夏は米づくり、冬は山仕事。
南伊豆〈大喜米〉の大ちゃんこと
中村大軌さんの目指すもの
移住して1年、ついに米づくりを
「やるか!」というタイミングが
伊豆下田に移住して、ようやく1年になる津留崎家。
家族で食べる野菜や米を自分たちでつくりたい! と思っていたものの
まだそこまでできていない状況です。
でもついに、この春から米づくりを始めることに。
その後押しをしてくれたのは、夏は米づくり、冬は林業を営む
〈南伊豆米店〉の中村大軌さんの存在がありました。
ついに、初めての米づくりに挑戦!
この原稿を書いているいま(3月はじめ)、
下田の両隣、河津町と南伊豆町では早咲きの「河津桜」が満開です。
いよいよ春。下田に移住してきて1年が経ちます。
こちらの暮らしにもだいぶ慣れてはきましたが、
移住しよう! と決めた初心を忘れないように暮らしていきたいです。

ちょうど1年前のいま頃、移住先探しの旅をしていて、この家に出会い下田への移住を決めました。
初心といえば、東京から移住するきっかけのひとつは
「自分たちの食べる野菜や米をつくりたい!」と思ったことでした。
庭で畑ができる家を探して、やっと見つけたいまの家。
自分たちの食べる野菜をつくるぞ! と意気込んで暮らし始めたのですが、
実はまだ手つかず。
日々やることに追われてしまい草むしりがやっと。
なかなかそこまで手が回らない。
さらには直売所の野菜は新鮮でおいしいし、
それらを買うことが地域の生産者さんのためにもなるのだから
まあいいか……などと自分を甘やかしています。
要するに、いまのところはその手つかずの畑を開墾してまで
「つくりたい」という気分になっていないのです。
きっとそのうち「やるか!」というタイミングがやってくる気がしています。
そして、米。
庭にはさすがに田んぼはなく、わが家の周辺には
畑は少なからずあるものの、田んぼはありません。
下田には田んぼが多い地域もあるのですが、わが家からは少し離れてます。
そんな状況もあり、移住当初は米づくりは
しばらくは無理かなと半ば諦めていました。
けれど、どうにも収まらない思いがふつふつとわいてくるのです。

やっぱり米はつくりたい。
米をつくれるようになりたい……。
といっても、米づくりってどうやって始めるの?
田んぼは誰にどうやって借りるの?
米づくりをしたことのない多くの人と同じような知識と経験です。

自分たちの主食である米のつくり方を知らないっておかしな話ですね。何年も通った学校では何を習ってたのか? 生きるために必要なことは何なのか? そんな疑問を感じてしまいます。
いまはvol.30で書いたように養蜂場〈高橋養蜂〉の農園づくりと
工務店〈山本建築〉のデスクワークの仕事をしています。
平日午前中は農園づくり、午後は自宅でデスクワークというスタイル。
週末は何かと用事ができて出かけることが多いです。
ここに「米づくり」を加えるというのは、時間的にも体力的にも
なかなかしんどい気がしていました。
でも、下田の隣、南伊豆町にある〈南伊豆米店〉の
「稲作支援制度」を知って話は急展開。
これぞ「やるか!」というタイミングだと、
この春から米づくりを始めることを決めてしまいました。

南伊豆米店 ホームページより。
[ff_assignvar name="nexttext" value="「稲作支援制度」とは?"]
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「半農半林」の人、
〈南伊豆米店〉の中村大軌さん
南伊豆米店(株式会社アグリビジネスリーディング)は
地域の休耕田を再生し、無農薬の〈大喜米〉を主軸に
環境に配慮した米づくりを行っています。
南伊豆最大の作づけ面積を持ち、
先日は休耕田再生の取り組みが評価され、
静岡県「ふじのくに未来をひらく農林漁業奨励賞」を受賞。
その南伊豆米店を率いる中村大軌さんとは、
高橋養蜂の高橋鉄兵さんを通じて知り合いました。

〈大喜米〉の稲刈りイベントにて。大軌さん(右)、鉄兵さん(左)。いまでは地域を代表する若手農家のふたりはともに30代後半の移住者、お互いのよき理解者。大軌さんは地域の人に、「大喜米の大ちゃん」と親しみをこめて呼ばれています。
大軌さんは米づくりの間口を広げたいという思いで
稲作支援制度に取り組んでいるそうです。
田んぼの選定から始まるこの制度は、
それぞれの状況により関わり方を調整してもらえます。
費用も自分が多くのことをやればその分安くなると。
わが家の場合、半反(約500平米)の田んぼと苗、
トラクターでの田起こしなどの作業と技術的なサポートをしてもらい
年額6万円程度。田植え、日々の水の管理、
除草や田んぼまわりの草刈り、稲刈りは自分でやります。
(近隣の方、また伊豆への移住を含めて興味のある方は
ぜひ、問い合わせてみてください)
サポートを受けるといっても初めての米づくり、大変なこともありそうです。
でも、家族で自分たちの食べる米をつくるのが
僕の夢のひとつでもありました。まだ始まってもいませんが、
まずは一歩踏み出せたことがとてもうれしいです。

移住前に参加した田植えイベントでのひとコマ。借りる田んぼも手植えでやろうと思ってます。楽しみ!
5月に田植えの予定。
米づくりの様子はこの連載でもお伝えしていきます。

そして僕が農園づくりの仕事をしている高橋養蜂でも、
自分たちではどうにもならない急斜面の樹木の伐採などでは
大軌さんにサポートをお願いしています。
というのも、大軌さんは春から秋は米づくりを行い、
米づくりがひと段落する秋から春先までは林業を営む
「半農半林」の人なのです。

農園を囲う獣害対策の柵のルート上にある樹木の伐採をを大軌さんに依頼。「ミツバチの楽園」づくりは日々こつこつと続けています。
先日、林業を営む別の方と話をする機会があったのですが、
真夏は山仕事には向いておらず休むことが多いと聞きました。
夏が中心の「米づくり」と「林業」の相性はよいのでしょう。

後日、南伊豆米店のスタッフが伐採にやってきました。林業のプロの仕事を間近で見たのは初めてでしたが、感動するほどの迫力と身体能力。こんな木の上に重いチェーンソーを持ってひょいひょいと登っていく。田んぼと山が彼らの仕事場。頼もしい若者たちです。
[ff_assignvar name="nexttext" value="米づくりと林業、どっちも楽しい!"]
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本当に「自然なこと」を、
あたり前にやっていく
大軌さんに「米づくり」と「林業」どちらが好きか聞いてみました。
返ってきた答えは「どっちも楽しい」。
大規模に生産する米産地が価格を下げてしまうため、
伊豆のような中山間地域の米農家では
手間と価格が釣り合わないことになってしまっているそうで、
仕事として利益が出やすいのは林業だといいます。
でも、米づくりに対しても手間を惜しまない。
例えば、米づくりのはじめの一歩ともいえる苗づくり。
もととなる種は自家採種にこだわっています。
育てた稲から次の年の米の種を採る。
前述したように米づくりに関して知識のない僕は
それが一般的なことかどうかもよくわからい。
大軌さんは「普通のことですよ」と言っていました。
でも、調べてみると、一般的には種を買ったり
苗を買ったりという農家さんが多いようです。
大軌さんになぜ自家採種にこだわるのか聞いたところ
「そこで採れた種は地に馴染む、他者のつくる種は不安がある」と。
こだわる、というよりは彼にとってはそれが自然なこと、
というだけかもしれません。

山仕事で伐り出した木で薪に適したものは販売もしています。
大軌さんも薪ストーブ派。自分たちが伐り出した薪で暖をとるそうです。
また、大軌さんはイベントや人が集まるときにはカマドと羽釜を持ってきて、
その薪で自分たちで育てた大喜米を炊きます。

「これが楽しくて米つくってる」と大軌さん。
稲作支援制度に加えて、この春からは、
子ども向け林業職業体験イベントを開催しています。
子どもたちに山で仕事をする魅力や重要性を伝えたいそうです。

僕も娘と甥っ子と参加。甥っ子は東京からこのイベントのためにひとりで電車でやって来ました。東京ではできない経験です。

林業は森林大国、日本にとってはなくてはならない仕事。
大軌さんと話していて刺激を受けることがあります。
「それは本当に自然なことかどうか?」
いまの社会で自然なこと、つまり「社会の常識」は
ここ数年、長くても数十年のことが多い気がします。
そうでなく、もっと長い歴史のなかでの「自然なこと」を
あたり前にやっていきたい、そんな判断基準が彼にはあるように感じます。

山で木を伐る必要性を聞いてから大軌さん自ら伐採の実演。僕もとても勉強になりました。しっかり手入れされた山は土砂災害にもなりにくく、獣のすみかになりにくい。林業は地域を守るとても大事な仕事なのです。

林業職業体験の証しとしてもらった「里山戦隊キッコリーズ」の手づくりペンダント。以前東京で行ったキッザニアとはだいぶ雰囲気の違う職業体験。娘は何を感じたのでしょうか。
米を種からつくる。
山を手入れして地域を守る。
山から伐り出した薪で暖をとる。
薪で米を炊く。

「田んぼと山はつながっています。健全な山はダムの役割りをしてくれて、日照りの夏も絶え間なく田んぼに水を供給してくれる」
いま、すごいスピードで時代が変化しています。そんな時代だからこそ、
長い歴史のなかでの自然なことをあたり前にやっていく、
長い歴史が育んだ知恵をもつこと、それが大切なのではないでしょうか。
大軌さんと出会って、ますますそう感じています。
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南伊豆米店
