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未来を創るニッポンの現場
「高知 梼原・土佐山」編 Part3
次世代に残したい地域の感性を
掘り起こす。

KAI presents EARTH RADIO
vol.035 StoryI-03

posted:2013.1.25  from:高知県高知市土佐山桑尾  genre:活性化と創生

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  俳優・伊勢谷友介さんと放送作家・谷崎テトラさんが、
“未来を作る日本の現場”を求めて、さまざまな土地を巡ります。
コロカルでは、この「EARTH RADIO」を“読む”ための、連動連載をお届けします。

editor profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影:Suzu(fresco)

現代の学びの場は、土佐山より出ず。

伊勢谷友介さんと谷崎テトラさんによるウェブラジオプログラム
「KAI presents EARTH RADIO」。

高知編の第3回は、高知市街地から車で30分ほど山をのぼった
土佐山エリアへと場所を移す。
ここを拠点に活動している土佐山アカデミー。アカデミー、つまり学校である。
なぜこの中山間地に学校をつくったのだろうか?

「この地域(旧土佐山村)は、昔から社会教育の村でした」
と教えてくれたのは土佐山アカデミーの発起人であり、
プロデューサーの林篤志さん。
“自由は土佐の山間より出ず”という言葉も残っているほど、
かつては自由民権運動が盛んな土地柄で、
学校教育という枠を超え、地域一体となって学びを重要視してきたようだ。

「おじいちゃんおばあちゃんに話をきくと、
“村から選抜されて海外に研修に行った”
“外から講師を招いて教えてもらった”など、
学びに対して、かなり高い意識を持って実践してきたようなんです」

これを“社学一体”と呼んでいる。
土佐山地域が行ってきた、地域社会全体でひとを育てる学びである。
昔から社会や地域をどのようにつくっていくか、議論し行動する風土があった。
この教育スピリットを受け継ぎ、
土佐山アカデミーでは世の中に発信する学びの場を目指している。

「土佐山には、次の世代に残していかなくてはいけない
知恵や資源が眠っています」と林さんは言う。
そうしたフィールドにひとが集まって、
情報交換したり、学び合ったり、実験したりすることができるアカデミーだ。
さまざまなひとたちが出会い、アイデアを生み出していく。
「受け継がれてきたものと、都会からの新しい発想を融合させたい。
目指すのは、知恵と知恵の交換です」

土佐山に残されているもののひとつは、豊かな自然環境。
自然と共生する感覚を養うことができるのも、
土佐山であることの大きな意味だ。
「本物の自然が残っていることが大きい」と林さんも言う。
確かに川は東京にもあるが、護岸整備されていたり、
生き物が棲んでいなかったりと、本来の川の姿ではない場合が多い。
「本物の自然」のなかに物理的に身を置き、見てみる、触れてみる。
田舎に住むとか自給自足までしなくても、
「自然の一部として生きていくということが何なのかということを
考えることにつながっていく」と、
林さんは実体験としての感覚を持ってほしいという願いを込める。

「夢産地とさやま開発公社」理事の大崎裕一さん(右から2番目)。ほかは土佐山アカデミーの面々(左から木下敦子さん、林篤志さん、内野加奈子さん、ひとりとばして山本堪さん)

土佐山アカデミーと同じ建物に事務所を構える「夢産地とさやま開発公社」理事の大崎裕一さん(右から2番目)。「キミガイイ。」というたまごや「土佐山ジンジャーエール」の生産者だ。ほかは土佐山アカデミーの面々(左から木下敦子さん、林篤志さん、内野加奈子さん、ひとりとばして山本堪さん)。

土佐山×知恵×知恵……、永遠のかけ算。

これまでに行われてきた具体的な短期プログラムとしては、
土佐山の素材を活かした仕事(ナリワイ)づくりのワークショップを開いたり、
在来種や固定種の重要性を勉強する場をつくったり。

そのなかでも土佐山アカデミーのディレクター内野加奈子さんが、
最近開催されて面白かったと話すのは
「匂いのハンティングロードを巡る」という1泊2日の短期プログラム。
京都の〈匂いの抽出師〉山本美広さんを講師に招いて、
土佐山の自然から匂いを抽出するワークショップ。
山本さんは土佐山に来た途端に
「この場所はすごくいい匂いがする!」と言った。
まずは彼女が、木や花や土など、土佐山の自然から匂いをハンティングしていく。
そうして彼女の鼻を通した「匂いのハンティングロード」が完成した。
ここに一般受講者も参加し、一緒にハンティングロードをめぐっていく。
山本さん、受講者、地域住民が一緒になって、
森から匂いの素をハンティングし、たくさんの匂いのエッセンスが完成した。

抽出師の山本さんは、プロフェッショナルのスキルを持っている。
しかし土佐山という豊かな匂いのフィールドを持っていなかった。
一方、土佐山では匂いに注目したこともなかった。
「そのふたつをかけ合わせることができたのは、
アカデミーが理想とする姿です」と内野さんは意義を見いだす。

もうひとつ、ステキなかけ算が起こった例として「生姜大収穫祭」がある。
土佐山は昔から有機しょうがの産地だ。
当然、土佐山地域に昔から伝わるしょうが料理もある。
ここに東京からしょうがの本も出版している料理家の嶋田葉子さんを招き、
一緒に収穫し、採れたてを地元のおばちゃんと料理コラボする。
おばちゃんがつくるのは地元ならではの料理。
しかし嶋田さんはじめ、外からきたひとたちは違う視点で料理していく。

「双方の視点が交わる瞬間、なにか新しいものが生まれる瞬間というものを
つくっています」と、これもかけ算をつくりだす仕組みだ。
かけ算の答えはどうなるかわからない。
やってみないと何が生まれるかわからないから面白い。

土佐山ジンジャーエール

土佐山の有機JAS認定のしょうがを使った「土佐山ジンジャーエール」。プレミアム(辛口)とマイルドがある。

短期プログラムを体験したら、さらに発展版として、
3か月の滞在型プログラムも用意されている。
たくさんのコマがあり、さまざまなことを学んでいくことができる。
なぜなら土佐山アカデミーは、スキルを身に付けることが目的ではなく、
暮らしのありかた、自然のなかでの人間の役割という
大局的なものの見方を学ぶことが目的だからだ。

さらに長期では、土佐山に住み、
具体的なプロジェクトを始めるひとも後押ししてくれる。
土佐山の木を使ってプロダクトをつくる、
土佐山の食で地域に深く入り込みたいなど、
「新しい価値を生み出すことに挑戦できるフィールドがたくさんあるし、
多くのひとがアクセスできる場所と機会を提供したい」と林さんは話す。

土佐山アカデミーは、次世代に残したい地域の感性を掘り起こしていく。
しかし、そもそも掘り起こすものがなくなってしまう可能性だってある。

「いままで人間がずっと培ってきた、
素材や環境を活かす知恵や能力が消えてしまうのが怖いんです。
そのために、先代からのバトンをできる限り取りこぼさないようにキャッチし、
受け取ったバトンをきちんと次の世代に受け渡したい」
その入り口を、土佐山アカデミーで学ぶことができる。

「土佐ジロー」のたまご「キミガイイ。」

高知原産の天然記念物「土佐地鶏」の雄とアメリカ原産の在来種「ロードアイランドレッド」の雌を交配した一代雑種「土佐ジロー」。そのたまごが「キミガイイ。」。プレゼントに最適のネーミングセンス。

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ATSUSHI HAYASHI 
林 篤志

土佐山アカデミー発起人/プロデューサー。愛知生まれ、豊田高専卒業後、システムエンジニアを経て、独立。さまざまなプロジェクトの立ち上げに携わり、2011年、高知・土佐山にて「土佐山アカデミー」を共同設立。現在、学びの場・食・地域をフィールドに横断的に活動中。

土佐山アカデミー:http://tosayamaacademy.org/

Facebook:http://www.facebook.com/tosayamaacademy

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