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特別編 未来を創る世界の現場
「チリ・パタゴニア」編 Part3
地球のどこにいても、生きていける
というタフさを求めて。

KAI presents EARTH RADIO
vol.039 StoryJ-03

posted:2013.2.22  from:チリ・パタゴニア  genre:活性化と創生

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  俳優・伊勢谷友介さんと放送作家・谷崎テトラさんが、
“未来を作る日本の現場”を求めて、さまざまな土地を巡ります。
コロカルでは、この「EARTH RADIO」を“読む”ための、連動連載をお届けします。

editor's profile

Tomohiro Okusa
大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影(メイン・本文内・プロフィール):Suzu(fresco)

パタゴニアにきて考えた、ライフスタイルの原点。

伊勢谷友介さんと谷崎テトラさんによるウェブラジオプログラム
「KAI presents EARTH RADIO」。
このEARTH RADIOの初代パーソナリティとして番組制作に関わっていた
中渓宏一さんは、現在パタゴニアに住んでいる。
北海道の小樽に住んでいたが、2011年3月11日の5日後、日本を出た。
どこに行くと決めていたわけではなかったが、
ひとつの経由地として、友人であるポール・コールマンさんが住むパタゴニアを訪れてみた。
そしてそこが気に入り、移住を決意。パタゴニアでの暮らしは約1年半となった。
番組の基礎をつくった中渓さんは、
今どんな思いで、どんな暮らしをしているのか。チリ・パタゴニアを訪れた。

もともと中渓さんは、日本の大手商社に勤めていた。
とても居心地のよい会社だったが、
逆に「このままで将来生きていけるのか、不安になった」と感じるほど、
自分への甘えが見えるようにもなってしまった。
そして商社でのぼりつめていく人生に違和感を感じるようになり、
6年勤めていた会社を退職し、2000年に放浪の旅に出る。
「地球のどこにいても、生きていけるというタフさを求めて。
地球にどんなひとが住んで、どんな営みをしているのか」見聞を広める旅。
このときから、
“生きていく”ことがどういうことなのか、を求める彼の作業が始まっていたのかもしれない。

4年ほど放浪生活を送ったが、ある時期、南アフリカのラスラーズバレーという
パーマカルチャーを実践しているコミュニティに滞在していた。
そのとき、そこに、世界に木を植えて歩いている男、
ポール・コールマンがやってきた(パタゴニア編Part1、Part2参照)。
彼との出会いは中渓さんに大きな衝撃を与えた。
どこにも属さずひとりで、個人で社会を変えていこうという姿勢。
そこに共感し、まずはアフリカの大地に木を植える活動を1年半、
ともに歩いた。その後、帰国してからは日本で木を植えて歩き、
日本にこの活動を広めるために全国を歩いた。

とにかく大自然。雪山と豊かな緑を同時に見ることができる。

仕事は、生きること。

しかし前述の通り、原発事故をきっかけに日本を出て、
現在ではパタゴニアに居を構えている。
チリの首都サンティアゴから飛行機でバルマセダ空港まで3時間。
そこからラフンタという村まで車で6時間。
そのラフンタから車で1時間ほど走り、
さらに草原や倒木や小川、そして牛フンを乗り越え、徒歩40分。
すると映画やテレビでしか見たことのないような素晴らしい風景が広がり、
ぽつんと中渓家が姿を現す。

丘の上に建つ中渓家。点々と写っている人間と比べると、そのスケール感に驚く。

ライフラインと呼ばれるものは何ひとつない。
電気、ガス、水道、すべてがない。
日本からここを訪れると、文明のありがたさが、急に頭をもたげてくる。
行き過ぎた文明を否定しがちな声が多いなかで、
大自然にいると文明が希望のように思えてくる。
それこそ“ライフライン”の意味を、字義通りの実感として理解できる。

日本では環境活動に7年ほど携わり、
自身のライフスタイルとしても表現したいと、小樽で生活していた中渓さん。
それでもパタゴニアに放り込まれてみると「選択の余地がない」という。
暖をとるため、料理のために薪を割る。飲み水を川から汲む。
それが「生きるために必要なこと」である。
つまりは生活が仕事。そこに身を置いてみると「心地よかった」のだ。

それは「自由である」ということとも同義だ。
「誰かがつくった社会の仕組みのなかで暮らすことしか
選択肢がなかった人生から、
知恵をしぼってやっていかなくてはならない人生へ」の転換は、
中渓さんの心をどんどん解放していった。
「これなら世の中、何が起こっても、身体ひとつあれば家族と生きていける。
そこに近づいていると思うと心が軽くなった」

「向き合っているのが自然なんですね」と、
取材に訪れた伊勢谷友介さんもいう。
「土地を選べば日本でもトライできる試みだと思います。
ライフラインというのは、本来、土地が与えてくれるもの。
生きることが仕事というのは、普通にありそうなことなのだけれど、
実はすごいことなのかもしれない」

日本という社会に生きていると、
これらを実感することが難しいし、忘れてしまいがちだ。
働くことが生きることと直結しているという感触というのは
いつの間にか得られなくなってしまったからだ。
しかしこうした暮らしや生き方は、現代文明というものを相対化してくれる。

どこを見ても安心する牧歌的風景。

ちなみに、“ウンコ”する場所も自由だ(笑)。
取材陣も全員体験したが、シャベルと小さなバケツに水を一杯持参し、
まずは最高に景色がいい“マイスポット”を見つける。
おもむろに穴を掘り(サイズは自分次第)、景色を眺めながらそこに用を足し、
手と水でお尻を洗い、何事もなかったかのように穴を埋める。

これは地球の循環の一部に戻ったような感触を得られる。
自然から得たものを排泄し、それが土に還り、そこから野菜が生える。
もしくは草が生え、それを牛が食べ、その牛から得たものをまた人間が食べる。
ここではそのサイクルをダイレクトに感じることができた。

シンプルに考えていけば、こういったことはパタゴニアが特別なのではなく、
日本でも、都会でも同じである。
そこにいろいろな複雑なシステムが導入されているので、見えにくくなっているだけだ。
私たちも、その本質となるシンプルなものを見据えて生活することはできるだろう。
中渓さんは、そんなシステムから解放され、
自由、そして生きる責任を得たのだ。

コヤイケというまちに出てきた、中溪ファミリーおでかけスタイル。

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KOICHI NAKATANI
中渓宏一

1971年シアトル生まれの鎌倉育ち。「地球上のどこにいても生きて行ける人間になりたい」と、6年間勤めていた三菱商事を辞め、転職後に世界放浪の旅に出る。途上、南アフリカのラスラーズバレーにてアースウォーカーことポール・コールマン氏に出会い、師事。以降「地球を歩いて木を植える男」となって、旅を続ける。

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