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未来を創るニッポンの現場
「岐阜 明宝・飛騨高山」編 Part2
妄想を実現するNPOをつくる。

KAI presents EARTH RADIO
vol.026 StoryG-02

posted:2012.11.16  from:岐阜県郡上市・高山市  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  俳優・伊勢谷友介さんと放送作家・谷崎テトラさんが、
“未来を作る日本の現場”を求めて、さまざまな土地を巡ります。
コロカルでは、この「EARTH RADIO」を“読む”ための、連動連載をお届けします。

editor's profile

Tomohiro Okusa
大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影(メイン・プロフィール):
Suzu(fresco)

勝手な妄想が、集落の未来をかたちづくる第一歩。

伊勢谷友介さんと谷崎テトラさんによるウェブラジオプログラム
「KAI presents EARTH RADIO」。
岐阜県郡上市の第2回。
前回お届けした「ふるさと栃尾里山倶楽部」の活動の影響で、
郡上市に移住してくるひとたちも出てきた。

東京から岐阜県に移り住んだ小林謙一さんもふるさと郡上会の活動を通して、
郡上市への移住推進を行っている。
もともと小林さんは、コンピュータグラフィックス(CG)の仕事をし、
奥さんは出版社に勤める編集者だった。
都会での仕事をやめ、自然豊かではあるが、
雇用も少ないこの地へと移住を決意した理由は、何だったのか。
「CGの仕事は、常に100メートルダッシュをやっているような感じでした。
楽しかったけど、長くは続かないだろうなと思っていたので
40歳でやめようと思っていたんです。そして40歳が近づいてきたとき、
お金は貯まってないし、このまま都会にいて幸せになれる気もしなかった」
と小林さんは東京で感じた限界を話す。

水のまちである郡上市。ビールが冷やされていたことはご愛嬌。

そんなときに岐阜県立森林文化アカデミーという学校を目にし、
なんと学生として入学することにする。
当初は「学生なら地域に入りやすいかな(笑)」という単純な気持ち。
しかし、勉強を進めていくうちに
自分の中に“地域”という概念がまったくなかったことを理解する。
「東京にいたときは、隣近所が誰かも知らないし、
町内会にも入っていない」というのは、
東京に住んでいるひとたちならみんなが頷く状況だろう。

移住推進という仕事と同時に、
その学校の研究テーマとして郡上市の明宝エリアを選び、
ふるさと栃尾里山倶楽部に出会うことで、どんどん深くコミットしていく。
「明宝のひとたちは、“こうじゃなきゃいけない”という発想ではないんですよね。
“みんなでやりたい”が発想のスタート。
そんな場所だったから、地域に関わらせてもらいながら、
生活していきたいと思った」
こうして地域研究からスタートした小林さんと明宝の関わり。
一度はレポートをまとめたが、
「小林が移住するとその地域は良くなるのか? 自分は幸せになれるのか?」
という自分自身を使った実証実験は継続中のようなもの。
というより答えなんてあるのだろうか。
「これは難題ですね。
自分は地域で何ができるのか、常に考えながら生活しています。
ひとつ明宝で感じたことは、地域づくりは地域だけが良くなることではない。
都会ともつながっているし、世界ともつながっている。
そういうつながりのなかで、自分たちが良くなること。
それはすなわちみんなが良くなることにつながるんです」

小さな集落であることがわかる手描きマップ。

NPO法人ななしんぼの、名乗る名もない活動とは。

ふるさと栃尾里山倶楽部での活動が活発になるにつれて、
明宝地区でさまざまな活動が興り、
住民からもまちづくりの面白いアイデアが自然と聞かれるようになった。
それらをつなぎ、実現していく新しいNPOが発足する。
NPO法人「ななしんぼ」は、名前のないひと、という意味で、
地域の黒子となって縁の下で支えていきたいという思い。

そのユニークな活動のひとつとして「MOSO塾」がある。
とりあえずは無責任でもいいから、明宝の未来について、
酒を酌み交わしながら話しあう会。これだけ聞いたら、ただの飲み会だ。
でもお酒の勢いを借りつつ「夢=妄想」を語っていると、
いいアイデアが思い浮かぶなんて経験もあるだろう。

例えば「明宝トンネル手掘りプロジェクト」。
明宝のなかの小川地区は峠をこえないと行くことができず、行き来が不便。
だからダイレクトにトンネルを掘ってしまえ、という大胆な案。
もちろん公共事業なので、そんなに簡単なことではない。
「それならまずは自分たちでつるはしを持って掘り始めてみようと。
そうすれば、それを見た全世界のひとたちから
お金が集まるかもしれない(笑)」と、
冗談とも本気ともつかない話をして笑うななしんぼ代表の畑佐晴之さん。
ほかにも、山羊を飼育して草刈りに困っているお年寄に貸すとか、
シングルマザー特区としてシングルマザーに移住してもらい、
集落みんなで子どもを育てるなど、実現したらいいなぁと思わせる妄想もたくさんある。

これらは言い出した張本人が発起人となり、賛同者がふたり以上集まれば、
“妄想認定”され、MOSOシートに記録が残される。
「“これは無理だろ”とか、“誰がやるの?”などの言葉はNGワードです。
でも、単なるグチはあまり出てきませんね。
お酒を飲んで気が大きくなっているのか、否定することなく、
ひとの意見に夢をかぶせてかぶせていきます」とやりたいことを上積みし、
ただの妄想から未来へ向けた妄想へと磨かれていく。
かたちに残しておけば、いつか本当に実現する日がやってくるかもしれない。
事実、ななしんぼ自体もMOSO塾で出てきた
「妄想を実現するNPOをつくろう」という妄想が実現したものなのだ。

MOSOシートには発起人がタイトルとPRポイントを書きこむ。この束が、明宝の夢のかたまりだ。

お酒を飲みながらだったり、妄想というライトなところが楽しそうだ。
エントリーの敷居は低いくらいがちょうどいいのかもしれない。
「地域づくりというと、どうしても問題があるという前提だったり、
これに困っていますよね、という話からスタートしがちなんですが、
MOSO塾では“楽しい”から発想して選択していきたいんです。
例えば地域で役割を担っている方は、
自分の立場を離れて意見を言うことはなかなか難しいそうなんです。
でもMOSO塾では“何言ってもいいや”って楽しんでくれますよ」と
小林さんが言う通り、妄想の力は無限大。

NPO法人ななしんぼがやることは「決まっていない」。
裏方となって、見えないところで地域をつなげていく。
次の飲み会で何を妄想しようかなと、住民が思い浮かべることこそが、
明宝の未来だ。

明宝地区の名物料理「鶏ちゃん」。もともとは鶏の内蔵もすべて使い、各家庭のオリジナル味噌で味付けする。「ひとが集まると、とりあえず大きな鉄板でビールとともに鶏ちゃんをつまみます」とめいほう鶏ちゃん研究会会長の小池弘さん。

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YUICHI OKIDA
置田優一

2009年5月、郡上市明宝二間手の下組という16世帯の小さな集落で「ふるさと栃尾里山倶楽部」を仲間とともに結成。築107年の古民家「源右衛門(げんねもん)」の再生を皮切りに、栃尾里人塾、子ども寺子屋エコキャンプ、おときご飯、地域おこし応援隊事業、岐阜県が環境省の事業として源右衛門に導入した「チャレンジ25地域づくり実証事業」などの実現を裏方として支える。これらはすべてプライベートの活動であり、本職は郡上市役所職員。
ふるさと栃尾里山倶楽部 http://www.musublog.jp/blog/tocyo/
郡上市 http://www.city.gujo.gifu.jp/

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KENICHI KOBAYASHI
小林謙一

埼玉県生まれ栃木県育ち。現在の本籍である千葉県で高校を卒業後、東京に住み約20年間プロデューサー、ディレクターとしてコンピューター・グラフィックスを中心に映像制作に関わる。40歳での退職を目指して林業講座、自然農、先住民族の教えなどを学びながら、森に関わる暮らしを目指す。2008年、県立森林文化アカデミーに入学するため岐阜県に移住。地域づくりに関心を持ち、2009年より郡上市交流・移住推進協議会の職員として従事。移住相談窓口の業務をしながら、郡上のさまざまな地域活動に参加する日々。
ふるさと郡上会 http://www.furusato-gujo.jp/

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HARUYUKI HATASA
畑佐晴之

1962年岐阜県生まれ。高校卒業から約20年間東京で暮らす。40歳を前に長男であるという使命感から郷里の岐阜明宝にもどり、家業である養豚業を手伝うかたわら焼肉屋を経営。たんなる飲食店ではなく、地域での各世代が交流できる空間づくりを目指す。また食による地域おこしの団体「めいほう鶏ちゃん研究会」の副代表をつとめ、ご当地グルメの祭典「B-1グランプリ」に出展。2012年9月には中間支援組織ななしんぼを設立。地域の団体、企業、個人を有機的にリンクさせる事業に取り組んでいる。
NPO法人ななしんぼ http://nanashinbo-meiho-gujo.blogspot.jp/
めいほう鶏ちゃん研究会 http://keichannosato.com/

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