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未来を創るニッポンの現場
「長野 安曇野」編
Part1 安曇野のキーパーソン、
臼井さんの哲学

KAI presents EARTH RADIO
vol.005 StoryB-01

posted:2012.6.8  from:長野県安曇野市  genre:活性化と創生

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  俳優・伊勢谷友介さんと放送作家・谷崎テトラさんが、
“未来を作る日本の現場”を求めて、さまざまな土地を巡ります。
コロカルでは、この「EARTH RADIO」を“読む”ための、連動連載をお届けします。

editor profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影:Suzu(fresco)

安曇野の小さな宿で実践する、農的ライフスタイル。

伊勢谷友介さんと谷崎テトラさんによるウェブラジオプログラム
「KAI presents EARTH RADIO」。
今回は、長野県安曇野市で、
パーマカルチャー(持続可能な農的暮らしのデザイン)の心地よい暮らしを実践している
ゲストハウス「シャンティクティ」の農的な暮らしを訪ねた。

標高680メートル。晴れていれば北アルプスを臨む景観。
すごく気持ちのいい場所に森の中に建っている「シャンティクティ」は、
サンスクリック語で平和な巡礼宿という意味の
シンプルさを味わうエコロジカルなゲストハウスだ。
太陽光発電やバイオマスのエネルギーなどをふんだんに利用し、
目の前に広がる畑で採れた野菜をすぐにいただくことができる。
ここには地球にやさしく、豊かな暮らしを送るための知恵があふれている。

手描きのウエルカムボード

手描きのウエルカムボードがお出迎え。これからお世話になります!

宿主の臼井健二さんは、もともと商社に就職したが、
自分でつくっていないものを売ることに抵抗を感じ、1年で商社を辞めた。
旅や山が好きだったので、その後5年間穂高町でやっている山小屋で働くことになる。

「山小屋に着いた人に“ザックを下ろしてお茶をどうぞ”と
おすすめするという単純なことからはじめました。
汗水たらして登ってきた人たちにとっては、最高のごちそうなんですよね。
それだけで気持ちが和みます。魔法のお茶でしたね。
みんなで集まってコースのこと明日の天気のこと、
人生論や生き方も語り合いました。

あとはそこで記念撮影した写真を、年賀状にしてお送りしていたんです。
山に来るのは夏が多いですから、冬に年賀状が届くと、
それだけで感激してくれるんですよ。
みなさん返事をくれるので、当時の穂高町町長より
私のほうにたくさん年賀状が届いたくらいです(笑)。
おかげで宿泊人数も増え、当初年間3500人ぐらいだったところ、
辞める頃には6500人くらいになっていました」

そんな山暮らしに、特に不満もなかった臼井さん。でも、山を降りた。

「静かだし、すごくいい暮らしでした。
雨も太陽もみんなが感じられて、お金を持っていようがいまいがみんな平等。
こんな世界は天国みたいでした。
でも、あまりにきれいすぎるんですよね。
山に住んでいると仙人のように思われがちだけど、
俗人のほうがいいんじゃないかなと。
もっとドロドロしたなかで自分自身を磨いてみたいと思って、
山を下りて理想の宿を始めようと思いました」

臼井さんが理想としたのは、持続可能な生き方ができるエコロジカルなゲストハウス。
理想に燃えてはいたが、お金が全然なかった。

「いただいた年賀状がたまっていたので、
その人たちに“割引券を差し上げますから、会員になって支援をお願いします”
というダイレクトメールを出したんです。
今でいうマイクロファンドのようなもの。
35年ほど前ですけど、2500万円くらい集まりました」

こうしてまずは「舎爐夢(シャロム)ヒュッテ」という宿が完成。
玄米や有機農産物を中心としたマクロビオティック料理を提供し、
パーマカルチャーや自然農の講座、田んぼイベントなども開催。
レストランを併設することで地元とのコミュニティも築き、
自給自足の宿として人気を博した。

団らんスペースには暖炉を設置

団らんスペースでは暖炉が設置され、あたたかみのある場所。多数の本が置いてあるので、サステナブルや自然農の勉強もできる。

ゲストハウスでパートナーシップ型のコミュニティをつくる。

「舎爐夢ヒュッテ」の運営をずっとがんばって引っ張ってきた臼井さん。
でもこれからの時代にあわせて、経営の方向性を変えることにした。

「宿の運営としては特に問題はありませんでした。
でも、ひとを育て、コミュニティというかたちでやっていくには、
トップダウンのリーダー型よりも
パートナーシップ型のやり方が向いているんじゃないかと思うんです。
一昨年くらいからそういう試みをはじめました。
売り上げも経費も、みんなでわける。
問題点もありますが、“自分たちでやるんだ”という積極性も生まれてきましたね」

こうして「舎爐夢ヒュッテ」の運営は若いスタッフに任せて、
みずからは同じ安曇野に「シャンティクティ」という小さな宿をオープンし、
拠点を移した。
こちらは、奥さんとふたりで運営するこぢんまりとした宿。
もちろん、「舎爐夢ヒュッテ」と同様に、
自然農や自然エネルギーなど、パーマカルチャーのヒントがたくさん。
すべて試行錯誤してつくり上げてきた。

「〈舎爐夢ヒュッテ〉のときから、失敗の連続。
でも本来、失敗ということはないんです。
Problem is solution。最後には必ずかたちになるんです。
問題があればあるほど、新しい道が生まれるんですね。
僕たちは四苦八苦しないような生き方を望むけれど、
本当は四苦八苦したほうがいいんです。
波乱万丈の生き方は面白いですよ」

たしかに田舎暮らしにはあこがれるけれども、都会で仕事をしているひとには、
なかなかその一歩を踏み出す勇気がないものだ。

「田舎は結構食べていけますよ。
“霞を食う”ってよく言うけど、霞って“もらいもの”のことなんですよね。
それは天からのもらいもの。田舎はもらいもので循環しています。
まさにつながり。
それを“カスミ率”なんて言ってます。“今日のカスミ率は2割だね”なんて(笑)。
薪やもみ殻もあるし、水は井戸水。食べ物や人、自然とのつながりもある。
お金がかからない暮らしです」

とはいえ、本人が「仙人より俗人のほうがいい」と言うように、
宿にはWi-Fiが飛んでいるし、メールチェックは毎朝の日課だ。
臼井さんが持っていたiPhoneのiOSは最新だし、
取材陣が誰も使っていなかった機能を悠々と使いこなしていた。
一方で、畑の手入れや建物の修繕作業などの手仕事に明け暮れる。
何ごともやりすぎるのではなく、ほどほどに。
それがパーマカルチャーの考え方のベースであり、
臼井さん特有のバランス感覚なのだ。

太陽と風を感じることができるテラス

目の前に広がる畑と、その向こうに北アルプスを眺めながら太陽と風を感じることができるテラス。

臼井さんの農作業グッズ

臼井さんの農作業グッズは、たったこれだけ。ノコギリ鎌があれば、大抵のことは足りてしまうとか。

information

map

ゲストハウス シャンティクティ

住所:長野県北安曇郡池田町会染552-1

TEL・FAX:0261-62-0638

Web:http://www.ultraman.gr.jp/shantikuthi/

profile

KENJI USUI 
臼井健二

1949年生まれ。大学卒業後、商社に1年勤めて退社。穂高町経営の山小屋の管理人として5年間過ごす。1977年に大天井岳の山小屋の管理人をやめ、1979年舎爐夢ヒュッテを立ち上げる。長野県内有数の稼働率を誇る人気の宿となり、自然農、シュタイナ-教育、マクロビオティック、地域通貨、共同体、パーマカルチャーなど、21世紀の循環型社会に必要なキーワードを包み込んだエココミュニティとして注目を浴びている。2006年には、シャンティクティもオープンし、最小コミュニティである家族で運営。現在は拠点を移して活動中。

臼井さんインタビュー動画:http://youtu.be/1eAIUw1OSn0

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