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〈Cafe ガシマシネマ〉
佐渡金山の鉱山のまちにオープンした
小さな映画館

おでかけコロカル|新潟編

posted:2020.3.6  from:新潟県佐渡市  genre:旅行 / エンタメ・お楽しみ

PR 新潟県

〈 おでかけコロカルとは… 〉  一人旅や家族旅行のプラン立てに。ローカルネタ満載の観光ガイドブックとして。
エリアごとに、おすすめのおでかけ情報をまとめました。ぜひ、あれこれお役立てください。

writer profile

Yu Miyakoshi

宮越裕生

みやこし・ゆう●神奈川県出身。大学で絵を学んだ後、ギャラリーや事務の仕事をへて2011年よりライターに。アートや旅、食などについて書いています。音楽好きだけど音痴。リリカルに生きるべく精進するまいにちです。

credit

撮影:ただ(ゆかい)

歴史的地区を歩いて、映画の世界へ

長い長い坂道を上り、ふと後ろを振り返ると、
眼下にはかつて港町として栄えたまちと海が広がっていました。
ここは、約400年前に開山した佐渡金山と海の狭間に発展した鉱山町、相川。
そのまちの真ん中を通る道の途中に、佐渡金山の元鉱山長住宅があります。

相川金銀山と奉行所を結ぶメインストリート「京町通り」。(写真提供:ガシマシネマ)

相川金銀山と奉行所を結ぶメインストリート「京町通り」。(写真提供:ガシマシネマ)

家が建てられたのは、昭和10年代。
色褪せた木やコンクリートの門柱は、長いあいだ海風に吹きつけられ、
じっとここに佇んできたことを物語っているかのようです。
木戸には、ユーモラスな字体で〈Cafe ガシマシネマ〉と書かれた
看板がかかっていました。上映スケジュールや映画のポスターも貼ってあります。
こんな所に映画館があるなんて、それこそ映画の世界のよう。

趣のある元鉱山長の住宅を活用。庭もきれい。

趣のある元鉱山長の住宅を活用。庭もきれい。

Cafe ガシマシネマは、2017年にオープンした、カフェ併設の映画館。
大正、昭和時代には佐渡にも複数の映画館があったそうですが、
いまはガシマシネマがあるのみです。

オーナーは、東京から家族で移住してきた堀田弥生さん。
私たちが訪ねていくと、キッチンから朗らかな声が聞こえ、出迎えてくれました。

シアターは、玄関を入ってすぐ左手。
和室を改装した空間に多様なイスやソファ、座椅子が並んでいました。

横幅3.6メートルのスクリーンを備えたシアター(作品により映写サイズは異なります)。

横幅3.6メートルのスクリーンを備えたシアター(作品により映写サイズは異なります)。

いろいろな椅子が並ぶガシマシネマの上映スペース

スクリーンの両脇には和箪笥、その上にはレトロなスピーカー。
まるで、さまざまな来歴を持つ家具たちが個性を主張し合っているかのようです。
ところが、照明が落とされ映画が始まると、雰囲気が一変。
一気に映画の世界に引き込まれていきました。

手づくりのミニシアターはアットホームな雰囲気。

手づくりのミニシアターはアットホームな雰囲気。

「なかなかどうして、ちゃんと映画館でしょう」とにこやかに語る堀田さん。
その笑顔から映画に対する情熱が伝わってきます。
チケット料は、現在はドリンクがついて1000円、
中高生は500円(2020年4月より値上げ予定)。
旧作のみならず、新作も上映されるというのに、破格の値段です。

ガシマシネマのスクリーン

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DIYで映画館づくり!?

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昭和10年代の古民家を映画館に

この元鉱山長住宅は、以前は〈のらいぬカフェ〉という名物店でした
(現在は函館で営業中)。
のらいぬカフェの店主も映画好きで、移転前に
お店を引き継がないかとすすめてくださったのが、そもそもの始まり。

「金山華やかなりし頃は繁華街だったとはいえ、
いまは過疎地の山の上に映画館を開くなんて、と、はじめはさすがに迷いましたが、
決心させてくれたのは、この家の魅力かな。かわいいじゃないですか」

上映もカフェも堀田さんがひとりで切り盛り。

上映もカフェも堀田さんがひとりで切り盛り。

山の上の映画館なんて夢のような話ですが、
いざ決断すると、構想は膨らんでいきました。
それからは、DIYで改装を進める日々。
内装は食品会社に勤める旦那さんが、休日を返上して仕上げてくれました。

「建具の修繕や漆喰塗り、床の張り替えなどはすべて自分たちで行いました。
古道具や廃材を利用した家具は、夫の仕事です。
浴室を厨房に改装する工事は大工さんにお願いしたのですが、
隣でずっと作業を見ることができて、楽しい時間でしたね」

カフェスペース。もとの姿を生かした家具も多く、手前のテーブルはミシン台を再利用したもの。地元の人たちに寄付してもらったイスも。

カフェスペース。もとの姿を生かした家具も多く、手前のテーブルはミシン台を再利用したもの。地元の人たちに寄付してもらったイスも。

かくして、約1年の準備期間を経て手づくりの映画館が完成。
海を望む大きな窓のある部屋は、ロビーとして、
また憩いの場として利用できるカフェに生まれ変わりました。

木の温もりとたくさんの本に囲まれた部屋は、ほっと落ち着ける空間。
古いラジオを改造したスピーカーや佐渡の栃の木を使ったカウンターテーブルなど、
旦那さんの力作も独特の雰囲気を演出しています。

カフェのメニューはカレーや月替わりのコーヒー、
佐渡産の榧(かや)の実を使ったかりんとうなど。
カレーには、地元〈吹上農園〉のおけさ柿が添えられていました。

調理師経験のある旦那さんがつくる、風味豊かな「鶏香味野菜カレー」(650円)。この時期はおけさ柿が添えられていました。(写真提供:ガシマシネマ)

調理師経験のある旦那さんがつくる、風味豊かな「鶏香味野菜カレー」(650円)。メニュー写真は近隣の写真屋さんに依頼して、見栄え良く撮影してもらったそう。この時期はおけさ柿が添えられていました。(写真提供:ガシマシネマ)

本棚には、映画や佐渡にまつわる書籍や漫画、雑誌がぎっしり。
窓辺には、上映作品に合わせてセレクトされた本が並んでいます。
カフェは、飲食のみの利用もOK。
佐渡に関する書籍も多く、歴史散歩の休憩所としてもおすすめです。

「今月の本棚」コーナー。このとき上映していた細野晴臣さんのドキュメンタリー映画『NO SMOKING』の関連書籍をディスプレイ。

「今月の本棚」コーナー。このとき上映していた細野晴臣さんのドキュメンタリー映画『NO SMOKING』の関連書籍をディスプレイ。

本を眺めていると、堀田さんが『君だけのシネマ』という本を見せてくれました。
なんとこちらは、ガシマシネマがモデルになった児童書。
相川出身の児童文学作家、高田由紀子さんが、オープン後まもないガシマシネマを訪れ、
この場所にインスピレーションを受けて書いたといいます。

「この本には、相川の風景も随所に散りばめられています。
すてきな挿し絵をたよりに、まち並み散策をするのもおすすすめです」と、堀田さん。

『君だけのシネマ』高田由紀子著、pon‐marsh絵(PHP研究所)。過干渉の母のために学校に行けなくなっていた中学生、史織が佐渡の中学校へ転校。母と離れ、佐渡で生活するうちに自分を取り戻していく。2019年の新潟県読書感想文コンクールの課題図書にも選出された。

『君だけのシネマ』高田由紀子著、pon‐marsh絵(PHP研究所)。過干渉の母のために学校に行けなくなっていた中学生、史織が佐渡の中学校へ転校。母と離れ、佐渡で生活するうちに自分を取り戻していく。2019年の新潟県読書感想文コンクールの課題図書にも選出された。

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なぜここで映画館を?

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そこに暮らしがあって、映画があれば

堀田さんが映画に目覚めたのは、大学生の頃。
故郷の福島県を出て新潟大学に進学し、とある映画と出会ったことがきっかけでした。

「私は高校の頃まで、自宅と学校の往復のみで、
勉強と部活しかしてこなかったんですね。
それが、新潟市の〈シネウインド〉という映画館でアルバイトを始めて、
人生が一変しました。初めてここで観たのは『さらば、わが愛/覇王別姫』。
たしか、この作品は3回ほど観ました」

大学卒業後は「映画に携わる仕事がしたい」という思いを胸に上京。
映画の宣伝会社や出版社などの仕事を転々としたあと、
中野区にあった映画館〈BOX東中野〉で約1年働き、
映画館が閉館後は〈ポレポレ東中野〉の開館準備、
その後も数年間ポレポレ東中野で接客、事務、宣伝などの仕事に携わります。
その間に新潟県出身の旦那さんと出会い、結婚、出産も経験しました。

そんな堀田さんが佐渡に魅せられるきっかけとなったのは、
まだ結婚前、佐渡に暮らす友人を訪ねたときのこと。

「その友人がとても暮らし上手な人だったんです。
囲炉裏や薪風呂のある家に住み、土地のものを食べて暮らしていて
“こんな暮らしができるんだ”と驚きました。佐渡の海も、すごく気持ちよくて。
東京での仕事は充実していておもしろい反面、育児や食のことを考えると、
自然が身近にあるのは大事だなと思うようになり、
ふたり目の子どもの出産を機に、移住することにしたんです」

映画関連の本を中心にさまざまな本が並ぶ。

映画関連の本を中心にさまざまな本が並ぶ。

そのときの堀田さんに、東京にこだわる気持ちはありませんでした。
むしろ現在の堀田さんには、佐渡で映画館を営む暮らしにこそ意味があるようです。

「私は、生まれ故郷から離れて転々とし、いろいろな場所で暮らしてきましたが、
田舎と都会のいいところを併せ持って暮らしていきたい。
まず、仕事にやりがいを感じられれば、住む場所はどこでもいいと思うんです。

映画館を始めて、何もかもDIYですけれど、
家を改装するのもチラシをつくるのも、楽しいんですよね。
近くの農家さんの果物を使わせてもらったり、
お客様の持ち込み企画に場所を貸したり、地元にいろいろな人がいて、
コラボレーションできるというのもおもしろいじゃないですか。

そうやって商売の循環の中にいられたら、規模はどうあれ、
楽しく生きていける。遊ぶ場所は海も山もありますし。
東京では家族揃って晩ごはんを食べられる日なんて
めったにありませんでしたが、いまは毎日一緒に食べていますしね」

ガシマシネマの店主、堀田弥生さん

ガシマシネマのこけら落とし上映は、『ホドロフスキーのDUNE』。
その後上映された作品は、インド映画の『バーフバリ』、
是枝裕和監督の『万引き家族』、東京・岩波ホールでロングラン上映された
『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』などなど。
話題を呼んだヒット作からミニシアター系の作品まで、幅広く上映しています。

相川の映画館で稼働していたカーボン式映写機を展示。「35ミリ映写機からデジタルまで、メディアを問わずに上映できる映画館を目標にしています。いずれは地域に眠る資料映像なども上映できたらうれしいですね」と、堀田さん。

相川の映画館で稼働していたカーボン式映写機を展示。「35ミリ映写機からデジタルまで、メディアを問わずに上映できる映画館を目標にしています。いずれは地域に眠る資料映像なども上映できたらうれしいですね」と、堀田さん。

最後に、佐渡に暮らす人、佐渡を訪れる人へ
どんな思いで映画を届けているのか、聞かせてもらいました。

「映画は、地域や国を越えて語り合えるテーマ。
だから私は、もっと気楽に、食事をするような感覚で、全国津々浦々
“月に一度は映画館”のような社会になったらいいな、と思います。

チケット料金はこれからもできる限り安くしておきたいですし、
若い方にももっと来てほしい。
自分の居場所や新しい世界を探しているような中高生にも来てほしいし、
今後は若い方に向けても発信していきたいです。
海外でヒットした映画も、知る人ぞ知る映画も、日本の田舎で普通に見られて、
“あの映画、見た?”なんて会話が当たり前になったらいいな、と思いますね」

元鉱山町で映画を見るなんて、なかなかできない体験。
木戸を開けば、おしゃべり好きな館長さんが迎えてくれます。
ぜひ、出かけてみてください。

information

map

Cafe ガシマシネマ

住所:新潟県佐渡市相川上京町11

TEL:0259-67-7644

営業時間:9:30~(通常10:00/14:00 2作品上映 ※変動あり)

定休日:月、火曜

Web:http://gashimacinema.info

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