colocal コロカル マガジンハウス Local Network Magazine

連載の一覧 記事の検索・都道府県ごとの一覧
記事のカテゴリー

連載

コーヒーショップを開こう

マチスタ・ラプソディー
vol.001

posted:2012.2.2   from:岡山県岡山市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  東京での編集者生活を経て、倉敷市から世界に発信する
伝説のフリーペーパー『Krash japan』編集長をつとめた赤星 豊が、
ひょんなことから岡山市で喫茶店を営むことに!? 
カフェ「マチスタ・コーヒー」で始まる、あるローカルビジネスのストーリー。

writer's profile

Yutaka Akahoshi

赤星 豊

あかほし・ゆたか●広島県福山市生まれ。現在、倉敷在住。アジアンビーハイブ代表。フリーマガジン『Krash japan』『風と海とジーンズ。』編集長。

編集者から喫茶店のオーナーへ。

家の事情で実家のある岡山県倉敷市に帰った。2005年のことだ。
で、「アジアンビーハイブ」というフィリピンパブみたいな名前の会社を設立し、
『Krash japan(クラッシュジャパン)』というプロレス団体みたいな名前の
フリーマガジンを始めた。
ひたすら工業地帯を写真に撮ったり、定食屋一軒で30ページの特集を組んだり。
自分で言うのもなんだけど一風変わった雑誌で、
英語のテキストを併記して、ロンドンを中心に海外にも配布した。
でも、地元の企業やショップから集めた広告でまかなえるのは印刷費と経費のごくごく一部。
そんな雑誌を年2冊のペースで発行していたものだから、
会社の経営状態は決してよろしくない。
というか最悪で、会社設立当初に信用金庫から借り入れしたお金は1年ももたなかった。
もっともひどかった2007年には、
地元の観光旅館で朝食の配膳と部屋掃除のアルバイトをしながら雑誌を作っていた。
そうやってしぶとく発行を重ね、2010年春にはなんとか当初の予定通りvol.10を発行、
5年にわたる活動に区切りをつけることができたのだった。

会社についてもう少し紹介しておこう。
わがアジアンビーハイブは倉敷市の南端、瀬戸内海に面した児島というまちにある。
仕事は主に広告制作。
先に紹介した『Krash japan』に関連して、
企業の広告やカタログの制作オファーをこなしているうちに、
いつの間にか本業になってしまったというところだ。
社員は今年で在籍3年目になるヒトミちゃん、24歳。
周囲の誰もが認める才色兼備なのだが、なぜか長く彼氏がいない。
最近は「すぐに見つかるから大丈夫よ」的な
ぼくの励ましの言葉も全然届いていない感がある。
アルバイトのサトちゃんは大学3年生、
昨年秋のインターンが心地よかったのか、以来いついてしまった。
そのわりに「うちに来る?」というぼくの誘いを
「わたし東京に行きますから」とむげに断って現在就活中。
当事務所にはサブという雄犬もいる。
昨年の5月までは立派な野犬だったのだが、
事情があって(みんないろいろ事情があるのだ)現在は社のマスコット的存在に。
とはいえ野犬の性癖はなかなか拭えず、クライアントだろうがなんだろうが、
いまもってうちに来るお客さんにはとりあえず牙をむいて吠えまくる。

さて、ここからが本題。
話は2011年の11月の末あたりにさかのぼる。
岡山市中心部の郵便局前の電車通り(岡山にはまちなかに路面電車が走っている)に、
月に2、3回は必ず足を運ぶ喫茶店というかカフェというか、まあそんな場所がある。
通称「街スタ」、正式には「街なか study room」という。
店は厨房を入れて7坪と狭く、まともなテーブル席はひとつしかない。
店主のコイケさんは長年飲食店をやっていて、
4年ほど前に、「美味しいコーヒーを飲ませる店をやりたい」と、
自分のカフェを閉めてこの店を新たに始めた。
言うだけあってコーヒーは実に美味い。
ラッシーやバナナモカシェークといったアレンジドリンク類も秀逸で、
トーストやサンドイッチといった食事メニューも抜群に美味い。
そんな岡山市内で唯一の行きつけの店が閉店すると聞いた。
店主のコイケさん本人から。

「今日不動産屋さんに、2月いっぱいで閉めますと言ったんですよ」
コイケさんは他人事のように、いつもの笑顔でそう言った。
なにやら自分の給料もまともに出ていなかったらしい。
それにしても、いつもながら行きつけの店がなくなるというのは寂しい。
思い浮かぶのは、中目黒ガード下の寿司屋「丸源」、
目黒銀座商店街にあったカレー屋「オレンジツリー」、
近所の美容院のウラくんとよく行った山手通り沿いの定食屋「グリーンウッド」………。

「コイケさん、ぼくがやりましょうか、このお店」
ついつい口に出してしまった。
ぼくは言わないほうが身のためであることを、
ついつい口に出してしまうタイプの男なのである。
「コイケさんにはこれまで通りこの店を切り盛りしてもらって、
うちから給料を支払います。
ぼくの会社で経営するってことなんですけど、そうゆうのどうですか?」
いやあ、そうゆうのは、ちょっとね………という展開も十分にありえたはずだ。
なにせコイケさんは飲食のプロ、しかも還暦も過ぎたいいお歳なのである。
「私、順応性はあるほうです」
コイケさんは笑顔でそう言った。
こうして一晩を境に、ぼくの人生は喫茶店経営という、
これまで想像だにしなかった世界へ足を踏み入れることとなったのだった―――――というか、
うちの会社、本当に大丈夫か?

アジアンビーハイブのオフィス内観。家賃は中目黒の駐車場2台分より安い。
JR児島駅からは歩いて7分、目の前に小さな港もあってロケーションよし。

元野犬のサブ。
飼い始めから週2回、2カ月にわたってトレーナーに来てもらっていたのだが、
最終日までトレーナーに敵意むきだしで吠えまくっていた強者なのである。

これが今後の舞台となるコーヒー屋さん「街なか study room」。
路面店の1階と場所は悪くない。にもかかわらず、このひっそり感。

Shop Information

map

街なか study room

住所 岡山県岡山市北区中山下1-7-1  TEL なし  営業時間 12:00 ~ 23:30

Feature  特集記事&おすすめ記事

Tags  この記事のタグ