということで、〈プチカ農園〉というブルーベリー農家さんへ寄り道をして手摘み体験をさせてもらった。ひとつ口に含んでみると、甘く濃い汁がいっぱいに広がる。

さつまいもとブルーベリー、淡路島の豊かな恵みを体いっぱいに感じた。

〈プチカ農園〉の宮本さん。

帰宅して、さあいよいよ料理開始! 
という頃には、もう陽が傾きかけていた。

「あら、もうこんな時間やんか、のんびりしすぎたね」

あら、ほんと……。

「明日にする?」

ご都合大丈夫ですか?

「ええよ」

ということで予想外の展開、明日また出直すことに。
淡路島の自然の中で過ごす時間は、あまりにも心地がよかった。