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セヴァンさんの語る「100年先の
未来のためのものづくり」 Part1:
ナマケモノ倶楽部/ゆっくりWeb
農的生活をはじめるための道具

貝印 × colocal
ものづくりビジネスの
未来モデルを訪ねて。
vol.043

posted:2014.3.18  from:山口県下関市  genre:ものづくり

〈 この連載・企画は… 〉  「貝印 × colocal ものづくりビジネスの未来モデルを訪ねて。」は、
伊勢谷友介さんがパーソナリティをつとめ、谷崎テトラさんが構成作家をつとめる「KAI presents EARTH RADIO」と連携して、
日本国内、あるいはときに海外の、ものづくりに関わる未来型ビジネスモデルを展開する現場を訪ねていきます。

editor profile

Tetra Tanizaki

谷崎テトラ

たにざき・てとら●アースラジオ構成作家。音楽プロデューサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&コーディネーターとして活動中。リオ+20など国際会議のNGO参加・運営・社会提言に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見を持つ。
http://www.kanatamusic.com/tetra/

photographer

Suzu(Fresco)

スズ

フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。
http://fresco-style.com/blog/

地球サミットの伝説のスピーチ。

セヴァン・カリス=スズキさんが来日した。
1992年、地球サミットのときの「伝説のスピーチ」の少女である。
あれから22年がたち、現在二児の母だ。

現在InterFMで月に1度O.Aされている、
「KAI presents EARTH RADIO」のパーソナリティ伊勢谷友介とコロカルの取材班は
来日したセヴァンさんの滞在先を訪れ、
「100年先の未来のためのものづくり」についてインタビューを行った。

伊勢谷

セヴァンさんはいま、どんな暮らしをされているのですか?

セヴァン

カナダの西海岸ハイダグアイ群島に住む先住民ハイダ族の夫とともに、
ハイダ族のコミュニティのなかで暮らしています。
ハイダ族は一万年にわたってここに暮らしてきた先住民で、
広大な森の木を使った芸術性の高い文化をもっています。
私にとって自然のなかに暮らすことはとても幸せなことです。

伊勢谷

1992年の地球サミットから20年以上たったいま、
伝えたい思いをお聴かせいただけますか?

セヴァン

私は子どものころから環境運動や社会運動に関わってきたのですが、
地球を破壊する力は巨大でとても暴力的だと感じています。
そういう力に反対することは、とても疲れるし、
多くの失望が積み重なってきてしまいました。
今、そういうエネルギーをポジティブなものに
変えていかなければならないと感じています。

伊勢谷

おっしゃるとおりです。
最近は反対することがアイデンティティのようになってしまっている人もいる。
そのエネルギーをポジティブに変えていくことが大切なことですね。
そのためには、どのようなことが必要なのでしょうか?

セヴァン

どのような未来を望むのか、どのような社会で暮らしたいのか、
というヴィジョンを持つことが大切です。
考えてみると環境破壊をはじめ、否定的なできごとは
自然とのつながり、あるいはコミュニティでの人と人とのつながりなど、
全てつながりを壊してしまうところから生まれます。
ですから私たちがやらなければならないのは、“つながり直すこと”。
これこそが答えです。これはとてもクリエイティブなこと。
やっていると楽しいですよね。
なぜならわれわれはそもそも“つながる存在”だからです。

伊勢谷

つながっているという実感を得ることで、より未来を創造的にできる。
このことは本当に大切なことですね。

KAI presents EARTH RADIOのパーソナリティを務める伊勢谷友介さんと対談するセヴァン・スズキさん。

100年先のものづくり。

伊勢谷

セヴァンさんが考える、
地球を壊さないものづくりとはどんなものなのでしょう?。
100年先を考えたら、今のものづくりはどうあるべきなのでしょうか?

セヴァン

今まわりにある、ほとんどのものは
100年後には役に立たなくなっているでしょう。
長く保たないように製品がつくられているから。
100年後には本当に大切な必要なものは何か、
人々は考えているはずです。
そのときに大事になるのは“道具”です。
良いものをつくり出すための道具が重要になります。
私の住むハイダ族の集落にも、祖父、祖母から
世代を超えて受け継がれてきた道具があります。
手づくりの道具は美しい。芸術的にも高い価値もある。
道具をつくり、また直したりして、
ずっとつくり続ける良い循環が生まれます。
そして、ものづくりために大事なものは「技」です。
「技」と「技術」と「道具」。それがそろっているかどうか。
私たちが未来の社会につなげていかなければいけないのはこのことです。

農的生活のための道具。

セヴァンさんの語る、ものづくりのための道具づくり。
具体的にはどんなものなのだろう。
今回、セヴァンさんの通訳をしていただいた辻信一さんから、
その好例があると、ナマケモノ倶楽部の世話人、上野宗則さんを紹介いただいた。

上野さんは山口県下関で「農的暮らしのための道具づくり」をされている。
小規模な農業自給のために、籾摺りや脱穀、鍬、鎌、などの道具づくりをしており、
「ゆっくりWeb」という情報サイトをたちあげている。

このたびの来日では、セヴァンさんのお父さんの環境学者デヴィッド・スズキさんをはじめ、
セヴァンさんとも家族ぐるみで交流をした。
そもそもなぜ道具づくりをはじめたのだろう?
コロカル取材チームは、下関に上野宗則さんを訪ねた。

セヴァンさんは100年先の未来のために「道具づくり」が大切という。左利き用の鎌もある。

ナマケモノ倶楽部の世話人、上野宗則さん。ゆっくりWebをたちあげ農的生活のための道具を提供する。セヴァンさんのいう100年先の未来を壊さないための道具づくり。

米や麦を育てるプランター。この容器ひとつで茶碗一杯分のお米が収穫できる。今は小麦を育成中。パンひとつ分を小麦の量で実感することが、農的な経験値となる。

小さな農的生活者になろう。

上野さんは、もともと東京で出版社に勤めていたが、
父親の死をきっかけに故郷である下関へ戻り、父親の会社を継いだ。
あるとき自然農のことを知って、会社の事業に農的生活のための道具づくりを加えた。

「小さな農的生活者をつくりたいんです」と上野さん。
そのための「道具づくり」をはじめた。

「自給自足までいかなくても、できる範囲ではじめた人を応援したい。
私たちの食べ物がどこからきて、どこに行くのか気づくこと。
いのちを運んでくれるのは太陽と水と土と風。
自分がどうして生きているのか、どのような生活圏のなかに生きているのか、
そこに気づきを得たり、小さな幸せを感じることが人の暮らしには大切なんです」

鍬。女性や都市生活者が手にとりやすいポップな配色。女性が使いやすいように軽く、刃先が少し尖っている。

農作業の基本、必須アイテムは「鎌」「鍬」「スコップ」。
鍬で畝(うね)をつくり、種を蒔いていく。
女性が使いやすいように、柄の長さや刃先を工夫した。

自然農は虫も雑草も敵としない。
雑草は根を抜かずに刈る。
そのために刃先から刻みがある、のこぎり鎌を使う。
柄も通常ものもよりも短く使いやすくした。
自然農の初心者にも使いやすい道具づくりを心がける。

自然農で使用する、のこぎり鎌。市販のものは柄が長く使いにくいと感じ、自社で開発した。

作付けロープ。畝を整え種を巻く位置の目安になる。

たとえ生活の一部であっても、自らの食べ物をつくってみることを、
上野さんは提唱している。
半農半Xでなくてもいい、「小さな農的生活者をつくる」こと。
都会のなかであっても、ベランダや庭の一部を使って
野菜や米をつくってみること。

「そのことから、気づきがある」と上野さんは言う。

自分が育てた小麦でパンをつくることの楽しさ、
お茶碗一杯のお米が一本の稲からどのように株分けして、
どのくらいの粒がつくのか、
そのことを実感することで、いのちのつながりを考えるきっかけになる。

稲から玄米へ。

お茶碗一杯のお米づくりをしてみる。
しかし稲から籾を取り、籾殻から玄米を取り出す作業は簡単ではない。
上野さんは、小規模なお米づくり用に、古式の千把扱きを再現してみた。

千把扱き。日本の古式の脱穀用農具。穂を挟んで籾をしごき落とす。下関の木工所でフレームをつくり、大阪の町工場で刃をつくっている。

ミニチュア版の脱穀機。稲穂から米を取り出す。機械化された農業ではコンバインで刈り取りながら脱穀するが、手作業で稲穂から米を収穫することで植物から恵みを得ていることを実感できることが大切。

脱穀ができると、次は籾摺りとなる。
脱穀まではできても籾摺りができない人が多い。
少量のお米でも、手作業で籾摺りができるキットを開発した。
手摺りで籾を摺り、ふるいにかける。
その後、唐箕(とうみ)で籾殻や藁屑を風によって選別する。
稲の束から、お茶碗一杯分の玄米をつくる。

籾摺りキット。脱穀ができても籾摺りができない人にとってこれは朗報。手作業で手間はかかるけど、欲しい人は多いであろう一品。

籾摺り。脱穀した籾を摺り、玄米を取り出す。

手作業だが、15秒ぐらい擦ると玄米になる。

籾とお米をふるい分ける。

穀物を精選するための農具、唐箕(とうみ)。収穫した穀物を脱穀した後、籾殻や藁屑を風によって選別するために用いられる。 風力で籾とお米をふるい分ける。

プランター。もともとアクアリウム用につくられたものに水抜きの穴を空けて、オリジナルのプランターを開発した。ベランダで稲作をする時代が来るかも?

地力を補うための自然の肥料。自然農でつくった菜種と米糠が原料。

セヴァンさんのメッセージ。

私たちは文明の在り方を、具体的にはどうやって変えていけるのだろうか?
ふたたびセヴァンさんのメッセージに耳を傾けてみよう。

「一番ベーシックに変えていけるのは“食べ物”です。
食べ物に関しては世界中さまざまな価値観がありますが、
どのコミュニティにおいても食べ物に最大の価値をおくことは間違いない」

「私は先住民ハイダ族とともに暮らしています。
彼らの暮らしは幸運なことに食べ物と自然界の間に
スピリチュアルな価値を見出しています。
すべての蛋白質を大地から、そして海からいただいている伝統を学び、
私たちの謙虚な生き方につながっていると思います。
それを私たちの子どもに伝えようとしています」

いのちをいただいている、そのことによって、
私たちはいのちを育まれている、
セヴァンさんはそのことを伝えたい、と言う。

セヴァンさんの父は世界的に著名な科学者で環境活動家デヴィッド・スズキさん(左)。今回、セヴァン・スズキさんのコーディネイトと通訳してくださったナマケモノ倶楽部の世話人、辻信一さん(右)。来日したセヴァンさん一家は、下関にも滞在。ゆっくりWebでの「農的暮らしのための道具」のコンセプトも辻さんと上野さんの出会いのなかで生まれた。(写真提供:上野宗則)

上野さんの経営する会社、(株)素敬の社員も農業を実践。

「いのち」とはなにか? 死に向き合うこと。

ところで今回取材させていただいた上野さんの会社のメインの事業は、農具ではない。
なぜ農具をつくろうと考えたのだろう。

「メメント・モリという言葉があるように、“死”について考えているうちに
“いのち”とはなにか? について、自然に考えるようになりました。
あるとき自然農の畑に生るナスをみたとき、それが輝いているように見えて
帰農の必要性を感じました。

私や私たちの会社は農業者ではありませんので、
農業に従事しているわけではなく、
小さな農的暮らしを社会に提起したいと思っているだけの小さな会社です。
詳しくは別の機会にまたお話しできればと思っていますが、
現在は人の“死”に関わる仕事を生業としています」

“死”に関わる仕事?
いったいそれは何だろう……?
この話は次回お届けします。

profile

セヴァン・カリス=スズキ Severn Cullis-Suzuki

環境・文化活動家。日系カナダ人4世。9歳でECO(子ども環境NGO)を立ち上げ、環境活動を開始。12歳のとき、ブラジルで開催された「地球サミット」にECOの仲間たちと旅費を集めて参加。最終日に本会議で行った6分間のスピーチが世界中に感銘を与え、セヴァンは一躍環境運動の象徴的存在となった。以後、講演・執筆など国際的に活躍、「グローバル500賞」を受賞、「地球憲章」起草メンバーを務める。
http://youtu.be/N0GsScywvx0

information

NGOナマケモノ倶楽部

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セヴァン・スズキさんの来日の模様は
KAI Presents Earth Radioのポッドキャストで聴くことができます。
https://itunes.apple.com/jp/podcast/

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