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未来を創るニッポンの現場
「京都・亀岡」編 Part1
アレックス・カーさんが見る、
古民家の風景。

KAI presents EARTH RADIO
vol.041 StoryK-01

posted:2013.3.8  from:京都府亀岡市  genre:活性化と創生

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  俳優・伊勢谷友介さんと放送作家・谷崎テトラさんが、
“未来を作る日本の現場”を求めて、さまざまな土地を巡ります。
コロカルでは、この「EARTH RADIO」を“読む”ための、連動連載をお届けします。

editor's profile

Tomohiro Okusa
大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影(メイン・本文内・プロフィール):Suzu(fresco)

古民家再生による観光で見る、地域活性化の道。

伊勢谷友介さんと谷崎テトラさんによるウェブラジオプログラム
「KAI presents EARTH RADIO」は、「京都・亀岡」編の第1回。

現在、京都府亀岡市に居を構えるアレックス・カーさんは、
日本の古民家再生事業の第一人者ともいえる。
日本の古き良き文化を継承したいという思いは、
幼心に見ていた風景が強く影響しているようだ。
アメリカ人のアレックス・カーさんは1964年に来日。
父親が海軍の弁護士で、横浜に住んでいた。
母が「なでしこ会」という夫人倶楽部に入っており、
そこで月1回、誰かの家を訪れていた。
母親に連れられて、大きなお屋敷に遊びに行っていたアレックス少年。
「玄関は素晴らしい構え。家に入るかと思えば、いきなりは入らない。
待合、第一の間、第二の間、そして廊下があり、
やっと奥座敷に進む。庭越しに離れや茶室が見える。
ふすまや障子の開け閉めによって空間の流れが生まれる。
そういうものが子ども心に大好きでしたね」
日本人でもなかなかできないようなことを体験し、
しかもその初期衝動を大人になるまで持ち続けている。
日本の伝統を受け継ごうという想いの原点だ。

自身も、亀岡の神社の境内にある古民家に住んでいる。
もともと社務所であったところを1977年に借りて、改築した。

「古民家が空き家かどうか、においでわかる(笑)」というアレックスさん。
この建物の前を通ったときにも、「“ひょっとして”とひらめいた」と話す。
近所のひとに訊ねて、近くにもうひとつ神社があり、
そこに聞いてみればいいという話を聞いた。
話に行ったら、ほぼ即決。
神主さんにしてみれば、
何にもないボロ屋を借りてくれるなら本望と思ったに違いない。

当時、この家は水道も電気もない状態。
トイレは汲み取り式で水は井戸水を使用。
下水道がこの地に来るまで15年以上かかった。
そのあとにトイレやお風呂を工事したので
90年代半ばまでは何かと改修工事をしていたことになる。

この奥にアレックス・カーさんの自宅がある。完全に矢田天満宮の境内。

いまでは、アレックスさんのコレクションであった屏風の絵をふすまに貼り、
広い空間に掛け軸や古美術が効果的に配されている
素敵な住居に生まれ変わっている。
こぢんまりとして庭園も望むことができる。
定期的に絵や美術品などは入れ替えも行っている。

アレックスさんが最初に見つけて購入したのは、
徳島県三好市祖谷(いや)にある古民家だった。
当時は大学生で、いわゆるヒッピーといった風体。
ヒッチハイクなどを駆使して全国を旅して回っていた。
四国に行った理由も特にあるわけでもない。
たまたま祖谷という秘境に行き、
そのミステリアスな場所がとにかく好きになった。
それから何度も通いながら、2年後に築300年の古民家を購入する。

「江戸時代からの古民家が、
まったく価値もなく、捨てられていることに気がつきました。
これなら貧乏な学生のボクでも、
家を持つことが可能かなと思って探し始めたんです」

まだ古民家に注目するひとなど皆無だったし、価値も認められていなかった。
そこにいち早く注目したアレックス青年。
勢い余って「勝手に雨戸を引き上げて中に入ってしまったこともあります。
不法侵入ですよね(笑)。しかしいま思うと、民俗学的ないい勉強になりました。
昔のひとたちの生活がそのまま残っていたので、
まるでタイムカプセルのようです」

ふすまには、古美術品である屏風が貼り直されている。

古いものをいまの時代に引っ張る。

2004年に、京都で京町屋の再生事業を始めた。
宿泊施設として古い町屋を直したが、
“日本人は来ない”と周囲から叩かれたという。
しかしやってみたらそんなことはなかった。
「直すにはいろいろなアプローチがあると思います。
もちろん本来ある空間や柱、素材は尊重したい。
でも、資料館的な修復には興味がありません。
江戸時代はこうだったとか言われても、僕たちは江戸時代に戻るわけじゃない」

だから、壁には断熱材、床には床暖房、
電気系統や水周りまで大胆にやり直すが彼のスタイル。
「いまの時代の僕たちが住める家でなくてはなりません」という言葉通り、
床で生活するライフスタイルから離れてしまった現代人を考慮して
少しはソファやテーブルも置く。

「古いものをいまの時代に引っ張ってくる」ことが自分の仕事だという。
昔のままに残すという杓子定規、一方で取り壊した後に無機質なパネル住宅。
その中間を実践してみせる。

本などではこれらを訴えかけてきたアレックスさんであったが、
京都の事業で実践してカタチをつくり上げた。
これ以降、全国で古民家再生をしながら、
観光で日本を盛り上げていきたいという。

「祖谷の古民家も宿にしていますが、祖谷に行く同じ時間をかければ、
下手したらホノルルやバンコクに行けてしまいます。
LCCを利用したら安いかもしれない。
つまり競争相手は世界なんです。
大型観光バスで行くような大味な観光ではなく、健全な観光。
自然にも地元にもやさしく、経済が回り、
文化が引き立つような未来型観光を目指したい。
それが私の考える地域活性化ですね」

アレックスさんが手がけてきた古民家も、
若い世代にも少しずつ注目されている。
まだ地方にはたくさんの古民家があるという。
それらは、若者たちの手によって、
宿に、飲食店に、ギャラリーにと再利用されている。
今後、「たくさんのクリエイターやアーティストなどを古民家に招いて、
コミュニティづくりをしていきたい」と夢を語る。

古民家というものが、
地方移住して何かを始めるというモチベーションのひとつになる。
そのような目的や利用方法があってこそ、UターンやIターンが成り立つ。
アレックス・カーさんの手がける美しい古民家は、
そのひとつのモデルだ。

部屋の中央ではなく、ふすまを開けた正面に机や美術品などが来るように計算されている。

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ALEX KERR
アレックス・カー

1952年アメリカで生まれ、 日本には1964年に初来日。エール大学で日本学、オックスフォード大学で中国学を専攻。1973年に徳島県東祖谷山村で茅葺き屋根の民家(屋号=ちいおり)を購入し、その後屋根の吹き替えを完成させ田舎の復活活動に取り組んできた。1977年から京都府亀岡市に在住し、篪庵有限会社を設立し、執筆、講演、コンサルティング等を開始。
京都を初め日本各地で文化講演、執筆活動などを続ける。
1993年著書『美しき日本の残像』(新潮社刊)が外国人初の新潮学芸賞を受賞。また、2001年には『犬と鬼』(講談社刊)を執筆し、日本が抱える「文化の病」を取り上げ、注目を浴びる。1977年からタイ(バンコク)に第二の拠点を構え、京都とバンコクを往来しながら文化活動を続ける。
2003年12月4日、京都に株式会社庵を設立、取締役会長に就任。京都では、京町家の保存を目的に京町家スティと日本の伝統文化体験研修事業をスタート。2005年に徳島県三好市祖谷で特定非営利活動法人篪庵トラストを設立。徳島県三好市祖谷での活動を積極化。2010年11月株式会社庵 退任。現在は、奈良県十津川村、香川県三豊市、徳島県三好市をはじめ、全国各地で地域観光振興のコンサルティングを行っている。
http://www.alex-kerr.com/

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