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和歌山の料理人・石井佳奈氏が描く、
農が食になるまでを伝える本
『ワンダフル・アグリカルチャー』

コロカルニュース

posted:2024.7.2   from:和歌山県和歌山市  genre:暮らしと移住

〈 コロカルニュース&この企画は… 〉  全国各地の時事ネタから面白情報まで。
コロカルならではの切り口でお届けする速報ニュースです。

writer profile

Riho Nakamori

中森りほ

なかもり・りほ●東京生まれ東京在住のフリーライター/編集者。仕事やプライベートで月に1回以上、地方や海外へ。各地のおいしい食べ物やお酒、素敵なホテルや旅館を発掘するのが趣味。好きな番組は『ブラタモリ』『六角精児の呑み鉄本線・日本旅』。

農家の代わりに農業の面白さと、生産の現場のリアルな話を伝えたい

滋賀県に生まれ、「生産者の近くで料理がしたい」という想いで2018年に和歌山に移住し、
2020年にケータリング専門〈ozzkitchen〉を岩橋(イワセ)地区に開業した石井佳奈さん。
農家から直接仕入れるオーガニック野菜を中心とした
“身体が喜ぶお料理“を提供しています。

ローカル食品店〈フードセンターイワセ〉

生産者とのつながりを生かして
「一般の方も地元のオーガニック野菜を気軽に買えるお店をつくろう」と
2022年にはローカル食品店〈フードセンターイワセ〉を開店。
そして今回「日々の畑仕事が忙しい農家さんの代わりに、農業の面白さと、
生産の現場のリアルな話を伝えたい」という想いから、新たに本の出版を予定しています。

農家の方は、作物をつくることで消費者の食を支え、私たちの身体をつくっています。
さらに地域の伝統や風習を受け継ぎ守っていくことで、
その土地の景観を保つことまでもが仕事です。
自然が相手の農業は、同じ作業をしていても、毎年同じようにはいかないことばかり。
そのため農家の方は日々研究と努力を重ね、おいしい作物をつくる工夫を惜しみません。
農家の方々が集まると、自分の畑をアップデートするため、情報を交換し、
いつまでも農業の話がつきません。
しかし、一般家庭までその努力が伝わっているかというと、そうではない。

ケータリング専門〈ozzkitchen〉

当たり前のように、年中おいしい野菜が手軽に手に取れる時代。
スーパーで野菜が「商品」になったとき、誰もその農家の方の努力や、
店頭に並ぶまでの苦労や工夫、喜びなどは伝えていません。

その上、市場の需要と供給のバランスによって末端価格は激しく変動し、
数十円の値上がりでも野菜は高いと文句を言われることもあります。

農家から直接仕入れるオーガニック野菜を中心とした“身体が喜ぶお料理“

「私たち消費者はもっと自分たちが食べるものがどうやってできているのか、
誰のおかげで毎日おいしい野菜が食べられるのかを知るべきだ」と石井さんは考えました。

農家の方は日々の畑仕事が忙しく、発信する時間が取れない。
消費者も仕事や家事に忙しく、畑に話を聞きに行けない。
「それなら、代わりに農業の面白さと、生産の現場のリアルな話を伝えたい」と
石井さんは本の出版を決意しました。

Page 2

「農ある暮らしのアルバム」をイメージした12章から成る新刊

石井佳奈さんと農家さん

新刊『ワンダフル・アグリカルチャー!』は、
農業と切り離せない季節のめぐりに対応した12章から成ります。
第1章「四月」からはじまり、春夏秋冬を一周した第12章「三月」が最終章です。
各章は、その月にちなんだ石井さんの人生と食をめぐるエッセイ、
和歌山のこだわり農家と野菜の紹介、そしてその野菜をつかったオリジナルレシピを
収録した、三層構成になっています。
いろいろな角度から農ある暮らしを掘り下げる「農ある暮らしのアルバム」を
イメージしています。

いろいろな角度から農ある暮らしを掘り下げる「農ある暮らしのアルバム」イメージ

エッセイに加えて、食材やつくり手の写真、そしてレシピを本の中に盛り込む。
そうすることで、ただ農ある暮らしを知るだけでなく、
読者が地元の食材を使った料理をつくりたくなるような本を目指しています 。

また、収録されたレシピは日々の生活の中で手軽にできて、
旬の食材の味を楽しむことのできる料理、
紹介した農家の方の野菜を使ったオリジナルのレシピです。

和歌山の個性的な12組の農家が登場

石井佳奈さんと農家さん

『ワンダフル・アグリカルチャー』には、優しく個性的で素敵な
12組の農家の方が登場します。
育てているものは、ピーマンやタマネギ、ケールなどの少しめずらしい野菜、
そしてイチゴやミカンなどの果物までいろいろ。
年齢も30代から50代と幅広く、夫婦、親子、法人とさまざまです。
共通しているのは、野菜・果物へのこだわりと愛情。
日々野菜と向き合いながら、おいしさと土壌の微生物や肥料との関係などを
深く考えながら、育てられています。

取材の中で石井さんが驚いたのは、農家の方の道具や土地への愛着。
倉庫を覗いたり、一緒に農地を歩いたりするたびに、その土地のなりたちや
住んでいる人たちの歴史、大切に使い続けてきた道具や機械のお話を
石井さんは聞きました。

収穫したにんじん

「食の背景を知りたい、農業のリアルを伝えたい」と思って石井さんが始めた取材の旅は、
いつのまにか土地やいろいろな道具、それをつくる人たちの話へと広がっていったそう。

取材を通じ「農の営みは、土地の環境を守り続ける営みでもある」と感じた石井さん。
農家の方々は、ただ野菜をつくるだけではなく、その土地を守り、耕し続けています。
だから、農業に携わる人がいなくなるということは、
ただ、食料自給率が下がるというだけのことではありません。

石井佳奈さん

食と地域の風景をつくる農業の営みに目を向け、農ある暮らしに触れる。
今日食べたものがもっとおいしくなり、何気ない景色を見る目が変わる。
そんなきっかけになるような本です。
取材で石井さんが感じた、農や食を支える豊かな背景の感触を伝えたいという想いが、
この本の根底に流れています。

現在、原稿の最終チェックと書籍のデザイン作業が進行中。
出版は2024年10月を予定で、8月30日までの期間、本の製作に必要な取材費、
撮影費、印刷費、デザイン費、送料などを募るクラウドファンディングが
〈MOTION GALLERY〉にて実施されています。

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