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私が東京に後ろ髪を引かれていたもうひとつの理由は、
実家にいる母のことでした。
高齢の母と、あとどれくらい過ごすことができるのだろうか。
同居している姉にばかり
母のことを任せてしまっていていいのだろうか。
そうした思いがつのるたびに、
東京に戻った方がよいのではないかと心が揺れていたのです。
その母が今年の夏に骨折をし、
それをきっかけに施設に入所することになりました。
そんなことになるなんて、
今までまったく想像できていませんでした。
想像力にかけていたのです。
一緒に住むという選択肢は、ある日を境に突然なくなりました。
あのとき東京に戻っていたら……、
と思うこともやはりあるのですが、
ありがたいことにまだ母は元気でいます。
基本的には施設で生活するのですが、
月に数回は東京の自宅で過ごすことになりました。
その日は私も東京に通って、母と一緒に過ごします。
娘の変化や母のこともあり、
東京に戻ったほうがよいのでは? という迷いがなくなりました。
そして最近、下田で暮らすことの素晴らしさを改めて感じています。
たとえば匂い。
3、4年前のことになりますが、
撮影でご一緒した料理家の先生がこんなことを話してくれました。
「下田に移住したことは娘さんにとって絶対にいいことだよ。
東京では感じられないことをたくさん感じられる。
匂いだって都会とは全然違うでしょ」と。
その当時は下田の匂い? と、あまりピンときていなかったのですが、
最近は先生の言葉がとてもよく理解できます。
娘に、東京と下田って匂いが違う? と聞いたことがあります。
東京は何かわからない匂いが混じっているそうで、
下田は海と山のいい匂いだそう。
朝、玄関をパッと開けて外に出ると思わず
「いい匂い〜」と言葉がもれます。
そうして深呼吸、土の匂い、海の匂い、植物の強い匂いが
身体に染みていくのです。
私にエールを送ってくれた料理家の先生は、
その数年後に長野の森の中に第2の拠点を構えました。
海の匂いをかぎながら、時折、先生の言葉を思い出します。
そしてもうひとつ、下田って本当にいいよ〜と思うこと。
度々この連載でもお伝えしていますが、
本当にいろんな方が畑に呼んでくれてお野菜をくださるのです。
私はいま48歳になるのですが、
正直なところ体も心も不調になるときがあります。
浄化したい、軽くなりたいというとき、
東京に住んでいた頃は友人と飲みに行ったり
健康ランドに行ったりしていました。
下田でも温泉に出かけたり飲みに行ったりもちろんするのですが、
それに加え、知り合いの畑にふらりと寄らせてもらうのです。
笑顔で出迎えてもらい、ピカピカのお野菜を一緒に収穫して
なんてことない話のやりとりをすると、
そのうちにすっと軽くなります。
私も夫も今年で48歳、もうすぐ50歳です。
下田の知り合いのご夫婦のように、
友人たちと田んぼや畑でお茶をしたりして楽しむ。
いつかはそんな暮らし方もいいな〜と思ったりもします。
自分がこれからの人生で何をしたいのか、
どんなことが心地よくて、何を優先したいのか。
じっくり考えよう思います。