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移住の決め手は尊敬できる人?
美杉町でまたも魅力的な出会い|Page 2

暮らしを考える旅 わが家の移住について
vol.005

Page 2

そもそも、なぜ
移住したかったのか?

山から三重まで巡る旅を終え(連載2~3回目参照)、
しばらくしてまた旅に出発した。
今度の行き先は奈良と和歌山、そしてまた最後に三重に寄るというもの。
今回はカメラマンの仕事と移住先探しを兼ねた、1週間ほどの旅。
奈良県の十津川村では黄金色に実った稲穂と穏やかな山並みに酔いしれ、
和歌山県の田辺市では青く輝く海とそのおいしい産物に心踊り、
そして何度も訪れている三重県の美杉町では、
この土地の空気と水と人は自分たちの肌に合うな~、
ということを再確認した。

奈良県の山間部にある十津川村。空も山も空気も清々しい。

和歌山で出会った絶品の「ひら天」。このひら天を毎日買いに行ける環境は魅力的だな~。

美杉町にて、沓沢家(前回の連載参照)の庭にできた水たまりで遊ぶ子どもたち。雨の美杉はまた特別に幻想的で美しく、私たちの目にはとても魅力的に映った。

さて、それからまた東京へ戻り、いよいよ今度は長い旅に出よう! 
と思っていたのだけれど、私が仕事を詰め込みすぎて
なかなか出発できないでいる。
今回のことではっきりとわかった、自分がいかに無計画な性格であるか。
夫はせっかく会社を辞めたのに身動きがとれず、
私の煮え切らない態度にややいら立っている様子。

それはそうだ。
会社を辞めるという一大決心をしたのに、妻はいままで通りの仕事モード。
私が夫の立場でも間違いなくいら立つだろう。
そんな状況であるがゆえ、最近夫婦喧嘩が増えた。
決して仲が悪いわけではない。
けれど、お酒を飲みながらお互いの思いを打ち明けるうちに、
ついついエスカレートしてしまう。

一時は、夫の退職に合わせて私も休業しようと思っていた。
それを夫に話すと、

「全部断らなくても、できるときは受けたらいいんじゃない?」

という返事が返ってきたものだから、セーブしながらも仕事を続けてきた。
それが、こんなにも身動きのとれない状況になるとは思っていなかった、
というか、読みが甘かったのだ。

「本当に移住する気あるの? テツカは本当はどういう暮らしがしたいの?」

そう夫に詰め寄られる。

そういえばここのところ、東京からの距離とか条件ばかりにとらわれていて、
根っこの部分を忘れていた気がする。
そもそも私はなんで移住したかったんだろう、
どういう暮らしがしたかったんだろう。
あらためて思い返してみた。

私が地方に住みたいと思ったのは、東京の生活にどうも満たされない、
収まるところに収まっていないという
感覚が芽生えたからだった。(連載2回目参照)
どんな暮らし方をすればよいのか最初はまったくわからなかったのだけれど、
次第に自分たちが進むべき方向が見え始めた。
その方向へと導いてくれたのは、自然が豊かな場所で
丁寧に暮らしている人たちの存在だった。

取材や旅で訪ねたなかでも、生活するのに少し不便なのでは? 
と感じられるような地域には、知恵の詰まった人たちがたくさんいる。
工夫しながら生まれてきた暮らしの知恵が、
昔からいまへと大切に受け継がれている。
自然に寄り添いながらその恵みに感謝し、
知恵を駆使してたくましく生きる姿に触れていたら、
いつか自分もそんな人になりたいと思うようになっていた。

祖谷民謡の名手でもある都築麗子さん。

以前、取材をさせていただいた徳島の奥祖谷に住む都築麗子さん。
小さい頃から山間の村で生活してきた都築さんは、
それこそ知恵の宝庫だった。

都築さんに裏山へ連れていってもらったときのこと。
あちらこちらで野草を摘みながら、
中耳炎のときにはユキノシタの絞り汁を耳にたらすとか、
胃腸炎のときは干したセンブリ茶、日射病になったときには
塩で揉んだタデをおへそと足の裏にあてて絞り汁を飲むのだとか、
たくさんの知恵を教えてくれた。

山奥での暮らしに不便はないか尋ねると、「ないな~」と首をひねりながら、

「​田舎は食べるものにお金がかからないからいいよ~」

都築さんはそう笑顔で答えた。
蕎麦を食べたきゃ自分で打てばいい。
天ぷらを食べたくなったら裏山で山菜を摘めばいい。
そうした​工夫や知恵は、
時代を追うごとにどんどんと消え去っている気がする。

それが私にとっては、ひどくもったいないことに感じられる。
そうしたことを経験していくうちに、いままで大切に受け継がれてきた
工夫や知恵を次の世代に伝えるのが自分の使命なんだ! と、
暑苦しい私は勝手に思い込むように なった。

東京育ちの貧弱かつ無知な自分にとって、ゼロからのスタート。
これから知恵を蓄えていくには、そうした人のそばで
自分が暮らし始めてしまうのが一番の近道ではないかと思う。
ふらっと立ち寄れるようなつき合いのなかで学びながら、
それを写真に収めることができたらと思うと、ワクワクして仕方ない。

移住を考え始めた当初は、そうした願望を夫に嬉々として話していた。
けれど、目の前のことに翻弄されているうちに、
そのワクワク感すら忘れていたのだ。

そんな話を三重県に住む友人(前回夫が書いた沓沢夫妻)にしていたら、
美杉町にすばらしい女性がいると教えてくれた。
その方は、地元の素材を使った野草茶や干し野菜などを加工し、
美杉町のマーケットなどで販売しているという。

以前、道の駅でその野草茶を購入したことがあった。
少々癖のある味は男性には受けがよくないかもしれないけれど、
私にはその香りがとても心地よかった。
飲むと体がすっきりして軽くなり、お酒を飲み過ぎてしまった晩に
ぐびぐび飲んで寝ると、二日酔いにならなかった(個人の感想です)。
その野草も山や庭で摘み、すべて手作業で天日干しにしているのだそう。

ぜひその方にお会いしたいと友人に頼むと、すぐに連絡をとってくれた。
そうして、下ノ川という地域に住む坂本幸さんを訪ねることとなった。