連載
posted:2012.1.15 from:岡山県倉敷市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
レトロな看板に使い込まれてきた店内のインテリア。一見、古くて、時代遅れに見えても、
得も言われぬ魅力に惹かれてしまうのです。全国に潜むそんな名店を探して。
editor profile
Yutaka Akahoshi
赤星 豊
あかほし・ゆたか●広島県福山市生まれ。現在、倉敷在住。アジアンビーハイブ代表。フリーマガジン『Krash japan』『風と海とジーンズ。』編集長。
ずっと気になる店だった。道沿いにある古い喫茶店で、店名を「和光」という。
どんなところが気になっていたかというと、あまりの目立たなさ加減。
店内が暗いせいで窓はあっても中の様子がまったく見えない。
とはいえ交通量の多い通りの1階にある路面店、しかもまちの中心に近い。
そんな好立地にありながら、同じ児島エリアに長く住んでいる人でも、
「それ、どこよ?」とまったく知らないということがよくあるのだ。
初めて入ったのは3年ほど前。
2005年から始めた倉敷の雑誌『Krash japan』で
喫茶店を特集したときだった(vol.7/2008年9月発行)。
ちょっとした驚きだった。シベリアの山奥で、
そのままの姿で氷づけになったマンモスを見つけてしまったみたいな。
店内は40年かそこら、完全に時間が止まっていたみたいだった。
店の内装も什器もすべて、それこそ
テーブルの上の灰皿ひとつとっても、かなりの時代を感じさせる。
でも、ただ古いというだけじゃ、心はとらえられない。
古道具とかアンティークとか、そんな類に興味ないし。
ぼくが心を動かされたのは、それらひとつひとつが、長年、
丁寧に大切に扱われてきたことがうかがえて、
それによって店に風格と、なんともいえない品のよさが漂っていたことである。
自分のごくごく身近にこんな世界があった、というのも驚きだった。
やっぱり、気になるところは入ってみるもんだな、つくづくそう思った。
以来、和光には今もときどき訪れる。
しばらく顔を出さないと、「最近は忙しいの?」と店主の藤川夫妻が気遣ってくれる。
たしか70歳近いと思うけど、ともにお元気だ。
いつも座るのは窓側のソファ席。外からは見えないけど、
店の中からはレース越しでも外がよく見える。
信号待ちしている車の運転手の顔なんかはっきりと。
店は静かだ。午前中は混んでいるらしいけど(早朝6時から営業!)、
午後は常連さんがぽつぽつ。
コーヒーもおいしくて、ただ窓の外を眺めてゆったりと時間を楽しめる。
コーヒーを飲んだ後は、必ずこぶ茶が運ばれてくる。
これ、ぼくだけへのサービスじゃなくて、すべてのオーダーの後に付いてくるから、
店を出るときのお客さんはすべからくこぶ茶の口になっているというわけだ。
そんなところもかわいくて面白い。長く続いてほしいなと思う。
Information
和光
住所:岡山県倉敷市児島下の町8-1-4
TEL:086-472-5764
営業時間:6:00〜19:00
定休日:日曜休
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