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セヴァンさんの語る
「100年先の未来のためのものづくり」
Part2:株式会社 素敬 死に立ち合う、エンゼルケアのものづくり

貝印 × colocal
ものづくりビジネスの
未来モデルを訪ねて。
vol.044

posted:2014.3.25  from:山口県下関市  genre:ものづくり

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  「貝印 × colocal ものづくりビジネスの未来モデルを訪ねて。」は、
伊勢谷友介さんがパーソナリティをつとめ、谷崎テトラさんが構成作家をつとめる「KAI presents EARTH RADIO」と連携して、
日本国内、あるいはときに海外の、ものづくりに関わる未来型ビジネスモデルを展開する現場を訪ねていきます。

editor profile

Tetra Tanizaki

谷崎テトラ

たにざき・てとら●アースラジオ構成作家。音楽プロデューサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&コーディネーターとして活動中。リオ+20など国際会議のNGO参加・運営・社会提言に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見を持つ。http://www.kanatamusic.com/tetra/

photographer

Suzu(Fresco)

スズ

フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。https://fresco-style.com/blog/

死者を送る仕事

遺体を棺に納める“納棺師”という仕事がある。
死者を棺に納めるために必要な作業と、関連商品の販売を行う職業人である。
映画『おくりびと』で広く知られることとなった。

遺族が故人と対面できるように遺体の見栄えを整える。
体を清め、寝間着から死に装束に着替えさせ、化粧や顔そりを施し、
最後にひつぎに納める。
遺族らと向き合い、死者を送り出す仕事だ。

おくりびとのためのものづくりをしているのは、下関にある株式会社素敬。
死の前後に立ち合う看護師や納棺師のためのものづくりをしている。
前回、セヴァン・スズキさんの取材のなかで紹介いただいた
上野宗則さんが経営する会社である。

ひとの死に立ち合うときなにができるか

終末期の医療および看護であるターミナルケアと死者を送るエンゼルケア。
このふたつを合わせて「看取り」という。

「この“看取り”のためのものづくりをしています。
大切なひとを失ったご家族の思いに寄り添い、ご遺体にゆっくりと向き合える。
そういった最期の時と関わることのできる状況をつくることが必要です」

そのために遺体の見栄えを整え、向き合えるための道具づくりをしている。

素敬の代表、上野宗則さん

“看取り”のためのものづくりをしている素敬の代表、上野宗則さん。並行して農的生活のための道具づくりを展開する、「ゆっくりWEB」を主催。生きるために食べ物をつくること、死者を送り出すこと、ものづくりを通して、生と死のめぐりを考える。

エンゼルケアのためのファンデーション

エンゼルケアのためのファンデーション。いわゆる「おくりびと」の死化粧の道具。通常の化粧品のように装いのための化粧ではなく、そのひとの肌の生前の質感を残すためのもの。もちろん男性にも使用する。

ひとの尊厳のためのものづくり

現代の日本人は生・老・病・死のすべてを医療に依存している。
病院や施設で亡くなる方が8割を超える。
患者から遺体へと変わる瞬間に最初に向き合うのは医療従事者だ。

亡くなった患者さんから、医療器具をとりはずすことからはじまり、
患者さんの鼻や口に綿花を詰め、あごを閉じる。
顔にはファンデーション、チーク、口紅が塗られる。
こういった領域での商品をひとつひとつ開発した。

「病院で亡くなる方が多いので、ご遺体を包んだままご自宅に搬送するシーツなども手がけました。
ご遺体は状態によっては滲出液や漏液を生じる。
担架に乗せるための持ち手が必要な場合もあります」

ひとつひとつの現場での必要性から実用新案や特許をとり商品化した。
これは災害時の遺体の搬送などにも使われるようになる。

死者に関わる商品

上野さんはもともと東京の出版社で働いていたのだという。
何がきっかけでこの仕事をするようになったのだろう。

「きっかけは自分の父親の死でした。
初めて死と向き合いました。
ひとは誰も死ぬという、あたりまえのことさえ気づいていなかったのです」

父親の死をきっかけに東京での出版社の仕事をやめ、
故郷である下関に帰った。
そして父親の会社を継いだ。

「もともと父の会社が香りに関する商品をつくっていました。
当時はアロマテラピーという考え方もなく、
消臭剤や芳香剤などをつくっていたのです。
そこから葬儀関係の方と知り合い、
においをどうにかして欲しいという相談を受けました」

食文化の変化でひとの遺体も傷みやすくなったのだという。
そんななかで死者に関わる商品をつくるようになった。
被災した方を搬出するシーツ、遺体の防腐処置、損傷した遺体を修復するメイクなど。
看取りの場面で専門職のひとが使う商品をつくりはじめた。

「美しくないものを美しくするのではなく、
死に積極的に関わるツールをつくりたいと思った」という。
遺族が、大切なひととお別れするまで。
「その想いを支える」ものづくりである。

「死にゆくものや家族の悲しみは、点としては理解しえない。
それゆえ死生学では、死を“点”ではなく“過程”として総合的に見ます」

死はひととひととのつながりを閉ざすものではなく
ゆっくりと時間をかけて思いをつなぎ、
新しいつながりをつくるもの。
「死は終わりではない」というメッセージ。

上野さんはゆっくりとつながり直すことを「スロー・デス」と呼んだ。

下関にある弥生時代の古墳でインタビュー

下関にある弥生時代の古墳でインタビュー。死を意識し、埋葬の文化が始まったのはネアンデルタール人からだという。

上野宗則さん

日本人は循環する自然そのものを信仰の対象とし、巨石や巨木をこの世とあの世を結ぶ異界への入り口としてきた。

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ニッチな産業から、いのちを見つめるものづくりへ

もともと出版の仕事をされていた上野さん。
特殊なものづくりの現場でいろいろ苦労があったのではないか。

「会社を継いだ最初のころはまず経営者になることが先で、
売り上げや経営のことで頭がいっぱいでした」

しかしひとつひとつのものづくりを進めていくうちに気持ちが変化していったという。

「たとえば黄疸症状が激しい方のカバーメイクをつくるときに
たしかに技術やノウハウがあれば商品はつくれるんですが、
それ以上になぜメイクをするのか、という気持ちの問題は無視できないんです」

何が売れるかということではなく、必要とするひとのこころをかたちにする
職人としてのものづくりへと変わっていったのだという。

「ものづくりをきっかけに、いのちを見つめるきっかけを
つくりたいと思うようになりました」

エンゼルケアのためのものづくり

厚生労働省で公表されている人口動態調査によると、
2012年に病院や老人施設で死亡した人は84%、自宅死亡は12.8%となっている。
現代の日本社会における「死」のほとんどには医療が関わり、
殊に看護職は、終末期の患者やそのご家族とも関係を持つ、
生から死への移行に立ち合う唯一の専門職でもある。

エンゼルケアとは生から死に移行した患者さんとその家族、
ケアを行う看護者自身にも意味をもたらす行為をいう。
看護学校では通常、死後の処置やケアを細かく教えることはない。
経験のない看護師にエンゼルケアの講習を行うのも上野さんの仕事だ。

病棟のエンゼルチームによる「死」に関する勉強会

病棟のエンゼルチームによる「死」に関する勉強会でのひとこま。(写真提供:素敬)

エンゼルメイクのイメージ

エンゼルメイクのイメージ。エンゼルケアは、患者さんの身体を清潔にする「保清」からはじまり、医療器具抜去後の手当てや創傷などのケアを可能な限り行い、患者さんの血液、体液、排泄物などが漏出しないようにする。そして医療行為や病状により生じた外観の変化をできるだけ目立たないようにして、自然な状態に整える。このときの清拭備品や化粧品セットを素敬は扱っている。(写真提供:素敬)

死化粧のためのメイクアップ道具

死化粧のためのメイクアップ道具。一般の消費者が手にとることはあまりない商品だが、誰もが通過する死の現場で必要とされる道具。(写真提供:素敬)

現場の必要性からものづくりをしたときに、
コストがあわずに商品化が難しいものがある。
しかしどうしてもつくるべきだと思って商品化したものもある。
看取りの前段階、介護や医療の現場で洗髪をする、
簡易洗髪シートの「シャンプーハート」もそのひとつだ。

「いま多くの医療の現場では、
髪の毛を洗うのに紙おむつを頭にかぶせて簡易洗髪することがあります。
その姿を見てご家族のなかにはショックを受ける方もいらっしゃいます。
看護師さんも洗髪用のものがあれば嬉しいに決まっています」

どうがんばっても大量生産で限界までコストダウンされている紙おむつと
同じ価格にはならない。
しかし「必要と思う人がいる」とつくり続けている。

簡易洗髪シート、シャンプーハート

簡易洗髪シート、シャンプーハート。1リットルほどの給水性能を持つ。(写真提供:素敬)

簡易洗髪の様子

現状、簡易洗髪におしり用の紙おむつを使うことが多いという。患者さん本人や家族にとって望ましくない、受け入れがたいことと感じ、簡易洗髪のための専用シートを開発した。(写真提供:素敬)

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親しいひとの死に立ち合ったとき、してほしい3つのこと

上野さんは、親しいひとの死に立ち合ったとき、してほしい3つのことがあるという。

1 見てほしい

2 触れてほしい

3 悲しんでほしい

生から死へと移行する場面、たとえば骨になったり、お墓に埋められるまでの過程。
あらゆる場面をじっと見てほしい。そして触れてほしい。身体に触れてあげてほしい。
そして悲しいのであれば、存分に悲しんでほしい。
そこからどんな学びがあるかとかはひとそれぞれでいいと上野さんは考える。

「たとえば死に際して羸痩(るいそう)状態が激しくてやせ細っていくと、
ひとは愛するひとであればあるほどそれを直視できなくなる。
死から受けとることがたくさんあると思ったんです」

少しでも死にゆくひとを見て、触れてほしい。
生前と変わってしまった姿をこえて、少しでも触れることができるよう
死化粧の道具をつくり続けているという。

息をひきとるということ

「息をひきとるという言葉があると思うんです。
息とはこころだと思うんです。
亡き人はもう話すことができない。
それを見たり触れたりすることで、もしかしたら亡き人の
こころを受けとることができるんじゃないかと思うんです」

死にゆくひとのメッセージを受けとるため、
受けとりやすくするための道具をつくる。
上野さんはそう語る。

親しいものの死こそが、自分の生きることの意味を教えてくれる。
死にゆくひとのメッセージを受けとるために、そのための道具をつくる。

素敬の自然農園

素敬の自然農園。農的生活のための道具づくりをしている。生と死に関わる道具づくり。どちらも生命の根源に向き合うためのきっかけづくりの仕事と上野さんは考えている。

素敬の自然農園での農作業の様子

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セヴァンさんからのメッセージ

今回、下関の素敬との縁をつないでくれたのはカナダの環境活動家セヴァン・スズキさん。
セヴァンさんは「いまの文明はつながりを失っている」と言う。

「いま共に暮らすハイダ族から学んだものなのですが、
私たちは3つのつながりがあります。
ひとつ目は大地、海、自然界とのつながり
ふたつ目はひとびと、仲間たちとのつながり
3つ目はスピリチュアルなつながり、これは自分自身とのつながりということなのですが
この3つは結びついています」

「植物であっても、動物であっても、ひとはそれを殺して食べている。
私たちはいのちをいただいて生きている。
感謝の気持ちを表明すること。
生命としてのつながりを考えること。
それはとても重要でシンプルな行いなんだと思います。

「生命としてのつながりを取り戻し、つながり直す」
セヴァンさんはそれが「もっとも大切なこと」だと言う。

“つながり直す”ための道具づくり

「僕にとって、死のための道具は、生きることを考えるため、
つながり直す道具なんです」

上野さんは農的な生活に触れながら、メメント・モリ、
つまり死を想うことで大切な気づきがある、という。

「僕にとって死について考える時間が、
自然と生について考える時間となっています。
ひとは本来なにを食べるべきかとか、どう生きるべきか。
そこから生活習慣について考えるようになりましたし、
自然栽培したものを食べるようになりました。
自然農そのものにも興味を持ったのです」

あるとき自然農の畑を訪れたときに、茄子が光ってみえた。
ああこれが生命の輝きか、と感じたという。

その実をいただくこと。
いのちの巡りのなかに生きること。
上野さんは自然農の畑のなかで
ひとのいのちもまた、同じものだと感じた。

「この世界でお借りしたこの素晴らしい庭を大切にいたわり、
美しい花を存分に咲かす。そしてその庭が役目を終え、返却するとき
私は生きた、そう思えるのではないでしょうか」

「いまを大切に生きること」
ものづくりに込めたメッセージである。

死は辛く、悲しく、受け入れがたいこと。すべてのひとの旅はいずれ終わるときがくる。「いのちのはかなさ」「いのちの尊さ」そして「いまを大切に生きること」。その思いのなかでものづくりを続けている。

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Severn Cullis-Suzuki 
セヴァン・カリス=スズキ

環境・文化活動家。日系カナダ人4世。9歳でECO(子ども環境NGO)を立ち上げ、環境活動を開始。12歳のとき、ブラジルで開催された「地球サミット」にECOの仲間たちと旅費を集めて参加。最終日に本会議で行った6分間のスピーチが世界中に感銘を与え、セヴァンは一躍環境運動の象徴的存在となった。以後、講演・執筆など国際的に活躍、「グローバル500賞」を受賞、「地球憲章」起草メンバーを務める。

https://www.youtube.com/watch?v=N0GsScywvx0&feature=youtu.be

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NGOナマケモノ倶楽部

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株式会社 素敬

セヴァン・スズキさんの来日の模様は、
KAI Presents Earth Radioのポッドキャストで聴くことができます。

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