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兵庫県南あわじ市・洲本市

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2 Go to the harvest-gathering table! たからの集う、食卓へ。

天然素材の宝庫、淡路島で民宿を営む。

宿でイタリアン。
ありそうでなさそうな、この組み合わせ。
南海荘は、世界三大渦潮のひとつ、
パワースポットとしても名高い
鳴門海峡の渦潮まですぐそばの
丸山港の目の前という立地にあり、
かつては主に釣り人のための釣り宿だった。
三代目として民宿を継いだ竹中さんも
しばらくは釣り人が釣ってきた魚を
刺身や焼き魚などに料理していたという。

それがなぜ、イタリアン?

竹中さんは地元の高校を卒業後、
大阪の調理学校で学び、
イタリアンレストランで修業していた。
その後、3~4年ほど各地を放浪したのち、
1998年に淡路島に戻り、
洲本のレストランで働いたのちに三代目を継いだ。
「移り住んだ場所はすべて居心地がよかったけど、
淡路島の海や自然のなかで育ったので
いつかはここに戻ってこようと思っていました」
放浪中、さまざまな場所で料理を作っていた竹中さん。
戻ってきてからはまず、家業のために和食を提供した。
瀬戸内海は本州、四国から流れこむ川が多く、
魚にとって餌場が豊富。
さらに、淡路島は明石海峡の潮位差や
鳴門海峡の渦潮の急流で身の締まった
天然のヒラメやハモ、ガシラ(カサゴ)、トラフグなどが
水揚げされる海の幸に恵まれた場所だったため、
豪華なお造りが宿の目玉だった。

それが、2009年の高速道路休日料金1000円の
施策により、これまでの関西圏のお客さんが
四国へ流れていくように。
そこで、淡路島で立ち止まってもらうための
サービスをと考えた答えが
イタリアンの提供だった。
時期を同じくして、あとに登場する(P.52参照)
地元の料理人や陶芸家などで構成された
美観味のメンバーと出会い、刺激を受けた。

そして、2010年には建物をリニューアル。
「島風」という淡路のいいものを集めた部屋を
建築家の平松克啓さんと相談しながら作った。
この部屋には海の見えるお風呂が併設されており、
お湯は、宿内にある共同浴場と同じく、
美人の湯として名高いうずしお温泉だ。
スパ併設のオーベルジュといえば
欧米では随分と贅沢な宿泊施設になるが、
座敷にてお箸で食べられるイタリアンを
提供する温泉民宿という風情がいい。
だからこそ、地元の人たちも
「ちょっと食べに行こうかね」
と日帰りで気軽に遊びにやってくるのだ。

竹中さんは2008年からブログ「淡路島の風」を
毎日のようにアップしており、
淡路島の自然の美しさや
旬の素材、料理を映し出す写真に
固定ファンがつくのは早かった。
コツコツとブログをあげていくうちに
ブログ経由のお客さんも増え、南海荘は
京阪神地区に居住するおいしいものには
目のない人たちの間にも話題にのぼることとなる。
それにしても、竹中さんは食べものの写真が上手だ。
撮ることが本業のカメラマンさえも舌を巻くほど。
毎日、食材と向きあっているからこそ
同じ素材の微妙な変化を逃さない。
日々変わりゆく季節の変化を感じながら
目で見て感じて、調理して……。
そんな竹中さんを支える家族とともに
南風のように爽やかなおもてなしを提供する
シェフつきの民宿、それが南海荘なのだ。