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100年続く暮らし方。
おばあの食卓を伝える
沖縄・大宜味村〈笑味の店〉|Page 5

美味しいアルバム
vol.021

Page 5

翌朝。

ボールと包丁を片手に畑へと向かう笑子さん。
やはり足取りが軽く、そして早い。
置いていかれないよう、小走りでその後を追う。

「これも食べれるんだよ」

笑子さんが指差したのは、壁にみっしりと生い茂った葉っぱ。
これが食べ物? 
雲南百薬といい、「百薬」とつくほど栄養価の高い野菜とのこと。
東京でよく見かけるツタによく似ているけれど、食べられる。
そして、その食べ物が無造作にぶら下がっている。
東京育ちの私には、どうも不思議な感覚だった。

「これがハンダマ、こっちがローゼル、ここにパパイヤもあるでしょ。
お店で使う野菜はここの畑か、近所のおばあがつくったもの」

笑子さんの畑では農薬や化学肥料を使わず、
糠を利用するなどの工夫をしながら作物を育てている。
その作物たちが、いたるところで瑞々しい葉っぱを広げている。
土と水、緑の匂いを嗅ぐとやはり心が落ち着く。

笑子さんが、シークワーサーを手渡してくれた。

「ひと仕事終えたら、パラソルの下でシークワーサーを食べるの。
季節ごとにいろんな果物が実ってさ、そこに鳥が止まったりしてさ、
畑って動きがあるでしょ、楽しくさせてくれる要素が
たくさんあるんだよね」

色とりどりの野菜をボウルいっぱいに抱えて、
笑子さんはやわらかく微笑んだ。

「無理して高収入得なくても半分くらいにしてさ、
地方で何もかも自分で工夫して育ててさ。そういう生活したほうがいいよ。
やってみたらわかると思うから、土を身近に感じる暮らしの良さがね」

笑子さんの晴れやかな表情を見ていたら、
自分のなかにある曇りがすっと消えていくのを感じた。

「自分の前で生きたらいいさ」

笑子さんの表情は、どこまでも晴れていた。

むかし、むかし、野菜は買うものではありませんでした。
広くなくとも土があれば、畑に。
炊事のたびに収穫しては、みずみずしい味覚を食卓にのせました。
小さな畑に、台所の神様に、手を合わせました。
それを今も当たり前に続けているおばぁたちがいます。

(中略)

老いてもなお、すこやかに自分の暮らしを立てている
おばぁたちの食卓に、台所に、畑に、100年近くを生きてきた人の言葉に、
今の時代にとっての光のようなものが散りばめられていると思うのです。

『百年の食卓』より

(了)

information

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笑味の店

住所:沖縄県国頭郡大宜味村字大兼久61

TEL:0980-44-3220

営業時間:9:00~17:00(食事は11:30~16:00LO)

定休日:火・水・木

Webサイト:www.eminomise.com

*おまかせランチ・軽食以外は、前日までに予約をお願いします。