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posted:2025.1.31 from:岐阜県岐阜市 genre:食・グルメ
〈 コロカルニュース&この企画は… 〉
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writer profile
Naomi Kuroda
黒田 直美
くろだ・なおみ●愛知県生まれ。東京で長年、編集ライターの仕事をしていたが、親の介護を機に愛知県へUターン。現在は東海圏を中心とした伝統工芸や食文化など、地方ならではの取り組みを取材している。食べること、つくることが好きで、現在は陶芸にもはまっている。
全国の書店数が減少の一途をたどり、各地でまちから本屋が消えていくなかで、
本と出合う場所を残そうと頑張っている岐阜県岐阜市のブックカフェ
〈フィールド〉を訪ねました。
2024年に40周年を迎えた〈フィールド〉は、絵本や昔話に出てきそうな
小さな古民家で営業しているブックカフェです。
引き戸を開けると、大きな一枚板のテーブルやアンティークのいす、
ぎっしりと本の並べられた木製の本棚と、懐かしい雰囲気に包まれています。
その奥からは、やさしそうな店主の太田耕司(おおたこうじ)さん、
千栄子(ちえこ)さん夫妻がにっこりと顔を出してくれました。
店主の太田耕司さんと千栄子さん。
太田さんは、東京の大学を卒業後、サラリーマンとして働いていましたが、
無類の本好きだったため、38歳のときに両親の自宅の一部を改築し、
食事のできる貸本屋業をスタートしました。
ブックカフェという言葉がまだなかった時代です。
現在は移転してしまった岐阜大学医学部が近くにあったことから、
学生たちが出入りする食堂兼貸本屋として賑わっていたそうです。
創業時からある本棚には、文化芸術関係の本がぎっしり。
しかし、著作権法などが厳しくなって貸本業として続けることが難しくなり、
食事をしながら本の読めるブックカフェへと業態を変えていきました。
5000冊を超える本の所蔵と、お母さまがつくる定食が人気で、
なんとかここまで続けてこられたと太田さんは語ります。
お客さんの会話のなかから、好きな本や音楽、DVDなどを提案するという太田さん。
「東京と違って、地方は文化的な刺激が少ない。
映画や音楽も好きだったので、芸術新潮を毎号購入したり、
早川ミステリーを集めたり、店内音楽もクラシックをかけて、
お客さんの好みに合わせてDVDを流すなど、ここに来たらおもしろい文化に
触れられるというムードをつくりました」と太田さん。
岐阜県郡上八幡町出身の音楽ライター、
毛利眞人(もうりまさと)さんによるSPレコード鑑賞会や、
同じく岐阜県大垣市出身で詩人の山田賢二(やまだけんじ)さんの勉強会を開くなど、
先駆的な文化イベントも開催してきました。
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昨年、亡くなられたお母さまがつくり続けた定番メニューを
千栄子さんが受け継ぎ、食堂を切り盛りしています。
素朴な家庭の味が楽しめると常連客も多く、
リーズナブルな値段でランチはいつも満席に。
「最初は日替わりランチだけだったのですが、お客さんの要望で、
メニューがどんどん増えて、今では20種類近い定食を出しています。
夜も9時までやっているので、仕事帰りに夕食を食べに来てくれる人や、
吞んだあとにふらりとコーヒーを飲みに来てくれる人がいます」と太田さん。
アンティークのランプや家具にもこだわりが感じられます。
主宰者も個性的な大人のための読書会なども開催
岐阜新聞社を退職後、近くで広告代理店を経営している
近松敏己(ちかまつとしみ)さんも常連客のひとり。
大学時代、創作児童文学のサークル〈少年文学会〉(前身は小川未明、坪田譲治らを
顧問に設立された早大童話会)での活動経験を生かし、
大人のための児童文学の読書会を開催しています。
卒論のテーマでもあった愛知県出身の新美南吉を取り上げ、
奥深いテーマについて読み解きをしているのだとか。
「本を通して語り合う場があるというのは、そのまちの文化度を高めると思っています。
ネット社会が進み、新聞も本もデジタル化されていくけれど、テーブルの上に新聞や
本がある生活というのは、やはり豊かさの象徴だと思っています」と近松さんは語ります。
この日取り上げたのは、新美南吉作『おじいさんのランプ』。
1941(昭和16)年に、血尿が出て、患っていた結核が進行し、
死期が迫っていることを覚悟してから書き始めた作品です。
新美南吉は、この本を執筆後、29歳という若さで亡くなりました。
「児童文学ですが、大人が読むべき物語でもあると思います。
時代の転換点を描いた作品でもあり、ランプ売りが時代の流れで、
電気へと移っていくなかで感じる悲哀など、
この本はさまざまなメッセージを与えてくれています」と近松さん。
本の装丁や挿絵を描いているのは板画家の棟方志功で、
この本を〈フィールド〉で読むとさらに味わい深い思いに。
太田さんも民藝に大きく影響を受けたひとりだそうです。
本との出合いは、読むタイミングや場所、そして薦めてくれる人など、
さまざまなつながりでさらに深い気づきへとつながっていきます。
時代が変わっても、変わらない雰囲気を残す〈フィールド〉で、
懐かしい本と出合ってみてはいかがでしょうか。
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