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連載

共感で生まれる、
つくる人と食べる人の
「友だちづくり」 東北開墾 前編

貝印 × colocal
「つくる」Journal!
vol.032|Page 1

posted:2015.12.22  from:岩手県  genre:食・グルメ / 活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  歴史と伝統のあるものづくり企業こそ、革新=イノベーションが必要な時代。
日本各地で行われている「ものづくり」もそうした変革期を迎えています。
そこで、今シーズンのテーマは、さまざまなイノベーションと出合い、コラボを追求する「つくる」Journal!
ものづくり・しくみづくり・ひとづくり・食づくり、場づくりetc、
貝印 × コロカル × earthradioチームが、フレキシブルにテーマを取り上げていきます。

writer's profile

Tomohiro Okusa
大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

photographer

Suzu(Fresco)

スズ●フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。
http://fresco-style.com/blog//

食べ物から関係へ。マーケットからコミュニティへ

『東北食べる通信』から始まり、今や全国に26誌(発行中20誌)を数える
『食べる通信』のネットワーク(2015年12月現在)。
生産者などから通信販売で食材が届くサービスは増えている。
『食べる通信』も同じように、毎月食材が届くサービスだ。
しかしメインは食材ではなく、冊子である。誤解を恐れずに言えば、食材は付録。
おいしい食材を届けることだけが目的ではなく、その背景を伝えることが主な目的なのだ。
2013年7月に始まったこの取り組み。
『東北食べる通信』は〈NPO法人 東北開墾〉が発行、
そしてそれを全国に展開しているのが〈一般社団法人 日本食べる通信リーグ〉。
ともに代表理事を務める高橋博之さんに、始まりの思いを聞いた。

〈東北開墾〉および〈日本食べる通信リーグ〉の代表理事・高橋博之さん。

「東日本大震災が起こったあとに、多くの日本人が気づいたこと。
それが早くも風化して“なかったこと”になりそうだったので、
日本の社会を土から変えていこうと思い、〈東北開墾〉を立ち上げました」

この東北開墾のなかで、さまざまな取り組みを行っているが、
大きな事業となるのが『東北食べる通信』となる。
高橋さんは、まず経済成長一辺倒のやり方に疑問を呈する。

「政界では、農業で海外進出などと攻めの農業を推進しようとしていますが、
それだけが答えでしょうか?
地方を回っていると、そうではない答えを求めている人にたくさん出会います。
今のままの経済成長では、その先には未来がないことを、
みんななんとなく気がついているんです。
特に地方では、高齢化・過疎化が問題ですよね。
そうなると何が問題になるか?と問うと、ほとんどの答えは経済の話。
でも考えてみてください。経済成長ばかり追い求めた結果、高齢化・過疎化したんです。
生産性の高いものは都会に出ていき、
生産性の低い、命を相手にしている一次産業が地方に残っているんです」

しかしこれは考え方によっては大転換ともいえる。
成長ではないところに価値を見出すということは、
私たち近現代社会には経験がないことだから。だから不安を感じるのは当たり前。

「批判をするのは誰でもできるので、その答えをみんなで考えていきたいんです」

『食べる通信』やほかの東北開墾のプロジェクトもすべて
人とつながり、考えをつなげていくものばかりだ。

「“失われた20年”なんて言われますが、日本は消費が飽和した社会です。
もう物が売れる余白が残っていません。
だから伊勢丹やビームスなどさまざまなところが、
“コミュニティを売る”と公言し始めましたよね。
そうしたなかで、安いから買うのではなく、物の成り立ちを理解し、
ストーリーに共感して、地域、つくり手、社会が良くなることに
貨幣で参加したいという人たちも増えてきました。
このような消費者に希望を持っています」

このような指向の消費者を、生産者と結びつけることが『食べる通信』の役割だ。
今は消費者と生産者がすごく離れてしまった。なぜだろう。

「例えば、産地が自然災害で困ったり、お米の暴落のニュースを聞くと、
そのときは心配に思うけど、翌日には忘れてしまいます。
なぜなら困っている生産者の顔が思い浮かばないから。
農家や漁師の親戚もいないし、友だちもいない。だからジブンゴト化できないんです」

こうした日本の課題のもと、『食べる通信』のキーワードは共感と参加。
それを生み出す仕掛けになっている。
おいしい食材を食べる。味、見た目、値段という価値判断は、すべて消費者側の意見だ。
生産者の人柄、現場、哲学、地域などの魅力は、まったく伝わっていない。

「消費者は共感しないと参加しません。だから友だちになればいいと。
つまり『食べる通信』は、友だちづくりサービスなんです。
『食べる通信』に書いてある生産者の話を読んでから食べると、
理屈抜きにおいしくなりますよ。
舌でしか食べていなかった消費者が、頭でも食べ始めるんです」

こうして共感が生まれてからが、『食べる通信』のおもしろいところ。
通常の通販サービスは、生産者と消費者が直接的につながることはない。
そこに通販業者の存在意義があるのだから、ビジネスの観点で考えれば当たり前のことだ。
しかし『食べる通信』では、フェイスブックグループで直接的につないでしまった。
すると消費者(読者)から生産者に対して、
「ごちそうさま」「おいしかったです」などのコミュニケーションが自然に生まれる。

「生産者もふだんは少人数や家族経営しているところが多いので、
ネット上とはいえ、このような言葉を直接かけられると報われます。
“農家をやってきてよかった”
“顔が見えるこの人たちのためにもっとうまいものをつくろう”と、
意欲向上につながるのです」

火鉢を前に熱く語り出す高橋さん。

また、『食べる通信』をパスポートのようにして、生産者を訪れる読者も増えているという。
作業を手伝い、お酒を呑む。すると友だちになる。
友だちになると、東京などの都市で周囲にクチコミで宣伝する。
さらには読者の職業も多様なので、
それぞれの専門職の立場から(営業、マーケティング、デザインなど)、
愛のあるアドバイスを送るケースも生まれる。

「食べ物とお金という交換可能な関係から、
つくる人と食べる人という交換不可能な関係に変えたい。
売るものを“食べ物”から“関係”に変える。
売る場所を“マーケット”から“コミュニティ”に変える。
プレイヤーも、生産者だけではなく消費者も加わること。これが目標です」

このようなかたちで読者に届く。(写真提供:東北食べる通信)

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