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未来を創るニッポンの現場
「島根 隠岐諸島 海士町」編 Part4
島がまるごと学びの場になる。

KAI presents EARTH RADIO
vol.024 StoryF-01

posted:2012.10.26  from:島根県隠岐郡海士町  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  俳優・伊勢谷友介さんと放送作家・谷崎テトラさんが、
“未来を作る日本の現場”を求めて、さまざまな土地を巡ります。
コロカルでは、この「EARTH RADIO」を“読む”ための、連動連載をお届けします。

editor's profile

Tomohiro Okusa
大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影(メイン・プロフィール):
Suzu(fresco)

阿部さんが海士町民からもらった名言集。

伊勢谷友介さんと谷崎テトラさんによるウェブラジオプログラム
「KAI presents EARTH RADIO」は、島根県海士町編の最終回。
阿部裕志さんが代表をつとめる「巡の環」が取り組んでいる事業のなかで、
最も力を入れていきたいというのが教育である。
その中心となる「五感塾」では、島まるごと学びの場として、
漁師や農家、主婦、宮司、ときには高校生までが
「島の師匠」として先生となる。つまり普通の海士町民である。
仕事力を向上させるには、その元となる気づく力や感じる力、
学び方という根本的な人間力を伸ばす必要があると考えた。

今では、さまざまな企業や大学、自治体などが「五感塾」に参加している。
具体的には、企業などの問題点と海士町の問題点の相似関係を見いだして、
そこからヒントをみつけていこうという作業を、
フィールドワークと地域のひととの対話(ダイアログ)を
掛け合わせてつくっていく。

これは地域のひとの人生や志にふれていくことになる。
心のコアな部分に入っていくので「信頼関係が大切」と
阿部さんは難しさを語る。
「自分の人生を語ってもらうなんてことを、
他所からパッと来て、“さぁどうぞ”と言われても……。
日々の関係性のなかで築き上げてきたものがあるからこそ、語ってもらえるんです」
当然、島にもひとの心にも、土足でズカズカ踏み入ってはいけない。
阿部さんは、地域のひとの気持ちの動きに、細心の注意を払っている。

阿部さんももちろん、海士町のひとの話をたくさん聞いている。
それは思わずうなってしまうエピソードが満載だ。
100人いれば、100通りの人生。
それに触れながら、自分はどうなんだろうと考えるきっかけになっていく。
そこで、海士町のパーソナリティの一部が垣間見られる、
「コロカル五感塾」をほんの少しお見せしよう。

まずはある漁師さんのお話。
10人ほどで結成されている定置網漁船団のリーダーである。
企業の組織論と定置網の組織論で、
学び合うところがあるのではないかと、話を聞いたという。
漁師は命がかかっている。
下手したら命を落としかねない現場に毎日自分の部下を送っている。
そのときリーダーは何をしなくてはならないのか。

そのリーダーは、毎朝誰よりも早く出社して、
お茶を入れてみんなを待っているという。
普通なら、社長が先に来てお茶を入れて従業員を待っているなんてことはない。
しかしその漁師いわく
「親が子どもにお茶を飲ませたいと思うのは当然。親心だ」
さらに、みんなの誕生日を書いた紙が事務所に貼ってあり
「その日はメシをつくってやるんだ」
見た目は少しいかつい漁師が、普通にそんなことをしている。
これはそのときに話をきいた企業にもかなり響いたらしく、
「押しつけばかりしても、ひとの心が動くわけがない」
という教訓を持ち帰ったらしい。

取材陣が宿泊した中村旅館にて、ご主人の中村徹也さんを交えて食事会。阿部さんは地元の人にすっかり溶け込んでいる。

ゴマが干されていた軒先。海士町のいつもの風景。

島ではみんな見てくれている。

島のみんなを親戚のように感じている阿部さん。
その親しさは、煩わしさもあるが良さでもある。
それを物語っている阿部さん本人のエピソードがあった。

ある日、船で沖に出た阿部さんは、その日は無人島でキャンプし、
港には戻らなかった。その無人島は携帯電話が圏外。
翌日帰ると、同じ港に船を泊めている漁師から
ものすごい数の着信履歴があった。折り返してみると
「遭難しているのかと思った。あやうく海上保安庁を呼ぶところだったぞ」
と怒られた。阿部さんは言う。
「びっくりしたのは、僕の船を毎日見てくれていたということです。
やさしさと煩わしさは表裏一体のカードだと思っています。
僕はこういうやさしさやあたたかさが好き。
でもそれがないと、遭難しても気がつかれないんですよね。
こうして助け合っていることがわかりました。
それからは、帰らない日は必ず仲のいい漁師にメールするようにしました(笑)」

また、あるおじいちゃんから聞いた話で、
阿部さんは、人生を、自分の一生だけで考えてはいけないとわかった。
そのおじいちゃんは70代後半。毎日幸せだというので、
「逆に不安はありますか?」と訊ねた。
すると、なんと老後(!)だと答えた。
「思わず吹き出しそうになってしまいました。
このおじいちゃんにとっては、動けなくなってからが老後なんですね」と
阿部さんも苦笑い。70代後半は医療制度的には後期高齢者だが、
このおじいちゃんにとってはそんなもの関係なかった。
「“代々受け継いだこの土地を残していかなくてはならない”といったような、
自分の寿命を超えた時間軸でものごとを語っているんです。
これを聞いて、頭ではわかっていたけど、初めて心にストンと落ちました。
やっと自分ごとになれたんですね。それで判断基準が変わってきました」

海士町に住み、五感塾を通して、
島の師匠たちから一番学んでいるのは阿部さん本人かもしれない。
こうして海士人らしい人間力をどんどん向上させる。
その根本はやはり、海士愛。

「稲刈り後に使う“えいそ”という縄をわらで編むんですが、
事務所におじいちゃんおばあちゃんが編み方を教えに来てくれるんです。
それをIターン者も手伝いに来てくれる。
僕がパソコンかたかたやっている横で、みんなで編んでいる。
そんな日常の風景が大好きなんです」と阿部さんはやさしく微笑んでいる。

「巡の環」事務所内に、大量に積まれていた「えいそ」。

朝、港から頂いてきたイカが、そのまま朝食に刺し身として並ぶ最高の贅沢。

profile

HIROSHI ABE
阿部裕志

株式会社「巡の環」代表取締役。愛媛県生まれ愛知県育ち。
京都大学大学院(工学研究科)修了後、トヨタ自動車入社。生産技術エンジニアとして新車種の立ち上げ業務に携わる。しかし現代社会のあり方に疑問を抱き、新しい生き方の確立を目指して入社4年目で退社。2008年1月、株式会社「巡の環」を仲間と共に設立。2011年4月より海士町教育委員に就任。大学在学中から自給自足できるようになることを目指し、アウトドアや農業を通して大自然の雄大さ、命のありがたみを学ぶ。海士町に来てからは素潜りにハマる。http://www.megurinowa.jp/

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