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未来を創るニッポンの現場
「島根 隠岐諸島 海士町」編 Part3
キーワードは“相互理解”。

KAI presents EARTH RADIO
vol.023 StoryF-01

posted:2012.10.19  from:島根県隠岐郡海士町  genre:活性化と創生

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  俳優・伊勢谷友介さんと放送作家・谷崎テトラさんが、
“未来を作る日本の現場”を求めて、さまざまな土地を巡ります。
コロカルでは、この「EARTH RADIO」を“読む”ための、連動連載をお届けします。

editor's profile

Tomohiro Okusa
大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影(メイン・プロフィール):
Suzu(fresco)

“よそ者”だからこそ、よりていねいに、心から。

伊勢谷友介さんと谷崎テトラさんによるウェブラジオプログラム
「KAI presents EARTH RADIO」。
島根県海士町編の3回目は、実際にIターン者が移住して起業した
「巡の環(めぐりのわ)」という会社のお話。
「巡の環」の事務所は、町役場の敷地内にある。
それだけで、海士町で受け入れられていることがわかる。
海士町に移住して起業するのは、なぜか大手企業を辞めたひとが多い。
「巡の環」代表、阿部裕志さんもトヨタ自動車に勤めていたキャリアを
投げ打って海士町に移住して起業したひとり。

阿部さんは、大学時代から有機農業研究会やアウトドアサークルに属し、
田舎暮らしや自給自足などに興味があった。
あるとき、海士町に移住したトヨタの同僚から島の話を聞き、
訪れてみたのが6年前。そのとき地元のひとも、Iターンも、Uターンも、
分け隔てなく“どうすれば島が良くなるか”という議論を普通に交わしていた。
その光景を目の当たりにし、
「島がひとつになっていると感じた。痛烈に仲間に入れてほしいと思った」
と阿部さんはいう。
そして1年後には海士町に移住。
同時期に移住しようとしていたふたりと意気投合し、まずは3人で起業した。

「土地の声が聞こえるようになるまで、動きたくないと思っていました」
というのが、当初の阿部さんの気持ち。それは前職での経験に基づいていた。
工場で生産ラインをつくる仕事をしていた阿部さんは、
年上の現場作業員にも効率アップのために改善策を指示しなくてはならない。
しかし作業員からは「オレはこれを毎日200回、20年間やっているんだ」
と理解されずに苦労する日々。
「そういうひとに納得してもらうには、自分が実践しなくてはならないんです」
だから、阿部さんはラインが止まっているときに、
自分が思う改善策を練習、実践してから作業員に提案するようにした。
「信頼関係なしに、人は動きません。
自分がやって初めて説得力が生まれるということを、
痛いほど叩き込まれてきました。だから海士町に来ても、
農家さんや漁師さんに、“こうやったら売れますよ”なんて簡単には言えません。
まずは一緒に魚を網から外し出荷のお手伝いをすることから始めました」

こうした積み重ねだけが、島のひとの本当の信頼を得る手段。
この作業に2、3年はかかるだろうと想定し、
最初の2年間は「外に出ない、外を見ない、メディアに出ない。
そして飲み会にはすべて顔を出し、最後まで飲む(笑)」という
鉄の掟を自らに課した。
まずは役場、農家、漁師などにお手伝いに行ったり、
何でも屋としてご用聞きをして回る日々。
そうすることで、まずはまちのニーズを知ろうとした。
そのなかで、農家はもちろん担い手が足りないが、
それ以前に販路が少ないという事実を知り、
「海士webデパート」という野菜やお米を販売する通販事業を始めた。
また、月1回東京で「AMAカフェ」というイベントを開催、
直接的に海士町とふれ合うことができる場をつくった。
ゲストを迎えたトークセッションや海士町のおいしい食べ物が食べられる。
なんと阿部さん自身が潜って獲ったサザエが食べられることも。
他にも海士町での田んぼツアーや、企業を迎えた研修事業「五感塾」など、
事業内容は多岐にわたる。

島に伝わる「はで干し」という天日干しにしたひとつむぎ米。島のひとのご縁を大切にする思いを広く紡いでいくという意味で、おみやげ用の1合米。海士webデパートで購入できる。

地域活性化とは、地域の何を残すことなのか?

「巡の環」は“相互理解”を大きなキーワードにして活動してきた。
Iターン者であるだけに、より一層努力したに違いない。
と言うと、すごく謙虚な答えが返ってきた。
「それより、地元のひとの受け入れる懐の深さだと思います。
よくもまぁ、こんなにも“いいよ”って言えるなと(笑)。
普通に考えたら、不安だし変化が怖いはず。
みんなの懐の深さに支えられています」
前々回の山内町長へのインタビューでは、「町民は陽である」と言っていた。
“よそ者”を受け入れてくれる土壌があるからこそ、
Iターン者が生き生きと活動できる島となり、
日本のローカルの優れたモデルとなったのだろう。
日本の未来はローカルにあり。
阿部さんもそれには賛同するが、
「無理に行われている地域起こしには、なんだか抵抗がある」ともいう。
「僕は地域活性化とか実は好きではなくて。
それより新しい生き方を実践しようとがんばっています。
僕が海に潜るのも、そういう生き方をしたいからココにいるだけ。
仕事もするし、潜りもするし、地域のお祭りも手伝う。
これらトータルで新しい生き方として、これからの時代に増やしていけたら、
気持ちよく生きていくことができる」と、
阿部さんは自分に嘘をつかなくていい環境をつくった。

地域活性してやるぜ、と鼻息荒く乗り込むと、空回りしてしまったり、
地元のひとと衝突してしまったり。
それよりも、ただ好きなことをするために、好きな場所に行ってみる。
そしてその地域に根づくという姿勢。
「そのほうが長続きすると思いますよ。
運命共同体であるという気持ちでちゃんと行動していかないと、
“おれたちを利用するのか” “実験台か”と思われてしまいます。
うわべだけの住民参加とか住民合意をやっても、
論理的には納得しても気持ちは納得しないと思います」

海士町が地域活性化に成功したまちとして注目される理由が、
だんだんわかってきた。
地域活性化は、何かを変える作業だと思っていた。でも、そうではなかった。

「“何かを変えること”から始めてはダメ。
“何を残すのか。そのために何を変えるのか”という順番。
残すものをちゃんと見定めないと、何のために変えているのかわかりません。
これを地元のひとと本音で語り合い、共感したものを持っていれば、
“あいつはこれを一緒に残そうしているから大丈夫”と思ってもらえるんです」
と、海士町の将来を真剣に語る阿部さんの顔は、
もうすでに海士町ローカルに見える。

さざえを豪快に網の上で焼いていただいた。

イカ以外にもたくさんの魚介類が水揚げされる。

profile

HIROSHI ABE
阿部裕志

株式会社「巡の環」代表取締役。愛媛県生まれ愛知県育ち。
京都大学大学院(工学研究科)修了後、トヨタ自動車入社。生産技術エンジニアとして新車種の立ち上げ業務に携わる。しかし現代社会のあり方に疑問を抱き、新しい生き方の確立を目指して入社4年目で退社。2008年1月、株式会社「巡の環」を仲間と共に設立。2011年4月より海士町教育委員に就任。大学在学中から自給自足できるようになることを目指し、アウトドアや農業を通して大自然の雄大さ、命のありがたみを学ぶ。海士町に来てからは素潜りにハマる。http://www.megurinowa.jp/

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