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未来を創るニッポンの現場
「京都・亀岡」編 Part4
“ちょっと前の日本の良い暮らし”を
次世代へ。

KAI presents EARTH RADIO
vol.044 StoryK-04

posted:2013.3.29  from:京都府京都市東山区  genre:活性化と創生

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  俳優・伊勢谷友介さんと放送作家・谷崎テトラさんが、
“未来を作る日本の現場”を求めて、さまざまな土地を巡ります。
コロカルでは、この「EARTH RADIO」を“読む”ための、連動連載をお届けします。

editor profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影:Suzu(fresco)

食への向き合い方を忘れてしまった日本が、取り戻すべきもの。

伊勢谷友介さんと谷崎テトラさんによるウェブラジオプログラム
「KAI presents EARTH RADIO」。
京都編の4回目は先週に引き続き、お宿吉水の中川誼美さんの人生哲学のお話。

中川さんは、若い頃から化粧もあまりせず、
洋服も手づくりをしているような趣味嗜好だった。
そして決定的にナチュラルなライフスタイルに傾倒していったのは、
あのウッドストックに住んだ経験が大きい。
ウッドストックとは、アメリカ・ニューヨーク州の田舎町で、
1969年にヒッピーの祭典として知られる
ウッドストック・フェスティバルが開催された場所。
このフェスティバルの翌年、中川さんはウッドストックに住むことになった。

「当時はばりばりのヒッピーがたくさん住んでいました。
洋服をちゃんと着ているほうが恥ずかしくなるくらい!」
そういう場所にいきなり放り込まれても、
「すんなり入っていけた」というから大したもの。
ウッドストックで生活するうちに、
食生活やD.I.Y.などナチュラルなライフスタイルの精神を吸収していった。

「その後の人生は、ウッドストックの体験が大きく影響しています。
ウッドストックでは、お金がないからそのへんの葉っぱを天ぷらにしたり、
何でも手づくりしたり。
でもこれで問題ないなと思いました。
だからお金を儲けようと思ったことはありません」

このような経験を生かした宿が吉水(Part3参照)となって結実する。
現在、お宿吉水の毎日の運営は他のスタッフに任せ、
自身は本を書いたり、安穏朝市などを開催したり、
古民家を再生したりといった多岐にわたる活動にシフトしている。
すべて美しい日本の暮らしを取り戻すための普及活動だ。
そして、今年、これまでの活動の決定版ともいえる「じねんや新聞社」を立ち上げた。
さまざまな活動にわかりやすく横串を通すプラットフォームとなるだろう。

キャッチフレーズは井上ひさしさんの著書『兄おとうと』から、
「三度のごはん きちんとたべて 火の用心 元気で生きよう きっとね」
という言葉を引用している。
きちんとご飯を食べて、毎日ていねいに生きることからすべてははじまる。
だからシンボルマークもお釜とお茶碗にご飯。
社会の最小単位である自分が健康でないと何もできない。
“そんなこと当たり前だ”と言われそうだが、
中川さんに言わせれば「それすら危機的状況」であるという。
「オーガニック、マクロビオティックとかいう前に、
まずは目の前にある朝昼晩のご飯を普通に食べること。
ファーストフードをやめる、電子レンジは使わない、
せめてご飯くらいは毎日炊いてほしい。
いまの日本は、そんなに高いハードルを目指せる状況ではありませんから」

中川さんの著書に『ちょっと前の日本の暮らし』がある。
この「ちょっと前」とはいつを指しているのか。
「ホントは縄文時代と言いたいところ。
でもそれは冗談として、昭和30年代頃ですね。
『ALWAYS三丁目の夕日』という映画がありましたよね。
あれを観ていて泣けてしまって。
ストーリーや演出ではなく、
ここに出てくる日本の良いものが、今はすべて失われてしまったこと。
親子愛も、近所愛もない。台所で食事をつくらなくなったし、
なにより家族団らんがなくなってしまいました。全部ない!」

家族団らんは、イコール食事と捉えられる。
「そこでお母さんは子どもの顔色を見るわけです。
ファーストフードばかりを食べて、そのまま塾に行きなさい、
なんていう家族のスタイルに、私は違和感があるんですね」

食がすべての中心で基本。
家庭でも、食事がないがしろにされがちな時代に、
中川さんの会社の会議では、必ず食事が振る舞われるという。
ときには、みんなでうどんをこねながら、会議が進行することも。
毎日きちんとした食事をしないと、自分の命を守れない。
それでは「きちんと生きていない」のと同義なのだ。

庭園を望む部屋

庭園を望む部屋は、桜の季節も特等席。

苔玉や草花などがさりげなく飾ってある

苔玉や草花などがさりげなく飾ってあり、季節感を感じられる。

毎日の暮らしのなかから生まれるものがある。

“遠くの夢を追っていると、手元がおろそかになる”という一節が、著書にある。
若者は夢を持たなければいけないというステレオタイプに対して、心に残る一節だ。
「夢というのは、日常を積み重ねているうちに出てくるもの。
日常がないのに夢なんて生まれません。
毎日の暮らしを大切にしないで、自分の立っている場所がわからないと、
何をやっていいかわからないはず。
それが夢を持てない若者の原因だと思います」

手元をおろそかにしていると、今日が明日につながっていかない。
いきなり一足飛びにすることはできない。

「天才と言われた日本のロケット開発の父、糸川英夫先生がよく言っていたのが、
“1日1枚の新聞紙を重ねる努力”。
そこに足が乗らないひとはいない。2日目も乗る。1年経っても乗るだろう。
それを繰り返しているうちにだんだん足が上がるようになって、
バレリーナのように垂直に上げられるようになるという話。
今は、そういう努力がもどかしいのでしょう」
それに対して1か月分まとめて30枚の新聞紙を重ねてしまうような
スピード感や結果主義が、今の世の中なのかもしれない。

中川さんは、神奈川の大磯に住み、ゆっくりと食事をつくり、きちんと掃除をする。
傍から見れば、スローライフにうつる。
しかし、言うこともやっていることも、すごくエネルギッシュ。
みんな頭では理解できるのだろうが、
中川さんのように実際に行動に移したり、
そのときの不安を取り除く術はなんだろうか。
「ひとと比べないこと。自分自身を確立すること。
日本人ほど自信を持てないひとはいません。
立派に勤め上げた会社員でも、
定年した途端に別人のように何もできないひとがたくさんいます」
そういうひとは肩書きがすべての生き方だったのだろう。
それを外されると、一個人として何もできなかったりするのかもしれない。

吉水を含めたじねんやの活動。
ちょっと前には普通に行われていたことであって、
特別なことでも、こだわりでもない。それらを再び手元に呼び寄せる。
中川さんの惹きつけられるトークと抜群の行動力で、
“ちょっと前の日本の暮らし”の良い部分が
少しでも多く次代に残ることを期待したい。

食堂にある薪ストーブ

食堂にある薪ストーブは、かなりの年季もの。

テーブルに飾られた球根や盆栽

スタッフのちょっとした心遣いが、細部に表れる。

information

map

お宿吉水

住所:京都府京都市東山区円山公園弁天堂上

TEL:075-551-3995

Web:http://www.yoshimizu.com/

Facebook:https://www.facebook.com/jinenya.shimbun

profile

YOSHIMI NAKAGAWA 
中川誼美

東京都出身。慶應義塾大学商学部卒業後、父親の経営する繊維会社で経理業務を担当する。結婚と同時にニューヨーク州ウッドストックで暮らす。 

主婦業、母親業の一方で、夫が経営する印刷会社で再び経理業務を担当。その後、長年実践してきた人と自然にやさしい暮らし方の経験を活かして、1998年55歳のとき「お宿吉水」を京都、2003年1月には銀座、2008年には京都綾部に開業、女将として切り盛りする。

「お宿吉水」は、海外でも注目を集め、予約がとれない宿として知られるほど人気を集める。京都・銀座の両宿は、スカンジナビア政府観光局より、アジアで初めてのオーガニック宿泊設備の規定「グリーンキー」を受けた。2011年、「3.11」後に銀座吉水を閉める。お宿吉水の女将として多忙な一方で、“ちょっと前の日本の暮らし”を提案する著作活動、講演活動、「50度洗い」と低温調理を中心とした命が喜ぶ料理教室など、日本中を飛び歩く多忙な日々を送る。「じねん朝市会」を会長として主宰。築地本願寺境内で毎月第三日曜日に開かれる「安穏朝市」を皮切りに、現在では東京のほか京都・大阪・埼玉など全国各地で朝市を開催する。「美しい日本を残すために協力し合う会」や「じねんや新聞社」などの活動もスタートさせる。

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