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二足、三足のわらじを履く
「らんぷはうすのお母さん」に
下田の民謡舞踊を習う|Page 4

暮らしを考える旅 わが家の移住について
vol.022

Page 4

地域にまつわる民謡舞踊を習う

その数日後、妻と娘も下田にやってきて3人で暮らし始めました。
いよいよ下田暮らしの始まりです。
そして、ふたりをお母さんに会わせたいとらんぷはうすへ。

さっそく、お母さんと打ち解ける妻。
暮らし始めて1週間も経っていない頃のことでした。
右も左もわからないこのまちに居場所ができたようで
ほっとしたのをよく覚えています。

そして、娘と初めて対面したお母さんから意外なひと言が。
「この娘、踊りやらせたら映えるよ! 
着物も貸してあげるし踊りも教えてあげる!」
と、お母さんがやっている民謡舞踊教室にお誘いいただきました。

民謡舞踊は各地に伝わる民謡で躍る民俗的、土着的な踊りで、
阿波踊りなどの盆踊りも民謡舞踊のひとつになるようです。
この地に暮らし始めた娘にとっても
土地に馴染むいいきっかけになりそうです。

また、下田に落ち着いたら娘には何か習い事をさせたいと考えていました。
暮らし始めて1週間も経たずにこんなお誘いをいただくことに
驚きもありますが、ただならぬ縁を感じます。
着物や踊りを通して日本の文化に触れるのもとても良いことに思います。

といっても大事なのは娘の気持ち。

着物を着られるということに惹かれたということもありそうですが
「踊り習ってみたい!」と興味津々。
11月に発表会があるそうで、それまでに簡単な曲を
2曲踊れるようになればよいとのことで、そこまで負担もなさそうです。

ということでお母さんのお誘いをお受けすることにしました。

こんな不思議な流れで習い事が始まりました。
流れ流れてこの地にやってきたわが家っぽいといえばそんな気もします。

お稽古はお辞儀から始まります。所作や畳の縁を踏まないといった礼儀作法も仕込んでもらっています。

熱心に娘に稽古をするお母さん。娘を見るまなざしがなんとも温かいのです。

そして、諸事情により秋の発表会では僕も踊ることになりました……。
その昔、高円寺に住んでいた頃は、酔っぱらって
ノリと勢いだけの適当な阿波踊りを踊っていましたが、
ちゃんと踊りを習ったことはありません。

娘に日本文化に触れてほしいというわりには
自分自身その方向にはまったく明るくなく、
ならばちょうどよい機会だと受けることにしたのです。

僕と娘が踊るのは伊豆半島のつけ根、三島発祥の民謡「ノーエ(農兵)節」。
鍬で土を耕す動きなども盛り込まれている農民の踊り。
最近、畑の土も耕せていないのに
まさか「エアー耕し」をすることになるとは思いもしませんでしたが、
娘に恥をかかせないためにもちゃんと練習しないとです……。

下田に暮らし始めたら釣りやサーフィンに挑戦してみたいと思っていましたが、まさか民謡を踊ることになるとは……。人生何があるかわからんもんです。だから楽しいのですが。こうなったら楽しむしかない!

発表会は11月。下田の公民館で行われます。
ノーエ節は数人の地域のおばさまたちと
先生と僕と娘という不思議なメンツで踊ります。
娘はもう1曲、「雨降りお月さん」という童謡を
ひとりで躍ることになっています。

お母さんが踊りの先生となったいまでも、
たまにごはんを食べにらんぷはうすに行きます。
下田での僕の大切な居場所のひとつです。

いつものチャーミングな笑顔と愛情たっぷりのごはん。

いつ行っても地元の人やら観光のお客さんで賑わっていて
お母さんは忙しそう。

ある日、お母さんに聞きました。
「お母さんの元気はどこからやってくるのですか?」と。
「だって夢があるもの。下田が元気だった頃の賑わいを取り戻したいからね」

お母さんがらんぷはうすを始めた頃は、下田のまちは
人であふれていてそれは賑やかだったそうなのです。
時代の流れもあり、いまではそこまでの賑わいはありません。

「夜遅くまでカランコロンと下駄を鳴らして歩いてる
観光のお客さんがいてね。懐かしいなあ」
お母さん、昔を思い出してなんだか楽しそうです。

そんなお母さんの暮らしは、朝6時からお店を開けるため
3時半に起きてお店の準備開始、そして予約が入ると
夜、カラオケスナックの営業もしています。

「地元の商店の人たちの楽しみだからね」

いくら賑わいを取り戻したいといってもお母さん元気すぎです……。
「人と話をするのが好きだから楽しいんだよ。会話は人生の楽しみだよ」

民謡舞踊のお稽古はらんぷはうすの営業後に。
秋の発表会では自らも踊り、唄います。
そして、最近、お休みしていたボランティアの観光ガイドも
またやりたいそうです。
「みんなに下田の良さを知ってもらいたいからね。
ボランティア精神ってやつだよ。楽しいよ」とニコっと笑うのです。

お母さんの元気の源は「楽しむ」な気がしました。

この秋で下田で暮らし始めて半年になります。
仕事のペースも少しだけつかめてきました。
仕事以外にも地区の祭りや荒れてしまった竹林の整備のお手伝いなど、
できる範囲で関わっています。
公民館で娘と父で民謡を踊るという想定外のイベントもあったりと
盛りだくさんのこの秋。

仕事と地域のこと。もちろん日々の暮らし。
お母さんを見習い、とにかく「楽しむ」でいこうと思います。

information

map

らんぷはうす

住所:静岡県下田市2-8-3

TEL:0558-22-2266

営業時間:6:00~14:00(12月~3月 7:00~)

*夜は前日までに要予約

定休日:不定休

駐車場:2台

文 津留崎鎮生