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兵庫県南あわじ市・洲本市

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1 'Nankaiso', the much-talked-about Minshuku ウワサの民宿、南海荘。

そこは、まるで淡路島の粋を
1泊2日で体感するギャラリーだった。

「島風」と名付けられた12.5畳の和室。
部屋に通されると、確かに港町の
民宿の風情ではあるのだが、何かが違う。
しばらく座っていると、そこにある“間”が
緻密に計算されたものであることがわかってきた。
部屋を吹き抜ける丸山港からの風、
心も体も鎮めてくれるような土壁のにおい、
夕暮れどきに差し込んでくる西日が作る光と影。
そこに佇むだけで五感へと浸透してくる
シンプルな空間作りには
何か秘密があるはずだ、と部屋を見渡してみると、
おそらく創業当時から変わらないであろう
オリジナルのゆかたと一緒に
革表紙の小さな冊子が置いてあった。
開いてみると、部屋についての説明書きがあり、
いわばギャラリーの図録のようなものだった。

ほんのりと土のいい匂いを放つ壁は、
左官の森政和氏による淡路土掻き落とし仕上げ。
独特の風合いを持つ壁面は
テクスチャーが主張しながらも和室に馴染んでいる。
食事を供される部屋、「おのころ」の
漆喰壁には、高度な技術を要する
イタリア磨きが施されている。

部屋のシンプルさを引き立たせるデザイン家具。
窓辺にある椅子に座ってみると
腰にしっくりときて肌なじみもやわらかい。
これは、「岡田家具創造堂」の岡田敦氏によるもので
厳選した無垢材を“拭き漆”という技法で仕上げている。
何度も漆を塗っては拭きとるという
丁寧な作業を施すことで出てくる美しい艶が
この触り心地の良さの秘密なのだろう。

壁に飾られた織物やテーブルセンターは
五色町在住の染織家、山下絵里さんの作品。
淡路の土を塗った壁に映えるのは、
やはり淡路の空気を染めて織り上げた布。
季節ごとに変わりゆくのを
常連のお客さんは楽しみにしているという。

さりげなく飾られた陶器は
淡路の土で陶器を作る「樂久登窯」の
西村昌晃さんの作品で、食事にも
彼の作品がふんだんに使われている。

そして、この空間をトータルプロデュースしたのは
一級建築事務所「ヒラマツグミ」の平松克啓さん。
島内の数々の建築物を手がけており、
「そこにあるものそのままに 風景 人 料理……
それぞれの素を感じられるような空間」を意識して
この部屋を設計したと記されていた。

淡路島の粋を集めたこの部屋で
ごろんと寝転がって青い空を仰ぐと
まるで島の土に包み込まれているかのように安らぐ。
そう、ここに揃っているものは
淡路島にあるとっておきの“素”。
素材、素直、素朴……
窓から吹いてくる島風も、この部屋の“素”のひとつ。
実はその“素”というキーワードは
おいしい民宿を作り上げたオーナーシェフ、
竹中淳二さんが民宿を営む上で
一番大切にしていることだった。