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特別編 未来を創る世界の現場
「チリ・パタゴニア」編 Part2
日本でも参考にしたい、
ポールさんの暮らしのヒント。

KAI presents EARTH RADIO
vol.038 StoryJ-02

posted:2013.2.15  from:チリ・パタゴニア  genre:活性化と創生

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  俳優・伊勢谷友介さんと放送作家・谷崎テトラさんが、
“未来を作る日本の現場”を求めて、さまざまな土地を巡ります。
コロカルでは、この「EARTH RADIO」を“読む”ための、連動連載をお届けします。

editor profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影:Suzu(fresco)

手づくりのアースバックハウスに住む。

伊勢谷友介さんと谷崎テトラさんによるウェブラジオプログラム
「KAI presents EARTH RADIO」。
パタゴニア編の第2回はポール・コールマンさんのお家づくりについて。
家を手づくりすること、そこで生活すること。
パタゴニアだからできるのではないか?
そんな疑問を振り払うように、
ポールさんの生活には、人間の生活の原点があった。

ポールさんの家は、小高い丘の上に建っている。
とにかく景色が最高である。
ポールさんも当然、この景色を毎日見たいという思いからスタートして、
この家を建て始めた。
「最初に、窓をどこにするか決めました。
この方角に大きな窓をつくって、外の景色に向かって座るようにしようと」

奥さんの菊池木乃実さんは、早朝の景色もお気に入りだ。
「ここは標高はそれほど高くないけど、低い雲ができるから、
朝早く起きると雲海で下界が見えなくなっていることがあって、
その景色が天国みたいで最高です」

ポールさんと木之実さん

ふたり仲良くインタビューに応えてくれたポールさんと木之実さん。

日本で家を手づくりするということは、簡単ではないように思えるが、
ポールさんが採用したアースバックハウスという工法は、
以前にこのEARTH RADIOの連載にも登場した
安曇野の臼井健二さんも実践している。
作り方自体はとても簡単。
土や砂を袋につめたいわゆる土のうを積み上げて、家の壁としている。
土の壁は、日中、日が当たっているときに熱を蓄え、夜間に放出するため、
夏は涼しく、冬は暖かい。

家の周囲3メートルには、丘の斜面をそのまま利用して傾斜をつけ、
その地下には断熱材を敷き詰めている。
そうすることで、水は斜面を流れて落ちていくので
家の周囲の土には染み込まなくなり、
年月を重ねるごとに土が乾いていく。
土は乾いているとどんどん熱を吸収し、
その熱は冷たいところを探して、家の中に熱気が入ってくる。
「家を建ててから1年経ったこの冬から効果が出始めました」と、
日本、特に都会に住んでいるひとからしたら、気の長い話。
暖房用に使う薪の量が減って、
「断熱材で使った費用は1年で取り戻せましたね」という。

「しかもすごく静か。外は結構風が強かったはずなんだけど、
まったく無音だし、この完璧な借景の前にずっと座っていられる」と、
伊勢谷友介さんもこの家の気持ち良さを体感した。

この家は3年かけて、コツコツと自分たちの手づくりで建てられた。
家というものは、手作業でつくれる最大のものではないか。
いわば究極のかたち。
物理的な難しさだけでなく、
自分のそこでの生活をイマジネーションしていくものだ。
「ライフスタイルやこだわりなど、
自分との対話を通して組み上げていくものかもしれませんね」
そんなポールさんにとっての対話の結果が、
景色もよく、滞在していて快適なエコハウスをつくり上げたのだろう。
家、そして生活をじっくりと見つめ直す。
これもパタゴニアでなくても、我々でもできること。

屋根の一番上にはニコちゃんマーク

屋根の一番上にはニコちゃんマークで愛嬌たっぷり。

環境負荷の少ないライフスタイル。

まず朝起きると外からハーブなどを摘んできてジュースをつくる。
バナナにオレガノ、コリアンダー、ほうれんそう、きゃべつ、きゅうりなど。
「この間は18種類いれました」というから、健康的だ。
電気ミキサーでつくることもあるが、手で絞ることも多い。
出来上がるまで1時間かかるというが、「すごーくおいしい」そうだ。
その搾りかすはパンケーキにいれて食べる。まったくムダがない。
そのパワーが身体に吸収されるころになると、外にでて畑仕事などに精を出す。

野菜と果物とハーブと花を合わせて80種類程度育てている。
「村のひとは“ここではそんなにできないよ”と言うんですが、
やってみればつくれます。
だから言葉で説得するより、自分たちで実際にやってみせたほうが早い」

野菜や果物、ハーブなど80種類ほど育てている畑

ラベンダー、セージ、イタリアンパセリ、ローズマリー、カモミール、ルバーブ……。もちろんすべてオーガニック。牛フンと生ゴミなどを肥料化するコンポストを使用する。

かつては足りないものを畑から補っているあ感覚だったが、
最近では逆転し、自給率はかなり高くなっている。
食べる野菜のうち70%くらいは自給、秋の収穫時期になれば90%を超える。
「買うのはバナナとワインくらい(笑)」
最近はじゃがいもをたくさんつくっているという。
「米や麦は自給できないけど、
逆に自給できるものを食べよう」という意識変革は、
まさに“土地のものを食べる”。その土地に正直な姿だ。

飲み水は川にくみに行く。
水場はすぐ近くにあるが、あまり水量があるわけではないので、
夏に晴れが続いたりした日には涸れてしまうこともある。
畑に使用する水は貯めておいた雨水を利用。

日本のように、どこでも何でも手に入る生活とは違う。
不便だと思うひとはいるだろう。
しかし不便を逆転させるように意識をすれば、たいしたことではなくなる。

なるべくゴミも出さない。
生ゴミはコンポストとして使用し、紙類は薪ストーブで燃やしてしまう。
ビンや缶は花壇のふちに使うなどしてリユース。
残るゴミはプラスチックの袋などだが、
「1年間で50リットルの袋がひとつ」という驚きの少なさ。
それすらも自分の敷地内に埋めているので、
まったく外にゴミを出していない。
この地域ではゴミは何でもかんでも埋めているらしく、
「どこかに埋められてほったらかしになるよりは、
自分の土地で責任を持って処理したほうが、
はるかに環境に対してインパクトが少ない」と考える。
ゴミが収集された先を考えるということは、日本ではほとんどない。
ひとつの示唆を与えてくれるようだ。
自分が出したものの行き先に対しての責任。ここにはその感覚がある。

龍樹庵」と名づけられている場所

この場所は「龍樹庵」と名づけられている。偶然つけた名前だが、チベット仏教の中核を成したといわれる僧の名前だった。

この土地はもともと牛が100頭くらい放牧されていて、荒れていたという。
買ったときは、木が1本しか生えてなくて、植物もぜんぜん生えてなかった。
そこから「この3Dのキャンパスを美しくしていこう」という
ポールさんの試みが始まったのだ。
この敷地をつくり上げるのは、
ポールさんにとってアートであり、ものづくりのようなもの。
完成図を思い描いているわけではなく、
やりたいこと、必要なことから手をつける。
だからドンドン広がっていくのだ。

「誰が来ても美しいと思ってもらえるような土地にしたい。
そして来たひと全員がリラックスできるような場所にしたい。
ここから帰ったら、
ここに来たことすら忘れてしまうくらいリラックスしてほしい」と
ポールさんは、ここの未来の姿を語る。
いやいや、あんな素晴らしい景色、忘れようがない。
残念ながら、あの景色だけは、どうやっても私たちは真似することができない。
しかし、同じ地球上にあの景色が残っているということを
心に留めておくことはできる。
あの風景を目の前に見れば、
壊してはいけないという気持ちが素直にわいてくるはずだ。
そしてその姿が、日本でも原風景であったことを意識しておきたい。

もっとエクストリームな生活を想像していたが、
彼らのライフスタイルはそのまま日本の田舎に持ってきても成り立つ。
ポールさんの生活は、日本でも参考になることばかり。
それを遠い地から、自分の体験を通して、伝えてくれる。

ポールさんと中渓宏一さん

夕日をバックになにやら相談中のポールさんと中渓宏一さん(Part3、Part4のインタビューに登場)。20時でもこの明るさ。

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PAUL COLEMAN 
ポール・コールマン

1954年、イギリス、マンチェスター生まれ。作家、ジャーナリスト、講演者。日本人の妻(菊池木乃実)とチリのパタゴニアにあるラフンタ村に住み、とてもユニークな「土と草の家」を作っている。これまでに、5万キロ、世界39か国を歩いて、木を植えてきた環境活動家でもあり、「アースウォーカー」としても知られている。1994年から、国連ピース・メッセンジャー・イニシアチブ「カルチャー・オブ・ピース」の大使も務める。おとぎ話を書くことをこよなく愛し、おとぎ話を現実にすることも得意。

関連書籍:「木を植える男 ポール・コールマン」菊池木乃実著(角川書店)、「感動ストーリーズ 第10巻 終わりなき夢」(学習研究社)、「地球を歩き、木を植える人 ポール・コールマン」(グルムコ社・韓国語訳のみ)

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