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北海道を巡るには、いくつ胃袋があっても足りない、
いつもそう思う。
地物の味がどこまでもおいしいので、味わいたい食材、
試したいひと皿、そして美酒がいくらでもあるのだけれど、
人間の胃袋には容量と消化する力の限界がある。
だから何度も来て、また違う味を試さなくてはならない。
でもそれ以上に、一度知ってしまった味をなぞりたい舌の欲求も
かなえなければならないから大変だ。
滝川町では男前な料理人たちがつくる見事な料理に遭遇した。
〈プティ・ラパン〉はフレンチ、
〈鮨おくの〉は寿司とジャンルが異なるが、
このまちでこんなにおいしく、堅実で、進化と工夫があり、
その上美しい料理に出合えたことがうれしく、驚きが大きかった。
滝川は、かつて炭坑町として栄え、
大きな歓楽街も大変にぎやかだったという。
美唄のまちもしかり。昔から若者のたまり場の喫茶店
〈ぐうりん亭〉で見たチョコレートパフェ。
その正しき姿に、店の内装と同じく強いノスタルジーを感じた。
あらゆる土地から人が集まり、文化が寄せられて、
それらがそれぞれの土地で新たに育まれたのだろう。
つくりの美しいクラッシックなホテルがあったりするのも
その頃の名残だそうで、そんなまちの独特の個性になっている。
野菜、果物、穀類の生産者たちの姿勢も素晴らしい。
おいしいものを厳しい自然とともにつくっていくのは
大変な苦労を伴うはずだが、安全でたくましい作物をつくるために
働く生産者の皆さんの、日に焼けた笑顔は本当に美しい。
自然と一緒に働き生活をともにする人々は、ほのかに野性味を
帯び、肉体的にも精神的にも洗練されている。
たくましさと美しさがその姿に刻まれるのだろうと思う。