連載
posted:2012.2.16 from:和歌山県和歌山市 genre:アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
有名でなくても、心に残る、大切にしたい建物がある。
地域にずっと残していきたい名建築を記録していくローカル建築探訪。
editor's profile
Yu Ebihara
海老原 悠
えびはら・ゆう●エディター/ライター。埼玉県出身。海なし県で生まれ育ったせいか、海を見るとテンションがあがる。「ださいたま」と言われると深く深く傷つくくせに、埼玉を自虐的に語ることが多いのは、埼玉への愛ゆえなのです。
credit
撮影:五十嵐隆裕
和歌山市の中心部を流れる紀ノ川からほど近いところに、
Onomachi α(おのまち あるふぁ)は構えている。
昭和初期の建築としてはオーソドックスなネオ・ルネサンス様式だが、
他と異なるのは近代的な鉄筋コンクリート造りであるということだ。
外装は、1階が御影石(みかげいし)の化粧張りで、2階から上は茶色いタイル張り。
その切り替えがモダンな印象を与える。
3階建てだが、それぞれのフロアの天井が高い造りになっているため、
外から臨むと実際の階数より高く見える。
少し建物の歴史をひもといていく。
Onomachi αが入っている西本ビルは、1927年(昭和2年)に建てられた。
西本組(現・三井住友建設)という建築会社の本社オフィスとして使用されてきたが、
1945年7月9日の和歌山大空襲によって西本ビルのある小野町周辺はほとんどの建物が焼失。
鉄筋コンクリートづくりの西本ビルだけが残った。
以後、和歌山市の復興と成長を見守ってきた西本ビルは、
1990年代に本社ビルとしての機能を終え、
いくつかの会社の事務所として使用されたのち、
カフェやショップが入った「小野町デパート」という名で再出発。
2000年には、国の登録有形文化財として登録された。
現在のテナントは、1階はショップ&ギャラリー「ka-boku」、
2階はカフェ「茶室ゑびす」、3階はレンタルギャラリー「2410“α”」となっており、
和歌山市内外への文化発信地として注目されている。
Onomachi αのオーナー別所葉子さんはこの建物との出合いを、
「呼ばれてきた」と表現する。
「学生時代に京都で、おてんばKIKI(現・ゴスペル)という
銀閣寺近くにある古い洋館風につくられたアンティークショップとカフェで、
アルバイトをしていました。
数年前にこの建物が載っている新聞記事を読んだときに、
そのおてんばKIKIでのことや、自分がやりたかったことが、
わいてくるように思い出されたのです。
まだ、建物の現物もみていないのに、ここにいなければいけない気がして、
次の日には扉を開けていました。
そのうちに魅了され、ここにお店を持ち、今やこの場所が日常になっています」
だから、強く影響を受けたおてんばKIKIにならって、
ギャラリーとカフェという形態にしたのだと言う。
2011年夏には「小野町デパート」から「Onomachi α」と名を変えたが、
建物の外観と骨格は現代に受け継ぎ、
荘厳な姿はそのままに、静かに住宅街の中に佇んでいる。
登録有形文化財でもある古い建築物の西本ビルを
ギャラリーやカフェとして利用していくことに関して別所さんは、
「不安はあります。
ですが、文化財だからと言って保存するだけでは、どんどん朽ちるしかないのです。
人間が年を重ねていく中で、何か昨日とは違うプラスのことをしなければ、
どんどん老け込んでしまうように、建物にも人間が日々息を吹き込むことが大切なのです」
と語る。
そうした別所さんの想いは、Onomachi αのギャラリーやカフェで知ることができる。
例えば定期的に開催される、本の朗読会や、お菓子教室は、
Onomachi αならではの特別な体験となるだろう。
「昨日とは違うプラスのこと」を求めてここへ立ち寄るのもいいかもしれない。
Onomachi αのαとは、「はじまり」を意味している。
「“こんなの見たことないわ”“やったことないわ”“和歌山にこんなところあったなんて知らへんわ”
という、みんなのはじめての体験をここで実現したいですね」
【2014年1月移転】Onomachi α
おのまち あるふぁ
住所 和歌山県和歌山市小野町3-43 西本ビル
TEL 073-425-1087
営業時間
ギャラリー「ka-boku」 11:00 ~ 18:00
カフェ「茶室ゑびす」 12:00 〜 19:00 (ラストオーダー18:00)
定休日 水曜
http://onomachi.jp/
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