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『伊豆下田100景』での撮影仕事は
名物お菓子屋さんめぐり。
2足のわらじをはく働き方は
少しずつ前進中|Page 5

暮らしを考える旅 わが家の移住について
vol.027

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通り過ぎていたお店の思いに触れる

取材したお店のなかに、〈金栄堂〉さんという和菓子屋さんがあります。
私たちが駅方面に行くときに通る道沿いにあり、
「こんなところに和菓子屋さんがあるんだね~」
と気になりながらも毎回通り過ぎていたお店。
取材を機にそのお店に一歩入ってみたら、
まったく知らない光景が広がっていました。

使い込まれた道具に囲まれ、黙々とあんこを包むおふたり。「ふたりで全部手づくりしてるからね、あんまりたくさんはできないんだよね」とご主人。

取材当日。

「どうぞこちらに」と奥様が案内してくれたのは、
店の裏手にある作業場でした。
「おはようございます、わざわざすみませんね~」
と、ご主人がにこやかに出迎えてくれました。

ふと横を見るとそこには大きい釜が鎮座していて、
蒸気がむんむんと上がっています。
「よし」というかけ声とともに、きれいに整列したお饅頭が蒸気の中へ。
「シュッシュッ」という音を聞きながら数分すると、
ふんわりツヤツヤとしたお饅頭がお目見えしました。

「これ、食べていいよ」とご主人が声をかけてくれたので、
お言葉に甘えてひとついただくことに。
できたて蒸したてのお饅頭を「あつっあつっ」とひと口かじると、
ふわ~っと甘い香りの漂う皮から、
とろーりと温かいあんこが流れ出してきます。
「これ、これ、すごい! こんなおいしいお饅頭食べたの初めてです!」
と興奮する私を見て、ご主人と奥様がうれしそうに笑ってくれました。

金栄堂さんが創業したのは大正7年、いまのご主人で3代目なのだそう。
あんこのつくり方やお菓子の型など、先代から受け継がれてきたものを
いまでも大切に守り続けています。
ご夫婦がお饅頭を丁寧に手づくりしていることや、大切にしている思い。
そうしたことをいままでまったく知らずに、
ただお店の前を通り過ぎていました。
今回の取材を機会に、知らなかった下田にまた触れることができたのです。

金栄堂さんが初代から大切に受け継いできた型や焼き印。使い込まれたその風情は下田の歴史を彷彿とさせます。

取材させていただいたどのお店にもつくり手の思いや歴史があり、
そうした方々と出会えたこの取材は、私にとって最高の経験となりました。

下田というまちには、何代にもわたり守り続けられてきた
老舗のお店がまだまだあります。
お菓子屋さんのほかにも、昔ながらの製法で天日に干している干物屋さんや、
いまでは珍しくなった麹屋さんも1軒だけあります。
下田には、そうした宝がまだ残っているのです。

『伊豆下田100景』の取材を通して、
下田というまちをもっと知りたくなりました。
掘れば掘るほど宝が見つかる下田に、どんどん惹かれています。

シャルマン伊豆のご主人と42年間連れ添ってきた大事なオーブン。ご主人のこの笑顔にまた会いたくなってしまう。下田でまたひとつ、好きなお店が増えました。取材した記事は『伊豆下田100景』に1月にアップされる予定です。

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雑賀屋

住所:静岡県下田市2-1-27

TEL:0558-22-0018

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五十鈴製菓

住所:静岡県下田市4-5-12

TEL:0558-22-1912

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シャルマン伊豆

住所:静岡県下田市6-8-22

TEL:0558-23-3481

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金栄堂

住所:静岡県下田市武ガ浜2-33

TEL:0558-22-0350

文 津留崎徹花