沖縄県・竹富島
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伝統のミンサー織りは島の誇り。女性たちの仕事が長い間島を支えてきた。伝統織物の体験を指導してくれるのは、島人たちから「ゆみ姉(ねえ)」と呼ばれて慕われる島仲由美子さん。竹富民芸館の館長であり、母親であり、妻であり、お嫁さんであり、そして、現在島に5人いる神司(カンツカサ)のうちのひとりである。
神司とは、神に仕え、神と人との間を取り持ち、祭事を司る人のこと。島人たちは、日々の健康や五穀豊穣、島全体の繁栄を願い、神と交信しながら生活している。困難なとき、迷うとき、神の意志を伝える神司の言葉は強い指針となる。
しかし、神々しい神司としての姿とは打って変わって、普段の由美子さんはやさしく頼りになるお母さんである。神司は5人ともそう。ふたつの顔を持っている。
ただ、由美子さんの場合は、1988年(平成元)に設立された竹富民芸館で、竹富町織物事業組合理事長として、脈々と受け継がれてきた島の染織の心と技を伝え残すという重責をも担う身で、いわば表の顔がふたつある。
かつてはどの家にも機があり、女性たちは誰もが天然の繊維と天然の染料を使って、朝に夕に家族の身の周りの品々を手づくりしていた。娘は母を見て育ち、知恵と心と技術を身につけていった。よく知られる芭蕉布や八重山上布のほか、五つ玉と四つ玉を組み合わせたミンサー帯の模様は竹富島の織物を象徴するものだ。
こうした伝統織物は、特に60年代以降は民芸運動の担い手たちから高い評価を受け、産業の少ない島において大切な収入源となったこともある。しかしこの数十年で、ほとんどの家から機織りの音が消えた。織りを続けようとする人は少ないし、新しく始めようとする人もあまりない。由美子さんは、この事態をなんとかしたいと考えている。
「織りには織る人の心があらわれるもの。その日その日で上手くいくときといかないときがある。自分がどういう気持ちでいるのか、織ったものを見ればすぐ分かるさね。島の女性たちはみんなそうやって手元をたしかめながら毎日毎日自分の道を生きてきたんです」
体験は由美子さんの送迎により竹富民芸館へ出向いて行う。ミンサー柄の小さなテーブルセンターを1時間ほどで織ることができる。