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未来を創るニッポンの現場
「京都・亀岡」編 Part2
美しいって何? からはじまる
日本の心。

KAI presents EARTH RADIO
vol.042 StoryK-02

posted:2013.3.15  from:京都府亀岡市  genre:活性化と創生

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  俳優・伊勢谷友介さんと放送作家・谷崎テトラさんが、
“未来を作る日本の現場”を求めて、さまざまな土地を巡ります。
コロカルでは、この「EARTH RADIO」を“読む”ための、連動連載をお届けします。

editor profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影:Suzu(fresco)

日本の美しさを「見立て」る時代へ。

伊勢谷友介さんと谷崎テトラさんによるウェブラジオプログラム
「KAI presents EARTH RADIO」は、京都編の第2回。

アレックス・カーさんは20年以上前に日本に対してある提言をした。
その『美しい日本の残像』という本は、『新潮45』の連載をまとめたもので、
祖谷(いや)について(Part1参照)、歌舞伎について、書道についてなど、
アレックスさんの経験と彼の目を通した日本文化が取り上げられている。
その一方で、過疎や景観の醜さ、公共事業の問題点なども
取り上げて批判することで、反響が大きかった。

アレックスさんは、その中で、
「日本にはこんなに面白いものがあったのに、次世代に残っているのか?」
と問いかける。
このときから、日本はすでに「残像」のなかに生きていたというのだ。
「国栄えて山河なし」という言葉は、彼の著作にある言葉で、
もちろん「国破れて山河あり」という
杜甫の有名な漢詩をモチーフに皮肉ったもの。
日本は60年代高度成長期からバブル期にかけて、
国は栄えていったが、自然をどんどん破壊していった。
「本当にもったいない。こんなにきれいな山や川があるのに、
どんどんつまらないものになっていきます」と残念がるアレックスさん。

その後、本当に自分が感じていることには根拠があるのか?
経済発展のために便利にならないといけないし、
自分の見る目が甘いのではないのか? という疑問がわいた。
そこで実際の予算や仕組みを研究し調べ上げた。
それが2002年に刊行された『犬と鬼』である。
前出の『美しき日本の残像』に比べて、タイトルからして強さがあり、
内容も具体的な数字を突きつけられるハードなジャーナリズムだ。
その結果、
「日本は、他の先進国とは違う道を歩んだということが明らかになった」
例えば、建設業に関する国の予算はアメリカは7%程度、
ヨーロッパは12〜13%程度、しかし日本は50%を超える。
1平米あたりに敷き詰めるコンクリートの量が、
なんとアメリカの30倍。(『犬と鬼』発行当時の数値)
その数字を「桁外れですよ」と怖がらせるが、それも大げさではない。

しかしまだ破壊は止まらない。
今度はビジュアル込みの連載「ニッポン景観論」をスタートした。
これまたブラックユーモア交じりで面白い。
「旅をしていて、きれいな景色とか神社とかの写真を撮ります、好きですから。
でも同時に、不思議な工事現場とか、電線と古都のマッチングとかも撮ります。
結構コレクションありますよ(笑)」と、
日本人としてなんだか恥ずかしくなるような話。
風景などを記念撮影するときに、
気がつくと電線や看板などを外すようにして撮っていることはないだろうか。

「最近の日本で、見渡す限り、植林も看板も電線もブルーシートもない、
本当に美しい場所はありましたか?」とアレックスさんに逆に問われた。
思い浮かぶところがなく、
ぼそっと前回取材で訪れた「パタゴニアまで行かないと……」とつぶやくと、
「そんなに遠くまで行かなくても、フランス、イタリア、ポルトガル、
そしてアメリカにも、シンガポールにもあるよ!」と返された。
これは先進国だから途上国だからという問題ではないということだ。

「便利ということもすでに行き詰まっていると思います。
電子レンジ、トースター、お風呂、トイレ、wi-fi……。
ここにはすべてあります。
そんな低レベルで日本人の生活は終わっていいのでしょうか?
冷蔵庫が欲しいという段階は、日本人は何十年も前に脱したはずですよね」

アレックスさんの着るシャツは伊勢木綿で仕立てられている

アレックスさんの着るシャツは伊勢木綿で仕立てられている。日本の技術を現代的に取り入れる。

日本人が忘れてしまった美の経済パワー。

「数年前までは、美とか景観という言葉は禁句でしたね」とアレックスさんは語る。
それは経済発展とは相反するもの。
「景観が美しいというのは文明的ではなく、
遅れているとすら思われていました」と、
日本人が根本に持っていた美意識が失われてしまったことを残念がる。

これから過疎や高齢化問題などで、
地方を大切にし、旅行者やUターン・Iターンを増やさなければならないとき。
「公共事業でコンクリートで固められた田舎に
そういうひとが来ると思いますか? きっと来ませんよね。
美しいところに未来があるんです。
これはノスタルジーでも感傷的なことでもなく、経済性の話です」
美しくなくなってしまったところは、
自分で自分の首を絞めてしまったようなもの。
「みんな美の経済パワーを忘れてしまっていると思います」

では、美しいってなんだろう?
「その“美しいって何?”って質問からすべてが始まると思います。
いまの日本にはそれすらありません」と言われてしまった。
日本人がもしそうであるならば、かなり体たらくかもしれない。

美意識を研ぎ澄ませていけば、
伝統工芸などを残していく心が育てられるかもしれない。
「伝統工芸や技術など、ものづくりはご存知の通り、危機的な状況です。
有田焼、九谷焼も10年で十分の一、京都の西陣織はもっとひどい」
それは一般のひとが使う機会が少なくなったからであることは言うまでもない。
それなら「日常生活に使い方を見つけること」。
「例えばこのそば猪口」と、手に持ったお茶を指す。
取材陣にはお茶が振る舞われていたが、それはそば猪口に入れられていた。
「僕はこれでワインも飲みますよ。ワイングラスは倒してしまうから(笑)。
これは安定していていい」と冗談交じりにいうが、
使い方を限定する必要はないのだ。

そば猪口にワインをいれる

そば猪口にワインをいれるだけで、洒落て見えるから不思議だ。

これからは「見立ての時代」と、アレックスさんは提案する。
韓国の雑炊のお椀が日本ではお抹茶の茶碗として使われるなど、
それは当たり前に行われてきたことで、「見立て」である。
そば猪口にワインを入れても、豆皿にお花を置いてもいい。
着物の生地を使って洋服にアレンジしてもいい。
町屋や古民家を、
旅館やレストラン、ギャラリーとして使用するのもそのひとつ。
そうすれば生きてくる。
これが現代においての健全なかたちかもしれない。
「知恵や技術をポイと捨てるのではなく、どう活かすか。
それが現代の課題ですね。
何百年も受け継がれてきた素材としては、
二度とこのようなものはつくれません。素晴らしい資産のひとつなんです。
こういうものが古い技術だから現代的ではないという単純な見方は、
それこそ古い。それができない現代人こそ、現代性に欠けていると思います」

日本は古いのか。日本に長く住み、
日本文化を愛するがゆえの骨太な意見。耳に痛いけれども、
最後は、アレックスさんらしくウィットに富んだお言葉で。
「発展途上国的な発想から日本は卒業すべき。卒業したはずだけど留年だね」

豆皿の新しい活用法を思案中

豆皿の新しい活用法を思案中。発想次第で無限に広がるのだ。

profile

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ALEX KERR 
アレックス・カー

1952年アメリカで生まれ、 日本には1964年に初来日。エール大学で日本学、オックスフォード大学で中国学を専攻。1973年に徳島県東祖谷山村で茅葺き屋根の民家(屋号=ちいおり)を購入し、その後屋根の吹き替えを完成させ田舎の復活活動に取り組んできた。1977年から京都府亀岡市に在住し、篪庵有限会社を設立し、執筆、講演、コンサルティング等を開始。

京都を初め日本各地で文化講演、執筆活動などを続ける。

1993年著書『美しき日本の残像』(新潮社刊)が外国人初の新潮学芸賞を受賞。また、2001年には『犬と鬼』(講談社刊)を執筆し、日本が抱える「文化の病」を取り上げ、注目を浴びる。1977年からタイ(バンコク)に第二の拠点を構え、京都とバンコクを往来しながら文化活動を続ける。

2003年12月4日、京都に株式会社庵を設立、取締役会長に就任。京都では、京町家の保存を目的に京町家スティと日本の伝統文化体験研修事業をスタート。2005年に徳島県三好市祖谷で特定非営利活動法人篪庵トラストを設立。徳島県三好市祖谷での活動を積極化。2010年11月株式会社庵 退任。現在は、奈良県十津川村、香川県三豊市、徳島県三好市をはじめ、全国各地で地域観光振興のコンサルティングを行っている。

Web:http://www.alex-kerr.com/

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