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100年続く暮らし方。
おばあの食卓を伝える
沖縄・大宜味村〈笑味の店〉|Page 4

美味しいアルバム
vol.021

Page 4

笑子「じゃ、ここ座りましょうか」

はい。

心地いい風が通るテラスで、ゆっくりとお話をうかがった。笑子さんがこの『百年の食卓』に携わったのには、伝えたい大切な思いがあった。

「本来、生活の始まりって土からですよね」
というのは?

「土がなければ植物が育たないし、育たなければ食べられないですよね。
もともとは、食べものって自分たちで育てて、
自然の恵みをいただくっていうのが基本だったわけでしょ」

はい、たしかに。

「そういう、当たり前の暮らしがいまはなくなりつつあるんですよね」

はい、私もそのひとりだと思います。

「でも、ここ大宜味村のおばあたちは、
それをいまも当たり前に続けているんですよ。
朝夕は必ず畑に出て植物を育ててるんですよ、食べるものは
自分で育てるのが当たり前。100歳のおばあでもそうして生活している」

100歳のおばあがですか!? 
胸がどきっとした。
お金を出して何でも手に入れているいまの自分の暮らし方を振り返っていた。

「驚いてしまうんだけどさ、果物を種から育てると、
実がなるまで9年かかるのね。95歳のおじいが、
その種をまいて苗を育てようってするんだから、
これってすごいよね」

想像したら頭の中がねじれ、すぐに理解することができなかった。

「常に自分の年齢忘れてさ、好きな作物を育ててるんだよね」

作物を育てることが楽しみであり、生き甲斐であり、
それがお年寄りの長寿を後押ししているのだと笑子さんは話す。

時折、自分が晩年をどう充実して生きていけるのか、
そんなことを考えたりする。
その答えが、少し見えたような気がした。

このお店を開店したのも、そうした思いからだったのだそう。

「ここはさ、山があってすぐ川と海があってさ、
みんな自分の前で生きてるのよ」

笑子さんがおばあたちと触れ合うなかで、土や海とともにある暮らし方、
生きる知恵というのがいかに大切なものか気づいたという。
そうしたおばあたちの暮らし方や生き方を伝え残していきたい、
そういう思いが次第に募っていったのだそう。
自分ができることはなにか、そう考えたときに、
お店を構えてそこから発信することに行き着いた。
そうして、いまから27年前に笑味の店を開店させた。

笑子さんも畑が好きで、一日中でも畑で遊んでいたいのだという。

「もう畑に行きたくて心が騒いでしまうわけ。
ハイビスカスが咲いていて、パパイヤが黄色く実っていてさ」

そう言って、目を輝かせる。
笑子さんの畑は、どこにあるんですか?

「すぐそこの山のとこ」

連れて行っていただこうとお願いをしたものの、
もう外は日が暮れ始めていた。
そうして、翌日また出直すことになった。